俗にして前衛『リミット』
すえのぶけいこ『リミット』が全六巻(2010~2011年講談社、各419円+税、amazon)で完結。
林間学校へ向かうバスが山道から転落。クラスのほとんどが死亡、生き残ったのは数人の女子高生だけだった。山中で救助を待つ彼女たちだが、異様な状況が彼女たちの精神を暴走させる。暴力による支配と服従、そしてついに殺人が……!?
えー、ゴールディング「蝿の王」です。
少女マンガ、しかも別フレ連載、という制約で、こういうお話を描こうとして、しかもそれをやりとげたということに拍手。
不満はいっぱいあります。まず、こちらを信じさせてくれるような「嘘」をつけてないところ。
現代日本で高校のクラスが壊滅するほどの大事故。なのになかなか救助が来ない。マンガ内ではいろんな偶然が重なったと説明がされてはいます。でもすっごい山奥じゃあるまいし、現場の天候も悪くない、彼女たちもたき火の煙を出してる、はずなんですけどね。
遭難者たちの行動もよくわかんない。どうしてそんなふうに状況を悪化させる行動ばっかりするんだー。←ただしこれはすべてのホラー、サスペンスドラマの被害者たちがそうなんですけどね。
別フレですから、最後はハートウォーミングなハッピーエンドが義務づけられています。「蝿の王」からハッピーエンディングにもっていくのはきびしい。本作でも読者を納得させるほど成功しているとは言いがたい。
しかも連載中に震災があったわけです。こういうディザスターを扱ったマンガは、描くのがきつかったでしょう。
しかしそれでも。本作は意欲作です。
現実世界でそれなりのリア充だった主人公が、現実から隔絶した悪夢的世界にほうりこまれることで、現実世界こそが悪夢であったことに気づく、という展開。これが別フレに載ってるわけですからね。
もちろん別フレ読者にとっての悪夢とは、学校生活です。「空気を読んで」「うまく」生きていくことがすべての世界。せまい世界ですが、そこに生きている彼らは外の世界のことを知りません。学校の「外」を極端な形で見せたのが本作です。
さて本作の別フレ的結末のつけかたは。
けっして無垢ではない、現実世界ではむしろ加害者であった主人公は、いろんな行動や言葉で、なんとかみんなをハッピーにしようと泥臭くがんばります。テーマは前衛、しかし展開はまさに少女マンガ、子どもマンガにおける通俗の王道です。
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