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November 08, 2011

タンタンとわたくし(その1)

 スピルバーグ監督のCGアニメ映画「タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密」の公開まであと少し。

映画「タンタンの冒険」公式サイト

映画『タンタンの冒険 / ユニコーン号の秘密』特報映像第2弾!

 これらの予告編(英語版、日本語字幕)を見ると、タンタン自身やデュポンさんは「TINTIN」を「ティンティン」と発音してるみたいなのに、ハドック船長だけは彼を「タンタン」と呼んでるのが不思議。

 ちなみに特報映像第2弾で、字幕ではデュポンだけど音声でトンプソンと言ってるのはご愛敬。

 このあたりは、各国で主要登場人物の名や発音が違うからですね。主人公はフランスや日本ではタンタン、英米でティンティン。相棒の犬はフランスでミルゥ、日本やアメリカではスノーウィ。顔がそっくりの二人組の刑事はフランスではふたりともデュポンだけど、日本ではデュポン/デュボン、英米でトムソン/トンプソン。もちろん世界中でみんな名や発音が違います。

 映画公開前に気分を盛り上げるために以下もどうぞ。

大貫妙子「タンタンの冒険」

シャンタル・ゴヤ「タンタン大好き」

 大貫妙子「タンタンの冒険」は1985年の作品。シャンタル・ゴヤはフランスの「歌のおねえさん」みたいなひと。これはまだ若いときの映像で、いまはけっこうなお年にになられてます。

 それはそれとして、映画のタンタンの顔、あのほりの深さはどうよ。タンタンの目は点じゃなくっちゃと思うのだがどうか。

 さて、タンタン大好きのひとたちのことを「タンタノフィル TINTINOPHILE」「タンタノマニア TINTINOMANIA」と呼称するそうです。わたしは別にマニアじゃないですが、ちょっとだけ所有物をご紹介。

●主婦の友社版「ぼうけんタンタン」シリーズ 『ブラック島探検』『ふしぎな大隕石』『ユニコン号の秘密』

Tintin01

Tintin02

 日本におけるタンタンの、すべてはここから始まった。1968年に発行された主婦の友社版タンタン全三巻です。

 1968年、日本では新書判マンガのブームがおこっていました。雑誌で読み捨てるのがあたりまえだったマンガが単行本にまとまって再発売されるようになったのです。各社から新書判マンガのシリーズが一斉に発売されるようになり、マンガのコレクター=オタクもこの時期に誕生します。

 主婦の友社タンタンもこの時期に発売されました。定価250円は同時期の新書判よりちょっとだけ高い。翻訳は芥川賞を受賞する以前の阪田寛夫。童謡「サッちゃん」「おなかのへるうた」の作詞家としても有名ですね。

 横長の変形判で、ちょうど福音館版タンタンを上下に二分割した大きさです。特筆すべきはすべてのページがカラー、ではないこと。この時代のマンガは、ちょっとだけカラー、ちょっとだけ二色、ほとんどがモノクロ、というのが標準仕様でした。主婦の友社版タンタンは、ちょっとだけカラー、ほとんどがモノクロ。

 登場人物は、タンタン、ミロ、トムソン/トンプソン、ハドック船長(アドックとは発音しません)という、英仏混合の名前。

 しかし阪田寛夫の訳は、ちょっとかんべんしてくれよ、というくらいのものでした。

 「いかにもフランスらしいエスプリ(機知)と、ユカイなことばのやりとりは、新進の放送作家、阪田寛夫先生の、リズム感あふれる訳によって、十分に生かされ、子どももおとなも、ほんとうのマンガの醍醐味を味わうことができます」とありますが、たとえば『ふしぎな大隕石(福音館版では「ふしぎな流れ星」)』のオープニング、●タンタンと○ミロ(スノーウィ)の会話。

●シテキな すてきな よる!
○でもさ なつみたいに あついジャン
●ほしはァ ながれるゥ ゆめの よるゥ~
○むかしのひとはいいました ほしをみるより あしもと みろってネ
●あれに みえるが おおくまざ
●ミロや よく見ろよ でかい ほし!
○どっちだヨン
●やややのや! おおくまざに ほしが ひとつ ふえたァ!
○くまさん びっくり おお クマり

 これが延々と続きます。全篇この調子。あと、こんなセリフも。

「ウキャキャのウキャキャのワッホッホ! こりゃまびっくりぐうぜんのイッチッチ!」
「チョイまちぐさ!」
「ラカンのタカラをまわそじゃないか!」
「ナムアミタンタンゆるしてちょうだいホウレンソウ」

 ええい殴ってやろうかしら。

 というわけで、すでに亡くなられた芥川賞作家に言ってはアレですが、ひどかった。

 さらに。主婦の友社はタンタンを絵本じゃなくてマンガとして発売しました。巻末には「おかあさまがたへ おかあさまが買って与えるマンガです」とあります。

 わが国は、いま子どもはもちろん、大学生、おとなまでが、あげてマンガ、コミックに熱中しています。はんらんするマンガは、ともすれば刺激のみを求めて、あるいはグロ、あるいはエロに流れ、また、全くの荒唐無稽のナンセンスに堕しています。
 これでは、世のおかあさまや先生がたが、マンガを目のかたきにするのも、うなずけます。
 しかし、こういうものだけがマンガではありません。健康な笑いと、あたたかい人間性と、子どもが持ってほしい大きな夢……こういったマンガ本来の姿に立脚した本が、ないわけではありません。

 日本マンガが親から買ってもらうものじゃなくて、子どもが自分のこづかいで買うものに変化しつつあったこの時期、主婦の友社版タンタンは子どもじゃなくて母親に向けて発売されたのです。

 すでに『巨人の星』『あしたのジョー』『ハレンチ学園』の時代です。いっぽうにはつげ義春『ねじ式』が登場しています。日本マンガの勃興期、日本ではタンタンの発行は、読者から完全に無視されました。

 以下次回

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Comments

>日本ではタンタンの発行は、読者から完全に無視されました。

この出来栄えと、この志、そりゃまあ無視されるでしょうねぇ。

ところで、漫棚さんの紹介で単行本をいろいろ購入してしまい、お財布は軽くなるし、気が付けば部屋の中も漫棚空間化してしまい(どこもかしこも本がどっさり)・・・これでも自分の趣味嗜好に合いそうな本だけ選んでいるつもりなのにぃ。

最近流行の「ときめき整理」によって、ブック・オフする所存です。新しいコミックを迎え入れる為に。
ああ!!洗脳されてる~~

Posted by: トロ~ロ | November 10, 2011 06:31 AM

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