プロローグだけなのにすばらしい『鉄楽レトラ』
秋の新作で、もひとつおすすめなのがこれ。
●佐原ミズ『鉄楽レトラ』(2011年小学館、552円+税、amazon)
タイトルが意味不明で覚えにくいのが難点。「レトラ letra」とはスペイン語。英語に直訳すると「letter」ですが、一般的にはフラメンコの歌詞をさすそうです。
「鉄楽」はもっと意味不明で「てつがく」と読ませてます。きっと主人公の高校生、鉄宇(きみたか♂)が音楽みたいな何かを楽しむことになりそれが哲学のごとくであって…… ってやっぱりわからんぞ。
このマンガをレビューするかたたちは、ネタバレしないようにずいぶん気をつかわれてるようですが、タイトルがすでにネタバレなんだからいいじゃん。それにネタバレしても作品の訴求力は変わらんと思うし。
えーと、きっと、フラメンコを題材にしたマンガです。
きっと、というのは、月刊誌連載三回分が収録されたこの1巻では、主人公はまだ踊り始めてもいないから。
中学時代後半を不登校で過ごした主人公。そのひきこもりには理由がありました。彼は高校に進学しても居場所が見つからない。1巻は主人公が自身の再生に向かって何か=フラメンコを始めようとするところまで。つまりまったくのプロローグ。
しかし、すでにここがもうすばらしい。
主人公を再生へ導く家族、祖父と母と妹。祖父は明るく、母は雄々しく(←言葉としてはヘンですが)、妹はりりしく。この部分だけでも読む価値あり、なのですが、決定的なのが書影にある赤い靴。
これはサパトスと呼ばれるフラメンコ用のシューズです。しかも女性用。
主人公はこの靴によって再生へと導かれます。この靴をめぐるエピソードこそがこの巻、最大の見せ場で、いやー、ええもん見せてもろうた。
ひととひとはつながって生きている。すべてのひとは、他人に影響を与えられ、そして与えながら生きている。むだな人間などどこにもいない。
ひとの心を動かすメッセージがこめられた、主人公がふたたび立ち上がるのに十分な説得力を持ったエピソードです。このお話づくりはうまいなあ。
これからの展開が楽しみです。とりあえず主人公の少年は赤いシューズに魅せられています。これを履いてフラメンコの女踊りをするという「奇行」の展開になるかどうか、ここが今後の見どころだ!
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