「ネーム」の話
日本のマンガ用語と海外のそれがずいぶん違ってることがよくあります。
たとえば「ネーム」。ネーム=名前、って何のこと?
日本マンガにおいて「ネーム」とは、かつては「フキダシ内のセリフを文字として書き起こしたもの」ぐらいの意味だったと思います。少なくとも、手塚、石森の時代はそう説明されてました。
なぜネームが重要視されたかというと、フキダシ内のセリフさえ決定していれば写植として早めに仕上げておき、マンガ原稿の完成とともにそれをフキダシ内にはりこんですぐに印刷所に届けることができたから。
つまりマンガ家が遅らせてしまう原稿に対して、編集者サイドから見ていかにすみやかに雑誌を印刷できるか。それを決定するのが「ネームの完成」だったのです。
しかしあたりまえのことですが、ネームが完成するにはフキダシの形が決まってなければならない。フキダシの形が決定するにはコマ構成と人物配置が決まってなければならない。
というわけでその後、ネームの意味は変化しました。現代日本でネームといえば、「マンガのコマ構成、コマ内の人物配置や構図、フキダシ内のセリフを簡易的に表現したもの」という定義が妥当でしょうか。
今やネームはマンガの骨格。ネームさえあればマンガが成立してしまう、というぐらいに重要視されています。つまりネームこそマンガの設計図である。この言葉、ずいぶん出世しましたねえ。
ところがひるがえって海外では。マンガの設計図に「ネーム name」などという言葉が存在するわけもなく。なんでまた、ネーム=名前=マンガの設計図、なんだよ、ってなもんです。
わたしが見聞したところでは、現代日本でいうとことろの「ネーム」の意味で「サムネイル・レイアウト thumbnail layout」の用語を使ってるところが多いみたいです。
そうか、マンガの設計図とは、簡略した絵=サムネイルをレイアウトしたもの。なるほど、わけわからん「ネーム」よりは、ずいぶん納得できる用語のように思います。さて「ネーム」という言葉は、将来も生き残ってるでしょうか。
Comments
>かくたさま
アメコミなら、キャプションってセリフ以外の文章の部分、って感じです。現在の平均的使用法はどうなんでしょうね。
>すがやさま
英米小説の○○ワード、という計算方法っていつまでも慣れません。あれって編集者はどうやって勘定してるんでしょうか。日本式の原稿用紙○○枚に対して枚数をかせぐには改行を多くすべし、と言ったのは筒井康隆。
Posted by: 漫棚通信 | October 06, 2011 08:30 PM
雑誌の記事などを依頼されたとき、「○文字×○行」の意味で「○W×○L」と指定されることがあるのですが、この「W」は欧米の雑誌の文字指定で「Word」のこと。単語が何語(ワード)入るかを指定するもので「文字数」の意味ではない。「W」の指定を見るたび、「○字×○行」でいいのに……と思うのですが、古い?
Posted by: すがやみつる | October 04, 2011 02:23 AM
うちにある「編集校正小事典」を見ますと、ネーム=キャプションの意だそうです。
で、キャプションとは何かというと「さしえ・写真・表などにつける表題や短い説明の文章」とのこと。
戦前の少年誌に、詳説に混じってマンガが掲載されるようになったころ、フキダシの中にいれる活字をキャプションと同一視したなごりでしょうか。
それともそれに先行する絵物語の時代からの用語でしょうか
ちなみに現在でも、雑誌社によっては記事本文までネームと呼ぶところがあるようです。
Posted by: かくた | October 04, 2011 01:55 AM