未完成の魅力『からん』
木村紺『からん』が終了しちゃいましたね。
●木村紺『からん』7巻(2011年講談社、686円+税、amazon)
堂々の完結、というわけではなく、いわゆる打ち切りです。いろんな伏線は回収されず、7巻に書かれた「幕切れ」という作者のことばからも無念さが伝わってきます。
わたしこの作品が大好きでした。すごく意欲的で魅力的なマンガだったのです。
京都にある女子校、望月女学院高等部の柔道部に四人の一年生が入部してきます。経験者はひとりだけで、あとの三人は初心者。初心者組のひとり、京(みやこ)がいっぽうの主人公。138cm、38kgと小学生並みの体格の京は、なんと舞妓さんでもあるのですが、驚異的な身体能力と直観像記憶(=映像記憶)能力の持ち主。本作は彼女が柔道の天才として目覚めていく物語です。
物語の観察者/語り手となるのが、柔道経験者の雅(みやび)。彼女は人間観察における一種のスーパーマンで、あらゆる人間関係に関するトラブルを予測分析できてしまうというひと。
このふたりが主人公です。この紹介でもおわかりになるように、ストーリーを追うタイプのマンガじゃなくて、ひととひととの関わり合いを描いていくマンガね。
こういうマンガですから、その魅力はキャラクターが多彩さと複雑さ。たよりないようで芯がしっかりしてる一年生。心に傷を負った一年生。当面のライバルとなる二年生。さらに『花の応援団』の青田赤道みたいな大石センパイ(♀)。
その他、学内にも学外にも、おとなも子どもも、ひとくせあるキャラクターばっかり登場してきます。まさに群像劇ですね。これって「学園スポーツマンガ」なのに、というか、だからこそ、だよなあ。スポーツマンガはこうじゃなくっちゃ。
さらに本作の意欲的なところは、スポーツだけを描いているのではないところです。柔道の話だけじゃなく、スポーツと関係ないクラスメイトのエピソードも。教師たちや理事長、親たちも登場。そしてなんと、京都という街そのものも重要なファクターになっています。だって主人公、舞妓だし。
まさに全方位をまるきり描こうとした意欲作だったのですよ。
ただし完成され安定した作品ではないので、欠点もいっぱいありました。おちゃらけたギャグがいろいろあるのですが、なにかもうひとつスベってる感がぬぐえないとか、キャラの描きわけに難ありとか、雅の洞察力と行動力がスーパーマンすぎとかね。
なかでも最大の問題点は、月刊雑誌に連載を開始してからまる三年たって、お話はまだ一年生の五月末だということ。ラスボスは千葉在住のインターハイチャンピオンであると明らかにされてますが、いったいいつになったらそこにたどりつけるのやら。
全方位を描こうとした結果、作品内時間経過と連載スピードがアンバランスになってしまいました。
しかしそういう欠点も含めて、意欲にまかせて突っ走ったという感じで、完成されてない魅力に満ちた作品でした。終了は残念ですが、数年間楽しませていただきました。ありがとう。
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