不穏なコメディ『ママゴト』
遅めの夏休みをとって大阪に行ってました。発売日に梅田の三省堂では一冊しか見かけなかったのに、帰ってきて地元の書店に行くと平積みになってました。
●松田洋子『ママゴト』1巻(2011年エンターブレイン、650円+税、amazon)
貧乏と根性のねじくれた人間が登場するコメディを描かせると他の追随を許さない、松田洋子の新作であります。
書籍のデザインに仕掛けがあります。カバーの主人公イラストが表1から背表紙、表4にまたがってます。裏表紙のはしっこに不気味なカラスが描かれてるのが、いかにも不穏。さらにカバーをめくると黒いカラスがいっぱいで、もうホラーですな。
ところが本書は、不穏な雰囲気を秘めながら進行する、奇妙でハートウォーミングな物語。
主人公は広島あたりの地方都市、商店街にあるしょぼいスナックのママ、映子さん(独身、アラフォー)。いろいろあった過去のせいで、性格がちょっとねじれてしまっています。そこへシングルマザーの友人が、息子タイジを彼女に押しつけたまま失踪。映子さんと五歳の肥満児による「親子」生活が始まります。
孤独で荒れた生活を続けていた映子さんは、タイジの存在が次第に自分を癒してくれていることに気づく。彼女はタイジをとおして自分の人生を見つめ直すことになります。ああ、ハートウォーミングだ。
ところがねー、タイトルが『ママゴト』ですからね。その親子関係、ママゴトだから。あんたママのふりしてるだけだから。作者自身がタイトルでもって自分のマンガにつっこんでるなんて、ちょっとないですよ。
ふたりの「親子」関係がいずれ壊れてしまうであろうことは、作者も知ってる、読者も知ってる、さらに映子さんも気づいてる。それがすべての人間に明らかにされている。これこそ本作が「不穏」な作品であるゆえんなのです。
本作にはほかにも魅力的な人物が登場してます。コワモテの借金取りは意外にも子ども好きで、疑似家族のお父さん役か。主人公と対立するご近所のスナックのママは、やたらと恐い顔ですが今月号の連載では意外な一面を見せてました。
しかしなんつっても注目は、疑似家族のお姉さん役、ご近所に住む岩木アペンタエちゃん、小学三年生。東南アジア系の母を持つ彼女も周囲から孤立しています。世間は鬼であると看破し、カイジの守り神となると宣言する彼女は、ヘンに大人びたところと子どもらしい純真な一面を備え持ったダントツに魅力的なキャラクター。
読者としては、彼女も含めて登場人物みんながシアワセになってほしいと願います。でも松田洋子だしなー。そうはならない可能性のほうが大きいような気もするしなー。ああ不穏だ。
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