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August 19, 2011

マンガ界のフォレスト・ガンプによるマンガ史『仮面ライダー青春譜』

 すがやみつる『仮面ライダー青春譜 もうひとつの昭和マンガ史』(2011年ポット出版、1900円+税、amazon)が出版されました。

仮面ライダー青春譜: もうひとつの昭和マンガ史

 著者からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 著者は一部で「マンガ界のフォレスト・ガンプ」と呼ばれています(最初に言ったのは夏目先生だったっけ)。その理由はマンガ史の重要場面に、なぜかいつも立ち会っているから。

 本書は自伝です。わたし、けっこうマンガ家の自伝を読んできたつもりですが、本書はじつに希有な作品となっています。まず、日時と固有名詞がきわめて正確なのです。

 あったりまえじゃん、と思われるかもしれませんが、この部分があてにならない自伝がいかに多いか。というか、マンガ家の自伝は疑って読め、というのがわたしの持論です。だってほかの資料とつきあわせてみると、まったく一致しないことばっかりなんですもの。みなさん、頼みますから適当に書かないでくださいよー。

 その点、本書はじつに正確です。著者の記憶力には驚嘆するばかりですが、それだけじゃなくて、これはきっと調べに調べているから。本書は「自伝」であるだけじゃなくて「マンガ史」としても書かれており、そこに著者の意欲が感じられます。

 自身が読者としてだけ関わっている書誌的な記述も正確で、さらに著者が実際に見聞きした部分も、マンガ史的に破綻がない。ですから本書は、今後も文献としてリファレンスできる作品となっているのです。

 そして、本書のここが大切なところなのですが、とにもかくにも、おもしろい。

 著者は1950年生まれ。子ども時代からマンガに親しみ、マンガ家をめざして高校卒業で上京、アシスタント生活に入ります。その後、奇妙な縁でマンガ編集プロダクションに入社し、「マンガが描ける編集者」生活を送ることになります。

 これが著者をフォレスト・ガンプにしました。講談社の下請けで『巨人の星』『あしたのジョー』の編集をし、『ワイルド7』の単行本を作り、上田としこのインタビューをし、ジョージ秋山の臨時アシスタントをしながら坂口尚や矢代まさこ、松本零士、宮谷一彦にマンガ制作を依頼する。

 いやもう波瀾万丈。しかも時代はマンガにとっても青春期、1970年です。

 その後著者は、石森プロで石森章太郎の薫陶を受け、『ゲームセンターあらし』で人気を得ることになります。本書ではそのあたりまでの半生が描かれていますが、登場人物は多彩、さらにマンガ家として確実に成長していく著書の人生は、失礼ながらたいへんおもしろい。このあたりが娯楽作品としても一級です。

 ネットで発表された作品ですし現在も読むことは可能ですが、やっぱ書籍の形で読むのはステキな経験でした。

 本書で唯一、惜しいところといいますと、虫プロの雑誌「COM」について。著者はみずから「COM」世代であると名のり、「COM」で四コママンガデビューをし、編集者として「COM」の文章記事を書いていたにもかかわらず、本書では「COM」がどういう成り立ちの雑誌であるのか、書かれてないのです。

 本書を読むひとたちなら、そのあたりすべて承知のはずでしょうが、微妙に不親切だったかも。おそらく著者にとってあまりに近い存在なので、書き忘れちゃったのだと思います。

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Comments

 ご紹介ありがとうございました。

 日付の件ですが、初めて上京した日は、色紙に書かれた日付で確認したりしていました。でも、小学生のときに読んだPTA雑誌については、つい最近、そのコピーを入手した結果、ほぼ正しかったものの、若干、誤りがありました。これについては、あとでブログで触れさせていただきます。それ以外については、自分でも驚くほどよく憶えていましたが。

『ゲームセンターあらし』の頃まで書いてほしかった……というリクエストも頂いているのですが、時代的には新しいはずなのに、記憶がゴッソリ抜け落ちています。小説だったりパソコンだったり自動車レースだったりと、そっちのことはよく憶えているのですが。

「COM」世代の件ですが、もちろん創刊号から夢中になって読んでいた割に、でも、縁がない雑誌だろうなと思っていました。たぶん、食べるための手段としてマンガを選んでいたせいです。そのあたりの「不純な気持ち」が、「COM」みたいな、ある意味、純粋な雑誌に精神的な距離感を置いていたのだと思います。上京するときに高校生のときに買った「COM」全号を持っていったりしていたのにです。

 その挙げ句に、石森プロの仕事を始める直前あたりに、「こんな雑誌にこだわっているうちは商業マンガ家になれない」と思い込んで、「COM」の創刊号から終刊間際までの前号をチリ紙交換に出してしまいました。

「COM」のことがあっさりしているのは、こんな「後ろめたさ」も関係しているのかもしれません。


Posted by: すがやみつる | August 20, 2011 03:29 PM

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