書評と批評の違いは何か『ニッポンの書評』
上記のエントリタイトルに書いた設問に対して、知識のあるかたはすぐ答えられるのでしょうけど、わたしにとってはちょっとむずかしい問いでした。これに対する解答がさらっと書いてある本。
●豊﨑由美『ニッポンの書評』(2011年光文社新書、740円+税、amazon)
えっとですね、豊﨑由美+大森望による書籍『文学賞メッタ斬り!』シリーズは四冊刊行されて終了したみたいですが、芥川賞/直木賞に関しては、このおふたり、「予想」と「感想戦」をネットやラジオで継続してらっしゃる。今回の芥川賞/直木賞予想と敗戦の弁もポッドキャストでけらけら笑いながら聞きました。その流れで本書も読んでみたわけですね。
書評論、というより現代日本における書評の立ち位置を述べ、いい書評とは何なのか、を自問自答しながら書いたエッセイ、です。その中でいろんな設問が出てきます。「書評と批評の違いは」「書評の文字数はどのくらいであるべきか」「書評でネタバレは許されるか」「日本と海外の書評の違いは」「評者の自慢になるかもしれない援用はどの程度であるべきか」などなど。
そのなかでネット書評、とくにアマゾンのカスタマー・レビューのひとつを例に挙げて罵倒しちゃってる(文章自体がめちゃくちゃ。論理性のかけらもない。取り上げた本に対する愛情もリスペクト精神もない。頭と感性が鈍いだけ)ものですから、本書はアマゾンでネット書評人からあーのこーのと逆襲をくらっちゃってますけど。でもわたしにはいろいろ勉強になりました。
トヨザキ社長はマンガを読まないかたみたいですので、本書にはマンガのことは一行も出てきません。しかし当然、対象がマンガや映画になっても参考になりまくりです。
著者のいうところの「匿名の」「アマチュアの書評ブロガー」であるわたしは、いつも自分の文章を迷いながら書いています。
あらすじはどのあたりまでネタバレしていいか。ネタバレしないと書けないような複雑な仕掛けをほどこした作品を、どのように紹介すべきなのか。
自分の周囲のこと、エッセイ的なことを書くべきか否か。
大傑作とは思わないけど読んでみていいと思う本を、どのあたりまで誉めるべきか。くだらないと思う作品をブログで取り上げて欠点を書いていいのか。
本書を読むと、こういう疑問がたちどころに氷解する、わけではありません(なんせ著者自身も迷っている)。しかしアマチュアであるわたしたちが目指すべき場所についてのヒントを与えてくれる本だと思います。そういう意味では「ハウツー・書評」として読むのも可能。
ネット時代になり、アマチュア書評ブロガーはプロ書評家の足もとをおびやかしているのだそうです。たしかにその即時性はすごい武器で、発売日その日に書評をあげるのも可能です。じつはわたしも、早い者勝ち、と考えてた時期もありました。
いやあ、若かったのう、ほっほっほ。しかしそれは、質がともなっていたかどうか。自戒するばかりであります。
冒頭の問いに対する答えは、「批評は作家のために書かれるが、書評は読者のために書かれる」です。この場合の読者とは、「まだその本を読んでいない未来の読者」のことですね。
さて、今回のわたしの文章、批評か書評か。いえいえ今回はたんなる感想文です。
Comments
こんにちは。文章っていろいろとむずかしいですよね。トヨザキ社長はいろいろきびしいことを書いてますが、要はこころざしを高く持て、ということなんだろうと思います。
Posted by: 漫棚通信 | July 25, 2011 12:20 PM
ご紹介頂いて興味が出たので拝見ました。
とても参考になりました。
自分もコミックレビューをブログで公開している者の端っこの者ですが、それを定期的に「こなす」ことにこだわるあまり、作品へのリスペクトの無さや一読しただけの底の浅い感想文に堕していることに度々悩まされています。
この本は心地よくその性根に渇を入れてくれました。
自分の今のレビューを名文に変えるような特効薬ではないけれど、それでご飯を食べている方としての姿勢というか真摯さは、レビュアーとしてずっと守るべき大切なメッセージだったと受け止めました。
ご紹介ありがとうございました。
Posted by: meriesan | July 24, 2011 02:53 PM