南條範夫作品に挑戦『腕 KAINA』
南條範夫『駿河城御前試合』といえば、ご存じ山口貴由『シグルイ』の原作小説。マンガの人気にあやかって、だと思いますが『シグルイ』連載途中の2005年に新装版文庫が刊行されました。
●南條範夫『駿河城御前試合<新装版>』(2005年徳間文庫、876円+税、amazon)
表紙イラストは赤くてちょっとわかりにくいですが、山口貴由です。
『シグルイ』のメインストーリーの原作になったのが『無明逆流れ』です。これって文庫本で30ページちょっとの短編。
ところがこの作品、短編にもかかわらず、人間関係、時の流れ、奇想の剣法による試合をいっぱいつめこんである作品なのです。山口貴由はこの作品をベースに、原作にない多数の登場人物や彼らの因縁を描き込んで、鬼気迫る大長編にしあげました。本来『駿河城御前試合』シリーズの別の短編に登場するはずの人物も出てきたりします。
『シグルイ』は原作のある部分を削るのじゃなくて、原作のすべてを取り入れたうえに、妄想をどんどん過剰にふくらませてできた作品です。男同士のアレな表紙イラストのせいもあって、脚色、というより二次創作といったほうがしっくりくる感じですね。
『駿河城御前試合』は奇想の剣法がたくさん登場するだけじゃなく、登場人物たちの情念と妄執がすごい。ここが魅力なので過去にも平田弘史やとみ新蔵がマンガ化しています。そして今回新しく南條範夫作品に挑戦したのがこの作品。
●森秀樹/南條範夫『腕 KAINA 駿河城御前試合』1巻(2011年リイド社、619円+税、amazon)
編集のかたからご恵投いただきました。ありがとうございます。
森秀樹は『子連れ狼』の続編を経て、ますます小島剛夕タッチになってきましたね。
第一巻に収録されてるのは三作。『無明逆流れ』『がま剣法』『疾風陣幕突き』。どれも原作や先行するマンガ化作品と違う脚色をしてあるのが楽しい。
『無明逆流れ』はちょっと残念なデキ。原作は短編とはいえ、いくらでも長くできてしまう作品なので、『シグルイ』は大長編ですし、とみ新蔵作品も相当に長い。森秀樹作品はページ数制限があって魅力的なチャンバラ(伊良子清玄と牛股権左衛門のアレですな)が省略されてしまいました。でも残りの二作品は健闘してます。
『がま剣法』は被虐の主人公の造形と怒りが読ませどころ。原作小説とも平田弘史作品とも違って、救いのあるラストになってます。『疾風陣幕突き』は主人公を、腕は立つけれど愛嬌のある武士にしちゃった。こういうのが作家の個性というものなのでしょう。
Comments
「アレ」といったら、BLでしょう。
Posted by: misao | July 04, 2011 08:24 AM
>男同士のアレな表紙イラスト
「アレ」ってなんですか。
Posted by: a | July 02, 2011 10:18 PM