震災とマンガ:2011年7月篇
しりあがり寿『あの日からのマンガ』(2011年エンターブレイン、650円+税、amazon)が発売されました。
しりあがり寿は、誰よりも震災をテーマにしたマンガを描き続けています。その作品を発表順にまとめたもの。
朝日新聞の四コママンガ『地球防衛家のヒトビト』、そしてコミックビームや小説宝石に掲載された短編が集められています。
地球防衛家のオトーサン、オカーサンは、震災にただぼう然とし、その後思い立って被災地にボランティアに出かけます。短編作品では、原発や放射性物質が擬人化されたり、震災を経た近未来の日本がファンタジーとして描かれています。
現代日本のマンガの多くは、娯楽あるいは笑いを提供するためのものです。なおも悲劇が進行中である現在、それをテーマにマンガを描くとはどういうことなのか、そして読者はそれをどういうふうに受けとめるべきなのか。
それについて深く考えてから描かれたものではありません。そんなことは誰にもわからない。
オビに著者の言葉があります。「『たとえ間違えているとしても、今、描こう』と思いました」
そこに存在するのは、ひんしゅくを買うかもしれないし、スベりまくるかもしれないけど、自分は描く、という強い意志です。
読者が感動するのは、この作者の姿勢、創作者としての態度です。しかし作品そのものに対しては感想がじつに書きにくいのも確かです。このマンガに対する感想は、笑ったでもない。泣いたでもない。感動したでもない。
そういう感想ももちろんあるかもしれませんが、わたしたちはそこでふと立ち止まってしまう。作品に登場するキャラクターは私たち自身です。キャラクターを客観視することができないし、作品を味わうことなどまだまだ無理なのです。
しかしそれでも、今、この現在、こういうマンガが描かれ、読者の前に提出されている。一年後じゃなくて、今、読むべきマンガがここにあります。
もひとつ。「月刊フラワーズ」2011年8月号には、萩尾望都が原発事故をテーマにした作品を描いています。
「ここではないどこか」という連作シリーズの一篇。タイトルは『なのはな』です。
舞台となるのは現代、というより今、現在のフクシマ。主人公の少女はマスクをして小学校に通っています。彼女の祖母はツナミで行方不明なったまま。
主人公の少女は時空を越え、20年前にチェルノブイリに住んでいた少女と、再生の象徴である菜の花畑を幻視することになります。
萩尾望都は今年の3月29日に山岸凉子と対談しています(「Otome continue」6号に掲載)。ここで山岸凉子『パエトーン』が話題に出ました。
『パエトーン』は1988年の作品ですが、震災のあと、ネットで無料公開されています。エッセイマンガというか学習マンガというか、反原発の啓蒙マンガ。作品から受ける印象はずいぶんちがいますが、萩尾望都の描いた『パエトーン』へのアンサーソングが『なのはな』なのだと思います。
この作品も、今、描かなきゃという欲求につきうごかされて描いたマンガです。ですから読者であるわたしたちも、今、読まなきゃ、なのです。
Comments
ご心配お掛けします。
当地、高台にアパートがあったらしく、斜面を埋め立てていた部分が、アパートの半分下でした。
陥没して「全壊認定」です。
引っ越しは、急きょでして、物も本も、全てが移動出来たわけではありませんが~、どうやら落ち着きました。
自分の部屋は未整理状態ですが、マンガ創作が出来ますから、まあまあ。いいかたちで「世に」出せたら…、とは思いますが。なんせ、老体作品。
雑誌が買ってくれる???かとなると、可能性は低いのだと、制作以前から認識しております。
竹熊健太郎氏は「電子版同人誌」出すから、そこへは?と、声を掛けてくれています。
仕上がったら、今度の時期直前に「マンガ、描きませんか~」と、声を掛けてくれた旧知の編集さんに見てもらいます。
その上で、修正や加筆なども行います。
正式?に出来たら、発評の方法も、具体的に練っていくつもりです。
Posted by: 長谷邦夫 | July 28, 2011 10:10 PM
長谷先生、いつもコメントありがとうございます。震災以後の生活からもう落ち着かれたでしょうか。うちも娘が大学進学で上京する時期だったのでいろいろとばたばたしました。震災は今後の日本人作家の創作活動にも影響を与えないはずはありませんが、どういうふうになっていくのですしょう。先生の新作を楽しみに待ってます。
Posted by: 漫棚通信 | July 28, 2011 07:56 PM
今日から、いよいよ仕上げ作業に入った小生の久しぶりのパロディマンガも、実は、大震災・原発の問題が3作ともに、からんだ作品です。
人間の哀しみを、哀しみのまま描かないのも「芸術表現」の最も重要なポイントかと信じます。
いま、ギャグ&ナンセンスマンガ家は、日本の原発事故を大いに笑うべき表現として発表すべきです!!
ぼくの創作再開のきっかけは、水声社クロニクル執筆終了「あとがき」入力時に、地震の直撃!を受けて、壊れた家に2週間寝起きしたことにあるのです。
そんなときに、メモした案が24ページ三作のネームに」なって、今、仕上げているところです。
萩尾先生のお作!
これはギャグではありませんが、静かに悲しみを描いた作品ですね。先生らしい!ぼくはマンガ講師として、一貫して、先生の作品を語ってきたことを、いまさらながら誇りに思っています。
いつ、ぼくらは、フクシマへの想いから離れることが出来るのでしょうか??ぼくは、自分の今回の作品が世にでようが、出まいが~また、原発を語ることになる作品を目指していくはずです。
Posted by: 長谷邦夫 | July 27, 2011 10:51 PM