閉じた世界の楽園『げんしけん』
木尾士目『げんしけん 二代目の壱』(2011年講談社、amazon)が発売されてますねー。
前シリーズは2002年春から2006年春までを描いてましたから、その直後である「二代目」世界は2006年春ね。それにしては『化物語』のセリフとか出てきてるからアレですけど。
これがきっかけになって、旧『げんしけん』全九巻をひっぱりだしてきて再読してました。とまらなくなって、結局ぜんぶ読んじゃった。こういう旧作を取り上げるのも今さらながらですが、感想を少し。
旧『げんしけん』3巻、第14話「インナースペース」てのは、ほんとたいした作品ですねー。
この回、出会って一年にして、斑目(♂、オタク)が春日部さん(♀、notオタク)に対する恋心を自覚してしまう。しかもそれが自分でもよくわかってない、という複雑かつ微妙な感情が描かれます。
この回24ページありますが、場面はせまい部室、登場人物はふたりだけ。しかもほとんどが斑目のモノローグで展開してて、ふたりの会話はすこしだけ。もちろんコメディで娯楽作なんだけど、そのじつはほとんどもう実験作やん。
ラスト近く、同じ場面が9巻、第53話「告白」でくりかえされます。斑目と春日部さんが、もういちどふたりだけで部室で会話しているのです。全体の構成としてもきれいにまとまった作品だなー、と感じます。いやお見事。
ただ今回再読しての感想は、きれいにまとまったけど、閉じてるよなー、というもの。
コメディとして、そして成長物語としてよくできているのは万人が認めるところ。笑いながら、感動しながら、読みましたよ。でも閉じた世界だ。
だいたい学園モノですから、ストーリーの単位は一年です。同じ季節がめぐってきて、学園内では同じ行事がくりかえしあって、世間でも同じイベント、本作の場合「コミフェス」ですが、それがくりかえされる。まずこれが閉じてます。学園を舞台に数年が経過する作品の宿命ですね。
本作は主人公が入学して、まる四年たって卒業するまでのお話で、きれいに完結しました。でもこれも大学生という、モラトリアムの時期における閉じた世界。
しかも彼らの興味はマンガ、アニメ、ゲームという、いわゆるオタク趣味です。オタク趣味に限ったことではありませんが、趣味に淫したひとたちって、自分たちの周辺だけで完結してしまってる印象があります。
というわけで、閉じた世界の3乗なわけです。外部世界からの使者として、パンピーの春日部さんとか笹原妹などが登場しますが、彼女たちも結局このオタク世界にとりこまれてしまいます。
『げんしけん』は閉じた世界における楽園を描きました。登場人物たちが卒業して去っても、「げんしけん」が中央にある限り、そこには永遠の楽園が存在します。読者にとっても、すでにそこから去った者にとっては郷愁で、そこにいたらない者にとってはあこがれ。
でね、そこがすでに明らかになっているのに、続編の存在意義はどうよ、って話なんですが。こんなにまた閉じちゃってていいのかしら。
ファンとしてはキャラクターのその後も知りたかったし、おもしろいからいいじゃん、というものではありますが。
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