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June 18, 2011

監獄マンガというジャンル『囚人リク』

 おー、監獄マンガだ。

●瀬口忍『囚人リク』1巻(2011年秋田書店、419円+税、amazon

囚人リク 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 タイトルが「囚人」ですからもちろん刑務所が舞台ですね。秋田書店のチャンピオンで監獄マンガ、と聞いて、どおくまん『暴力大将』を思いうかべるひとはそうとうに古い。

 刑務所などの監獄を舞台にしたマンガもけっこうあります。すでに監獄マンガというジャンルが形成されてるのかもしれません。郷田マモラ『モリのアサガオ』のようなマジメなアプローチもあれば、土山しげる『極道めし』みたいな変化球もあります。そうだジョジョの『ストーンオーシャン』だって刑務所だ。

 歴史的にいうと日本で監獄マンガのハシリといえば、もちろん梶原一騎なわけです。もっとも有名なのは『あしたのジョー』での鑑別所から少年院にかけてのパート。

 この古典作品で、すでに監獄は二つの側面を持っていることが示されています。警察に捕まったジョーはまず鑑別所にはいり、そこで同室の西や仲間からリンチを受けることになります。つまりこれは監獄の怖い一面。閉鎖空間で逃げ場がなく、暴力が支配する恐ろしい場所です。

 ジョーは、ここでもチカラでのしあがっていく。ここが読者にとって快感となります。

 ところが次に少年院に舞台が移りますと、ジョーは力石というライバルと出会い、ボクシングに目覚めることになります。ここで監獄は、世俗から離れた自己発見と修行の場、に変化するわけですね。

 この閉鎖された監獄がじつは修行の場になる、という設定をそっくりいただいた作品としては、池上遼一/雁屋哲『男組』の軍艦島編や、たなか亜希/橋本以蔵『軍鶏』などがあります。梶原一騎おそるべし。

 とまあ、古典的「ジョー」世界においても監獄という舞台は多面性を持っているのですが、さらにここに「女囚」という要素が加わったりしますともうたいへん。

 お話の方向性が下半身方面に向かい、映画「ナチ女収容所」みたいなエログロ要素がはいってきます。日本作品なら篠原とおる『さそり』があります。

 『さそり』のマンガ版ではけっこう人情話系の回も多かったのですが、映画版のほうはエログロ路線一直線でしたね。梶芽衣子かっこいー。
 
 さて娯楽作品としての監獄モノは、もちろん小説や映画に先行作品がいっぱいあります。監獄モノは捕虜収容所モノのお隣にあって、魅力的な脱獄を描いてきました。

 監獄を舞台にした作品がたくさん存在するのは、「監獄」にいろんな寓意が込められるからです。監獄とはわたしたちを抑圧するシステムそのものであり、社会的正義かどうかは別にして、個人の自由にたいする敵、であることはマチガイありません。つまり監獄とは、家庭であり学校であり会社であり、さらには現代社会そのものをさしているのです。

 でね、わたし以前から思ってたのですが、娯楽作品としての監獄マンガにはふたつの方向性があるのじゃないか。

 監獄マンガの主人公は、だれかと戦う必要があります。戦わないで観察ばかりしてると、花輪和一『刑務所の中』になっちゃいます(それはそれで傑作が生まれるわけですが)。

 ひとつは、監獄内での戦い。具体的にいうと、囚人同士の戦いです。代表的なのが、どおくまん『暴力大将』(の前半)ね。

 『暴力大将』(の前半)は河内矯正院という少年施設に入った主人公が、男気と暴力でのし上がっていくお話。

 同房の室長と戦い、その上の組頭と戦い。勝利を重ねて彼らを仲間としながら、最終的に矯正院を支配するラスボスとの戦い。少年マンガであるのにその抗争には銃まで出てきて、読者を驚かせました。日本監獄マンガ史上の傑作ですねー。

 監獄マンガのもう一つの方向性は、監獄の管理者=所長とか看守に代表される権力と戦うお話です。

 この場合、主人公の最終目標は必然的に脱獄ということになります。こちらのほうがお話の世界は大きくなりますし、「個人」対「個人を抑圧するシステム」という寓意もはっきりしてきます。

 映画ならポール・ニューマン主演の「暴力脱獄」などが有名。マンガだったら不完全燃焼でしたが福本伸行『無頼伝 涯』なんかがそのタイプだった。

 さて『囚人リク』の紹介に戻りますと、大隕石の落下で東京が壊滅した別次元の日本。無実の罪で入獄した主人公のお話です。主人公自身は(1)最終目標は脱獄だ、と宣言してますが、(2)今はまだ同室のボスと戦ってるだけです。

 主人公がスーパーマンじゃなくて、意志が強い「だけ」の少年、というのがなかなかの読ませどころね。

 今のところ『暴力大将』路線を踏襲してるように見えますが、個人的には今後(1)のほうに向かってくれるといいなあと思ってます。

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Comments

梶芽衣子と監獄、で思い出したのですが。
映画の「修羅雪姫」では物語冒頭、修羅雪姫の両親は、父親が殺され、母親は無実の罪で監獄入り。その復讐を果たす為に看守たちに抱かれて修羅雪姫を生む、という設定になっているのですが、原作の漫画ではどうなっているのかご存じありませんか?
自分で調べるべきなんですが、本が見つかりませんで…

Posted by: 冬寂堂 | June 19, 2011 11:33 PM

自己鍛錬の「場」としての監獄というモチィーフの
梶原一騎の発想源は吉川英治「宮本武蔵」の姫路城
天守のエピソードではないかと・・・
また、さらに遡ってデュマの「モンテ・クリスト伯」の
シャトー・ディフのエピソードの影響も(吉川、梶原両者に)
あるのでは・・・(ここにはさらに導師との邂逅という要素も入るわけですが)

Posted by: 流転 | June 20, 2011 12:33 PM

『あしたのジョー』と『男一匹ガキ大将』は、ほぼ同時期の連載ですが、少年院の話は、どちらが先だったのでしょうか。

Posted by: misao | June 20, 2011 05:16 PM

獄中で研鑽を積むというと、大杉栄の自叙伝を思い出します。
まー、学ぶのは外国語ですが。

Posted by: かくた | June 20, 2011 08:29 PM

>冬寂堂さま
「修羅雪姫」の原作マンガでもそのとおりです。
>流転さま
宮本武蔵、原作小説の姫路城シーンってなくってもいいエピソードですよね。「バガボンド」であれを省略したのは正解。
>そうか「男一匹ガキ大将」がありました。少年院は「ジョー」のほうが早かったと思いますよ。「特等」少年院という名称自体、梶原一騎の創作じゃなかったかな。

Posted by: 漫棚通信 | June 20, 2011 08:41 PM

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