勝川克志の落語+マンガ『落語ものがたり事典』
「学習マンガ」が好きだ。
学習マンガというのは、娯楽や芸術を目標とするマンガが全盛となった現代ではむしろ異端となってしまったのかもしれません。しかし本来マンガが持っていた能力を発揮するのに最適な分野なんじゃないでしょうか。
学校や図書館で読むことが多い「学習マンガ」ですが、その特殊な流通のせいか、いちど出版されるとすごく息が長い作品となって版を重ねます。みんなが読んでて覚えてるはずなのに言及されることは少ないですね。
もちろん出来不出来がちゃんとあって、ムロタニツネ象がひとりで描いた「学研まんが世界の歴史」シリーズなんかすごい名作。マンガとしておもしろいうえにきちんとお勉強になるという、二兎を追って成功している作品もたくさんあります。
で、新しくこういうのが出たのですね。
●勝川克志/矢野誠一/佐藤雅志『まんが落語ものがたり事典』(2011年くもん出版、1600円+税、amazon)
そうかそうかそうか、勝川克志がいたじゃないか。と膝を打ちました。
学習マンガらしく大判でハードカバー。分厚い本で41編の落語がマンガ化されてます。わたしが読むより先に、高校生の娘がイッキ読みしてました。
落語のマンガ化といえば、有名どころでは『滝田ゆう落語劇場』(1988年ちくま文庫、880円+税、amazon)があります。わたしの世代では『ロボット三等兵』で有名な前谷惟光『古典落語傑作選マンガ寄席』(2005年木耳社、1500円+税、amazon)あたりを読んで落語に親しんだりしてました。あと高信太郎『マンガ落語大全』シリーズ(講談社プラスアルファ文庫)なんかもありますね。
ところが現代では「落語」というものを知らない世代というのが存在するらしい。先日、尾瀬あきら『どうらく息子』1巻(2011年小学館、524円+税、amazon)を読んでいたら落語を聞いたことがない26歳男性が主人公で、ホンマカイナと思ってしまいました。
しかしまあ現代では落語が学習マンガの対象になってるのは事実なわけです。落語が扱う題材ってのは江戸や明治が多いですから、そのあたり「お勉強」が必要になるのはしょうがないか。
勝川克志による落語のマンガ化は、いやこれがお見事なデキでして、過去の日本を描くことができる堅実な画力。多数のキャラクターを描きわけられる能力。しかも「マンガ的」多彩な感情表現が手練れの技によって表現されています。
たとえば「長屋の花見」にはセリフのある人物が大家さんを含めて七人が登場します。「大山詣り」になると長屋の野郎ども、その女房たちがいったい何人登場するのやら。これを的確に描けるのが勝川克志。
たとえば「火焔太鼓」。大金を手に入れた道具や、そしてその女房の大げさな驚きようが見せ場となってます。さらに「酢豆腐」での若旦那のもだえよう。これらのマンガ表現には笑いました。
勝川克志は落語のオチのあと、必ず余韻のあるコマを挿入して自分の世界を作っています。これがいい。現代の子どもたちは今後、勝川克志で落語の世界を知ることになるのかな。
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