語る四コママンガ『遠野モノがたり』
「ものがたり」じゃなくて「モノがたり」ね。
●小坂俊史『遠野モノがたり』(2011年竹書房、743円+税、amazon)
なぜ「モノ」かといいますと、前作『中央モノローグ線』(書影右)とおそろいのタイトルなんですね。主人公も同じ、書影デザインも同じ、そして「モノローグを多用した四コママンガ」という手法も同じです。
『中央モノローグ線』は、中央線沿線に住む女性たちによる「街」に関するひとりごとで構成された、新しいタイプの四コママンガでした。わたし大好きな作品で、発行された年のベスト5に投票してます。
本書では『中央モノローグ線』の主人公、イラストレーター「なのか」(30歳♀独身)が東京都中野区から柳田国男「遠野物語」で有名な岩手県遠野市に引っ越し。遠野での暮らしをつぶやきます。
引っ越しといっても彼女はこの土地に永住しようというわけではなく、なかば勢いで田舎でありかつ有名観光地でもある遠野にやってきました。二年間だけの転勤族ふう短期滞在。つまり主人公と遠野との間には、居住かつ取材かつ観光の対象であるという微妙な距離感があるわけです。
読者が住む地域によって、読後感がそうとうに違うかもしれない。作者にとっても読者にとっても、田舎バンザイ、遠野バンザイというわけではないところが、かなり複雑な感情が流れるところ。
ですから本書にはこれを補う登場人物がいて、高校を卒業したけど地元で農業を手伝ってる女子、都会から地元遠野に帰ってきた20代後半女子、そして遠野に住む妖怪ざしきわらし(!)。本書は彼女たち四人のつぶやきから構成されています。
前作も笑いを追求した作品ではなかったけど、本書はますますお笑い系四コママンガより遠く離れていってます。絵は単純化された典型的な日本の古典的四コママンガのそれですが、モノローグの内容はそうとうに内省的。
エッセイか私小説まであと一歩のように見えて、きちんとフィクションしてます。
何というか、四コママンガという形式で描かれた新ジャンル?みたいな。手法も仕上がりも、すごく独創的な作品です。
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