絶望先生の微妙なギャグ
久米田康治『さよなら絶望先生』25巻(2011年講談社、419円+税、amazon)が発売されてます。
この巻の収録作品は「週刊少年マガジン」、今年の8号までのものですから、マンガそのものには震災は登場しません。しかし著者の巻末エッセイには震災当日、そしてその後におこったこと、4月某日までが書かれてます。
「少年向け雑誌における風刺マンガ」という希有な存在である絶望先生としては、今後いかに震災を描いていくか、むずかしいところでしょう。笑い(しかもある程度は子ども向け)と震災をいかに同居させるか、注目せざるを得ない。
さて、本書のカバーをめくって表紙イラスト。ここにモノクロで描かれていたのは選挙ポスターでした。
ポーズをとっているのは登場人物のひとり、マリア。非実在青少年かつ不法入国者である彼女がセーラー服のスカートの裾をめくり、こちらを向いてにっこりしている。
そして添えられたコピーは、
4月10日(日)
午前7:00から午後8:00まで
東京都知事選挙
東京都選挙管理委員会
小石川区選挙管理委員会
おおこれは。二重の意味を込めてケンカを売ってる。都知事選に行こう、そして失言知事に反対票を投じよう、というキャンペーンか?
ところが。
この本の奥付によると発行日は4月15日。発売予定日も同じで、アマゾンに入荷したのもほぼその日。わたしが書店で見たのが4月16日です(ウチの地方はいつもちょっと遅れます)。
4月15日発売というのは震災で延期されたものではなく、3月初めには決定されていました。
つまり本書の発売日にもう都知事選が終わってることは、著者も出版社もわかってたはずなのです。暴言知事が再選されちゃった段階で、この選挙ポスターは誰に向けて何を言いたいんでしょ?
さらにところが。
障子を破るのが好きな知事が出馬表明すると報道されたのが3月11日未明。午後になって都議会で正式表明して、その直後に震災。という流れです。それまで知事は、きっと引退するだろうと思われてました。
ひとつの例がこの絶望先生25巻のカバー折り返しの文章。ここに「前都知事」として彼が登場します。
絶望先生25巻のカバーは3月10日以前に書かれたもの。巻末エッセイは3月11日以降のもの。じゃ、表紙の選挙ポスターイラストはいつ描かれたものなのか。
ここはやっぱ3月10日以前だと考えたいですね。
前知事は去った。結果はどうだったかな。今度の知事は非実在青少年問題をどう考えてるのかな。マリアはそういう微妙な目線でこっちを眺めてる、のじゃないか。
それにしても、近未来というか書籍発売日周辺に大きなギャグを仕掛けるとは。その効果、結果はともかく、意気とアイデアはすばらしい。またやってください。
Comments
『絶望先生』は週刊少年マガジン17号(3/23発売)・18号(3/30発売)で休載でした。たぶん16号(3/16発売)掲載分脱稿後は単行本用の加筆修正をしていたのだと思われます。週刊誌連載の〆切って発売日の何日前になるのでしょう? そこから逆算できるかも知れませんね。
Posted by: かくた | April 19, 2011 10:21 PM