震災とマンガ
ごぶさたしてます。
わたしは四国在住で直接の被害はなかったのですが、未曾有の大災害を前にしてぼう然としてました。
この春から上の娘が東京の大学に進学することになってたので、アパートを決めるために上京、の予定だった前日に大地震がおきました。上京をとりやめ、日を改めて上京してアパートめぐりをして、その後入学式が中止になったと言われたり授業開始が延期になったり。新入生もばたばたして大変。というか現在進行形でこれからもこういうことがずっと続くのでしょうけど。
世間では避難とか疎開とかで東京からひとが減ってる(らしい)時期に家族が東京方面に行くのは、親として不安です。しかしまあそれも自分で選ぶ人生。四国にずっと住んでてもこの先、南海大地震がいつ起こるかわかんないわけですし。
大災害が進行中であってもマンガはぽつぽつと読んでたのですが、どうもノリきれない。現代を舞台にしたマンガはすべて「震災前」を描いてることになってしまったわけで、どれもこれも「古く」なってしまいました。
『サラリーマン金太郎』が電子出版で大成功しても、『ハチワンダイバー』が鬼将会と激闘をくり広げてても、『リミット』の女の子たちが殺人鬼におびえてても、これ全部「震災前の世界」でのお話。なんとなく週遅れ、月遅れの雑誌を読んでる感覚です。
現実世界とリンクしてるフィクションは、これからきついですね。日本を舞台にするなら、震災をどのように取り入れるべきか。それとも完全に無視してしまうのか。むしろはっきり過去であったり、完全に架空の世界が舞台のほうが、読者としても安心できてしまう。
さてこのように雑誌や単行本のマンガは震災という大災害をきっかけに「古く」なってしまったのですが、ならば早くも地震や震災を描いてるマンガはあるのか。マンガとしてもっとも即時性に優れてるのは、ネット上に発表されるもののはず。でも日本ではまだまだ主力にはなっていません。となると新聞のヒトコママンガや四コママンガはどうか。
日本で新聞のヒトコママンガはすでにチカラを失ってますが、四コマには人気作品も多いです。
うちは朝日新聞をとっててそのほかの新聞は読んでないのですが、いしいひさいち『ののちゃん』は記事の量に圧迫されて、掲載スペースが小さくなっちゃってますね。『ののちゃん』には震災の話はまったく出てきません。あの世界では、ひたすら平和な日本が続いているようです。
いっぽう夕刊に掲載されてる、しりあがり寿『地球防衛家のヒトビト』は震災ネタを積極的に扱ってます。これまでは地震や原発事故の恐怖や不安を描いてただけですが、本日、ウチの地方の朝刊に掲載された作品には笑わせてもらいました。
会社でトランプ占いをするOL。
▲「で、どうなんだい?」
▽「ちょっと待って」
▽「平穏なハートの4」
▽「光り輝くダイヤのA」
▽「今日は計画停電ないわね…」
▲「よしっ」
▼「おいおい」
つまりこれは「震災後の日常」をネタにしたマンガです。「震災」による「非常時」を笑いとばしてしまえ、と。
思えば関東大震災後に、麻生豊のマンガ『ノンキナトウサン』が登場しました。この作品は震災後の暗い世相を明るくしよう、という企画で始まったそうです。
第二次世界大戦中にはマンガも自由に描けなくなっていましたが、それでも戦時下の日常を笑うマンガが存在しました。
これらと同じように、今後の日本マンガは「非常時の日常」を描くことになるでしょう。きょうの『地球防衛家のヒトビト』はその嚆矢なのです。マンガはいつまでもたくましくあってほしい。それはみんなの救いにもなるはずです。
Comments
地方なので夕刊は無く、昨日朝刊分の防衛家ですが。
津波の跡と思われる光景のみ4コマ、説明抜き。
ギャグ4コマでこれをやられるとかなりの衝撃です。
Posted by: とおりすがり | May 08, 2011 10:38 PM
茨城県に住んでおり、我が家も震災の被害にあいました。でも、なんとか生活できるので、岩手、宮城の方々のため、救援物資搬出入の手伝いをしています。職場は、電力不足のため、節電を奨励し、蛍光灯なし、暖房なしで、ジャンパーを着て仕事をしています。
いしいひさいち『ののちゃん』は記事の量に圧迫さ れて、掲載スペースが小さくなっちゃってますね。 『ののちゃん』には震災の話はまったく出てきませ ん。あの世界では、ひたすら平和な日本が続いている ようです。
そんなことはないですよ。いしい被災地なんてね。これくらいの冗談はいいですよね。
Posted by: misao | April 01, 2011 07:34 AM
毎日新聞の場合掲載までにタイムラグがあるようで、夕刊掲載の森下裕美「ウチの場合は」は03-16(Wed)に震災に(間接的に)触れた作品が掲載されます。03-24(Thu)に掲載された作品に登場したあたらしいキャラクターももしかしたら震災と関係するかもしれません。今後の展開に期待。
朝刊掲載の東海林さだお「アサッテ君」は03-20(Sun)掲載作が影響を受けた最初の作品だと思います。
Posted by: Juno | March 27, 2011 10:06 AM
やはり「ヤネウラ3ちゃん」的な漫画が一番世の中の変化に強いと思いますね。3ちゃんが一時期「マンガ」の代名詞になったのもよくわかります。
大げさなものではないですが、大型台風の体験がそのまま作品に影響を与えた白土三平作品があります。
一九五八年九月末に、日本で初めて公式に名前のついた狩野川台風が上陸します。白土先生は石神井川の氾濫による天井まで水没という被害を受けますが、丁度その時に画いていた作品が「黄金色の花」(1958年)で、主人公が地下道の水流を歩く場面を執筆中だったのでそのリンクに驚き、続いて登場する怪人を「風魔童子」という名前にし、まるで台風の化身のように描写しています。
Posted by: くもり | March 26, 2011 12:46 PM
東京新聞の「ちびまるこちゃん」は、地震後もしばらく地震とは無関係のほのぼのネタが続いていましたが、正直違和感がありました。と思ったら無期限で掲載中止になってしまいました。
難しいところです。
Posted by: CHARADE | March 26, 2011 11:45 AM
済みません。
私も偶然高知なんですけれども、村岡マサヒロさんの高知新聞夕刊に有る「きんこん土佐日記」4コママンガには、web版も含めて震災下に於けるマンガの位置、「社会コミュニケーション性」という機能を改めて感じて居ます。
そうですか、「ノンキナトウサン」って開始はそういった事情だったんですね。
私は震災には遭わなかったんですけど、約2名程津波警報が心配だったり、ネットでマンガで繋がって知り合いに成った人となど、eメールの存在が相互の連絡の取り合いの為随分と重要になってます。
地震とマンガについての考察は、あんまり漫棚通信ブログ版さんにはとても及ばないですけれども、私のブログの方でも少し取り掛かりを始めて居ます。
するとレスポンスとして大川瀬萬画倶楽部さんが私の載せた手塚治虫の『陽だまりの樹』について、安政大地震の描写をそちらのブログでレポートしてくれました。URLを載せて置きます。↓
http://blogs.yahoo.co.jp/okawasemc/19360774.html
Posted by: woody-aware | March 26, 2011 04:56 AM
神戸の時を思い出しました。
漫画では「神戸在住」が、震災後が舞台でした。
高知在住のものなので、今回の地震は他人事ではないのですが、あまりの規模に、南海地震で同程度の地震が来たら、高知の町ごと跡形もなく流されてしまうのかなと思ったりします。
それでも、「いつもの日常」は少し変わってもまた戻ってくると信じています。
Posted by: Buntankonatu | March 25, 2011 09:41 PM
再開を待っていました。漫棚通信さんは漫画全体のことを述べていますが、もう少し狭い意味ではパニック漫画とかはどうなるのかなと思います。『ドラゴンヘッド』のような光景はすでに広範に出現してしまい、なのにあの作品が描いたような略奪やレイプ、無法はほとんど起こりませんでした。もっとシビアでリアルな不安が現実を襲っているわけで。同じ意味で『アイアムアヒーロー』なんかは今後どうすんでしょうかね。
Posted by: 紙屋研究所 | March 25, 2011 08:47 PM