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March 27, 2011

サイレントには意味がある『アライバル』

 ブログは再開しましたが、まだ慣らし運転中。

 震災のさなか、こっそり(というわけじゃないけど)刊行された本も多いです。これもそう。

●ショーン・タン『アライバル』(2011年河出書房新社、2500円+税、amazon

アライバル

 海外ではそうとうに有名な本がやっと邦訳されました。この本、サイレント・グラフィック・ノヴェルと紹介されることもありますが、まったく言葉がありません。

 フキダシがない、セリフがない、擬音がない、さらに異世界が舞台なので登場する文字もアルファベットですらない、というものなので、邦訳も何も。訳した部分はタイトルの「The Arrival」を「アライバル」としたところだけ(なのかな?)。原著を持ってるわたしとしましては、今回の邦訳は買ってませんすみません。

 えっと本書についてはまだ邦訳が出る前、「ショーン・タン『到着』のやさしさとたくましさ」というタイトルで、老舗ミニコミ誌「漫画の手帖 60号」にレビューを書かせていただいたことがあります。

 ですからそっちと内容がダブっちゃいますが、すごくいい本なので簡単にご紹介。

 著者のショーン・タンは1974年オーストラリア生まれ。父親がマレーシアからの移民だったそうです。SF誌のイラストや絵本で評価を得て、ディズニー/ピクサーの3Dアニメーション「WALL-E/ウォーリー」のコンセプトアートに参加したことでも知られてます。

 本書は2006年に刊行されました。上にも書きましたが言葉がまったくないので、誰でも読めます。絵本と分類されることも多いのですが、連続したコマがあってそれを追ってゆくと時間経過とともにお話が進んでいきますから、日本人の感覚ではこれは「マンガ」ですね。

 本書は世界各国でたくさんの賞を受賞しました。わたしが知ったのはイギリス「タイムズ」紙による「ゼロ年代の100冊 The 100 Best Books of the Decade」の35位に選ばれてたから。

 テーマは「移民」です。

 妻と別れて海を越え、全くの異世界に働きに来た男。言葉は通じず、文字もわからない、風景や動物も見知らぬものばかりのその世界で、男が出会うものとは。

 風景の中に文字があってもそれをあなたは読むことができません。読者は主人公に同行して、異世界をさまようことになります。すなわち、言葉がない、あっても読めない、という手法が、移民というテーマと深く結びついているのですね。読者は言葉にたよることなく、本書の内容を理解することを求められます。

 著者はそのために、異世界の風景をすみずみまで細かく描き込んでいます。モノクロですがセピア色の印刷が美しい。造本も書影のごとく、わざわざ古書のように見せかける凝りようです。

 昨年より海外マンガ、しかもオルタナティブ系の紹介がちょっとしたブームみたいになってますが、本書も見のがせない一冊です。

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March 25, 2011

震災とマンガ

 ごぶさたしてます。

 わたしは四国在住で直接の被害はなかったのですが、未曾有の大災害を前にしてぼう然としてました。

 この春から上の娘が東京の大学に進学することになってたので、アパートを決めるために上京、の予定だった前日に大地震がおきました。上京をとりやめ、日を改めて上京してアパートめぐりをして、その後入学式が中止になったと言われたり授業開始が延期になったり。新入生もばたばたして大変。というか現在進行形でこれからもこういうことがずっと続くのでしょうけど。

 世間では避難とか疎開とかで東京からひとが減ってる(らしい)時期に家族が東京方面に行くのは、親として不安です。しかしまあそれも自分で選ぶ人生。四国にずっと住んでてもこの先、南海大地震がいつ起こるかわかんないわけですし。

 大災害が進行中であってもマンガはぽつぽつと読んでたのですが、どうもノリきれない。現代を舞台にしたマンガはすべて「震災前」を描いてることになってしまったわけで、どれもこれも「古く」なってしまいました。

 『サラリーマン金太郎』が電子出版で大成功しても、『ハチワンダイバー』が鬼将会と激闘をくり広げてても、『リミット』の女の子たちが殺人鬼におびえてても、これ全部「震災前の世界」でのお話。なんとなく週遅れ、月遅れの雑誌を読んでる感覚です。

 現実世界とリンクしてるフィクションは、これからきついですね。日本を舞台にするなら、震災をどのように取り入れるべきか。それとも完全に無視してしまうのか。むしろはっきり過去であったり、完全に架空の世界が舞台のほうが、読者としても安心できてしまう。

 さてこのように雑誌や単行本のマンガは震災という大災害をきっかけに「古く」なってしまったのですが、ならば早くも地震や震災を描いてるマンガはあるのか。マンガとしてもっとも即時性に優れてるのは、ネット上に発表されるもののはず。でも日本ではまだまだ主力にはなっていません。となると新聞のヒトコママンガや四コママンガはどうか。

 日本で新聞のヒトコママンガはすでにチカラを失ってますが、四コマには人気作品も多いです。

 うちは朝日新聞をとっててそのほかの新聞は読んでないのですが、いしいひさいち『ののちゃん』は記事の量に圧迫されて、掲載スペースが小さくなっちゃってますね。『ののちゃん』には震災の話はまったく出てきません。あの世界では、ひたすら平和な日本が続いているようです。

 いっぽう夕刊に掲載されてる、しりあがり寿『地球防衛家のヒトビト』は震災ネタを積極的に扱ってます。これまでは地震や原発事故の恐怖や不安を描いてただけですが、本日、ウチの地方の朝刊に掲載された作品には笑わせてもらいました。

会社でトランプ占いをするOL。

▲「で、どうなんだい?」
▽「ちょっと待って」
▽「平穏なハートの4」
▽「光り輝くダイヤのA」
▽「今日は計画停電ないわね…」
▲「よしっ」
▼「おいおい」

 つまりこれは「震災後の日常」をネタにしたマンガです。「震災」による「非常時」を笑いとばしてしまえ、と。

 思えば関東大震災後に、麻生豊のマンガ『ノンキナトウサン』が登場しました。この作品は震災後の暗い世相を明るくしよう、という企画で始まったそうです。

 第二次世界大戦中にはマンガも自由に描けなくなっていましたが、それでも戦時下の日常を笑うマンガが存在しました。

 これらと同じように、今後の日本マンガは「非常時の日常」を描くことになるでしょう。きょうの『地球防衛家のヒトビト』はその嚆矢なのです。マンガはいつまでもたくましくあってほしい。それはみんなの救いにもなるはずです。

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March 06, 2011

やっと春めいてきましたね

 最近読んだマンガからいくつか。

鉄道少女漫画宗像教授異考録 15 (ビッグコミックススペシャル)僕らはみんな死んでいる 2 (クイーンズコミックス)シャーロッキアン!(1) (アクションコミックス)まんが極道 5 (ビームコミックス)JUNKIN' GAP CLASH 1 (IKKI COMIX)


●中村明日美子『鉄道少女漫画』(2011年白泉社、714円+税、amazon

 小田急線を舞台にした短編連作。どれもいいデキだけど、ひとが出会いすれ違う、人生の大切な一瞬を切り取った『彼の住むイリューダ』がすばらしい。


●ゆうきまさみ『鉄腕バーディー EVOLUTION 』7巻(2011年小学館、524円+税、amazon

 『パトレイバー』でもそうだったけど、「正義」とは何か、っていうのが作者にとって大きなテーマらしい。本書ではいよいよ正邪が相対的なものであることが示されてきました。


●星野之宣『宗像教授異考録』15巻(2011年小学館、1238円+税、amazon

 前シリーズも含めて15年、ついに完結。ぱちぱちぱち。宗像伝奇(むなかたただくす)の名前のモデルは南方熊楠だけど、『JIN -仁-』の南方仁もそうですね。二作とも終わっちゃったなあ。


●きら『僕らはみんな死んでいる♪』2巻(2011年集英社、419年+税、amazon

 密閉された空間に閉じ込められた複数の男女、という設定のサスペンスはいっぱいあります。たいていはその中で殺人がおこるのですけど、本書は内部で恋愛を成就させれば脱出できる、という設定。こういうのはオチまで読まないと評価保留ですが、今のところわくわくさせる展開がなかなか。


●池田邦彦『シャーロッキアン!』1巻(2011年双葉社、600円+税、amazon

 わたし中学時代にホームズものは完全制覇してますが、そういうひとは多いのじゃないか。シャーロッキアンというのはホームズが登場する作品の細部の矛盾とかを、あれこれ研究して楽しむひとたちのこと。本書はそのウンチクと現実の小事件を組み合わせたミステリの短編連作。限りなく地味。極限的にへたな絵(パースむちゃくちゃ)。でもハートウォーミングなお話ばかりでほっとしました。


●唐沢なをき『まんが極道』5巻(2011年エンターブレイン、660円+税、amazon

 前にも書きましたが、わたしも親から「まんが極道」と呼ばれてました。描くほうじゃなくて、買ったり読んだりするほうですけどね。先日、全巻読み直したところですが、ネットでマイナーな作品を誉めて評論家ぶるやつ、とかが登場しててコレハオレノコトカ。平静な心では読めない作品ですが、5巻はさらに過激で狂騒的。


●小林じんこ『JUNKIN' GAP CLASH ジャンキンギャップクラッシュ』1巻(2011年小学館、619円+税、amazon

 すっごいひさしぶり?の小林じんこ。これおもしろいおもしろいおもしろい。親元を離れて大学寮で新生活を始めた大学一年生。彼には全身タイツを着て性的興奮を得たいという欲望があった! というヘンタイ的「性」の問題を前面に押し出したコメディ。裸で暮らすルームメイトとか、理想のオナニーを求めている(らしい)ルームメイトとか、下品なガールズトークが大好きなヒロインとか、細部の描写がたまりませんわ。

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