タイムトラベルものとしては納得できないぞ『JIN -仁-』
村上もとか『JIN -仁-』が20巻で完結しました(2011年集英社、619円+税、amazon)。
連載開始から10年。現代の医師が幕末にタイムスリップします。彼が未来の知識や技量をを駆使して市井のひとびとや有名人を救いながら、歴史の流れを変えていくという大きなお話。村上もとからしく、堂々たる風格を持った作品でしたね。
タイムトラベルものといいますと、ハインライン『夏への扉』や映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」でもそうですが、タイム・パラドックスが出現しないようにいろいろと工夫されています。読者側としてはそこをああでもないこうでもないといろいろと理屈を考えるのが楽しい、という一面があります。
ですから本作の最終巻はお話をどうたたむのかが見どころでした。第一巻に描かれた伏線はどうなるのか。
それがねー、タイムトラベルものとしてはねー、「あれ?」なんですよ。
(以下ネタバレします)
(1)2000年、東都大学附属病院に勤務する主人公・仁(34歳)が、謎の人物を手術する。(2)謎の人物とトラブルになった仁が階段から落ちる。(3)仁はタイムスリップして幕末1862年の江戸へ。(4)いろいろあって仁は歴史を改変していく。(5)1868年、40歳になった仁はタイムスリップして2000年へ。(6)40歳の仁は、34歳の自分に出会う。冒頭の「謎の人物」とは自分自身だった。(7)再々度タイムスリップして1868年に戻った40歳・仁は、幕末明治を生き抜きそこで生涯を終える。
(8)いっぽう、2000年の34歳・仁は幕末時代の記憶を持つようになっている。(9)この世界での仁は「仁友堂病院」に勤務している。この世界は仁が歴史を改変した結果できた世界であり、もとの世界とはいろんな部分が違っているのであった。
仁が過去にタイムスリップしたことがきっかけで新しい歴史が作られる、という「枝分かれ型パラレルワールド」タイプのお話です。
さて、違和感のひとつはラスト、幕末で生活した仁の意識と記憶がその後、幕末に戻った40歳・仁と2000年に生きている34歳・仁の両方に共有されるようになることですね。
ふたりの人間が同じ記憶を持つようになる。これってちょっと納得しづらい展開ですが、「意識・記憶」というブラックボックスの中のことなので、SFとしては一応OKでしょう。
このお話の最大の問題点は、上記(5)で40歳・仁が戻った2000年は、すでに改変された歴史の延長線上にある、というところです。つまり(6)でおこったことは、「仁友堂病院」でのことなのです。
最終20巻で40歳・仁が手術してもらったのは、歴史改変前の「東都大学附属病院」なのか、歴史改変後の「仁友堂病院」なのか。これについては20巻217ページ仁友堂病院の医師のセリフ「集中治療室からいなくなった患者」「未だ行方不明のあの患者」から、仁友堂病院であることはあきらか。40歳・仁がジャンプした先は歴史改変後の2000年だったのです。
となると20巻に描かれた2000年で、40歳・仁が出会った34歳・仁は改変後世界に生まれ育ったひとです。冒頭に登場した34歳・仁=すなわち幕末を生きた仁とは、肉体的精神的に(厳密にいうと)別人。パラレルワールドの住人、ということになりますね。
さてそれでは、第一巻冒頭の改変前の世界、東都大学附属病院で手術された「謎の人物」はいったい何者で、どこからやってきたのでしょうか。
彼は幕末からやって来た仁なのかもしれません。しかし、この20巻を費やした長いお話の中で幕末を生きた仁ではあり得ない。だとするとまた別のパラレルワールド、別のお話があることになります。
ここがまったく解明されないまま、物語は終わるのでありました。あー、納得できんっ。
Comments
>第一巻冒頭の改変前の世界、東都大学附属病院で手術された「謎の人物」はいったい何者で、どこからやってきたのでしょうか。
過去何度も複数による仁の歴史改変が行われてるということだな
一巻目が何度目の改変された歴史かは知らないが
どんどん仁による歴史改変が進んで最後には
とんでもない世界になってるが
一回前の仁には微妙に変わった世界なので気づかない
皆パンツ丸出しで生活してるのだがそれはパンツではなくズボンなのでハズカシクない世界とか
Posted by: 名無し | February 09, 2011 06:45 PM
そもそもJINはタイムトラベルものじゃないんじゃないか?
医療薀蓄+異世界来訪系だと思う
この二つの舞台に江戸時代ってのが作者として都合が良かったので江戸になっただけかと
Posted by: sagi | February 09, 2011 09:39 AM
はじめまして、こんにちわ。
漫画の「仁」は一切読んでいないのですが、テレビドラマの方はファンでした。
もちろん、前から漫棚通信さんのファンであります。
そうですか。漫画はそんな展開になるんですねー。
テレビでは「現代の入院患者はタイムトラベルした龍馬」というミスリードがありつつ「でも仁じゃないのか?」と匂わせていましたが、私は「龍馬でも仁でもない」と踏んでいたのですが、違いましたねー。
これからも漫棚通信、楽しみにしております。
Posted by: SYU | February 08, 2011 08:25 PM
私も中盤で読み返して、どうまとめるんだろ?と心配でしたが、第一話でやりすぎたかも?ですね。
まあ江戸を愛でる漫画ですから。
咲と野風、両方ゲット出来てよかったねということでどうでしょう?
Posted by: 1092 | February 08, 2011 02:39 PM