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January 31, 2011

アニメ対ジャパニメーション

 先日ツイッターで、ある日本アニメーション関係者の主張を読みました。

 彼によると、

ジャパニメーションの語源は「放映権はおろか編集権まで売り払った」マクロスやオーガス等のアニメを米国がメチャクチャに編集し台詞も変えたモノを観た日本語の解る日本のアニメ好き米国ファンが「コレは僕達が知ってるアニメじゃ無い「ジャパニメーション」だ」です

ジャパニメーションは米国発祥の「差別語」です

語源は差別語だし、ソレを尊敬語と誤訳して日本中にばら撒いたのも「単なる無知」でしょう?

 このかたは「ジャパニメーション」という言葉が、もともと差別語として発祥したという主張をされています。

 ただしその根拠については言及されていません。そこが残念なのですが、かつて彼に似た主張をしていたひとに岡田斗司夫がいます。

●岡田斗司夫「日本文化としてのアニメ」(キネマ旬報1995年10月上旬号掲載)

 リンク先の文章によりますと、

(1)1975年ごろ、アメリカで「ジャパニメーション」という言葉がつくられた。日本でもマスコミで評判になった。

(2)しかし「ジャパニメーション」とは、アメリカでずたずたに再編集され、テレビでお子さま向けに放映されていた日本製アニメーションのことである。

(3)対して「アニメ」とは、日本製アニメーションをそのまま英語化したものであり、字幕版である。登場人物名も、ストーリーもオリジナルの日本語版に忠実である。

 つまりすごく単純化された「アニメ=善玉、ジャパニメーション=悪玉」論です。

 たしかに現在、日本製アニメーション Japanese Animation は、アニメ Anime と呼ばれることが多く、ジャパニメーション Japanimation と呼称されることは少なくなってるみたいですね。それはなぜでしょうか。

 「ジャパニメーション」という言葉は日本でも1990年ごろには有名になっていました。雑誌「ユリイカ」がジャパニメーションを特集したのは1996年のことです。日本ではどちらかというと、「かっこいい」系の言葉としてとらえられていた、という記憶があります。

 しかしそれ以前から、アメリカのアニメファンは「ジャパニメーション」という言葉にはもひとつ良い印象を持っていなかった、みたいな文章も見かけます。

 かつて日本ビジュアルSFの牙城であった旧「スターログ」誌1987年2月号に、トーレン・スミス「日本製アニメーション(ジャパニメーション)をいじめないで」(大森望・訳)という記事が掲載されてます(目次では「アメリカのジャパニメーション」というタイトル)。

 この記事はジャパニメーションの語源について語られたものではありません。1987年ごろにアメリカで見られる日本製アニメーションは、再編集ものばっかりで困ったものだ、という記事です。つまりそのころジャパニメーションとして販売されアメリカのファンに受容されていたものは不完全なものであるという、在米アニメファンからの不満の表明です。

 この記事からはジャパニメーションという言葉は成立時から揶揄的差別的意味合いがあったとは感じられませんが、そのあたり、じつははっきりしません。

     *****

 さて、上記のようなことをツイッターでつぶやいていたら、いろんなかたから、いろんなことを教えていただきました。ほんとにみなさん、ありがとうございます。

 そのなかでジャパニメーションの語源について書かれた文章としてもっとも信頼性が高いと思われたのが、フレッド・パッテン「"Anime" Versus "Japanimation"」(初出は「Newtype USA」2003年11月号)というエッセイです。

 フレッド・パッテン(Fred Patten)氏は1940年生まれ。アメリカにおける日本アニメ・マンガのビッグネーム・ファンで、Wikipediaにもその名が記載されるほどの有名人です。このエッセイは2004年に刊行された「Watching Anime, Reading Manga: 25 Years of Essays and Reviews」(amazon)という書籍に収録されています。

Watching Anime, Reading Manga: 25 Years of Essays and Reviews

 この本、今ではかなりの部分がグーグルブックスとしてネット上で読めるようになっています。グーグルブックス、すげぇなあ。「"Anime" Versus "Japanimation"」の原文はこの本の85ページから86ページにあります。

 それでは、漫棚通信による和訳をどうぞ。そうとうな意訳ですみません(わたし英語のせいで大学受験を失敗したという過去があります。ご指摘があればすぐに修正しますのでよろしく)。今回の和訳掲載にはフレッド・パッテン氏から許可をいただいていますが、日本語訳の文責はすべて漫棚通信にあります。

     *****

●“アニメ”対“ジャパニメーション”


 フレッドへ、質問です。

 日本製アニメーションを示す言葉として、「アニメ Anime 」と「ジャパニメーション Japanimation 」はどこが違うのでしょうか。同じものだっていうやつもいるし、ジャパニメーションは古い言葉でアニメがそれに代わって使われるようになった、というのを聞いたこともあります。日本製アニメーションをアニメと呼ぶのを知らないビデオショップがジャパニメーションという言葉を作ったという話は本当でしょうか。ジャパニメーションはジャップ+アニメーションという差別的略語だから、真のアニメファンはそういう言葉は使わない、と主張するやつもいます。本当のところはどうなんでしょう。(複数の質問から構成した文章です)


 二番目までが本当だね。それに残りの部分にもちょっとだけ本当のことが含まれてる。1976年から1977年ごろ、日本製テレビアニメーションを見始めた最初のファンたちは、それを「ジャパニーズ・TV・カートゥーンズ」と呼んでた。当時アメリカでアニメーション研究は始まったばかりだったんだ。ファンたちはテックス・アヴェリーやボブ・クランペットのような偉大なアニメーターにインタビューしたり、ワーナーブラザーズやフライシャースタジオの歴史を調べたりしてた。そういうときには「カートゥーンズ」じゃなくて「アニメーション」という言葉を使うように推奨されてたんだ。カートゥーンズはアニメーションのいち形態にすぎない。アニメーションには、ほら、人形アニメーションとかいろいろあるだろう? だから、すぐに初期のアニメファンたちは「ジャパニーズ・カートゥーンズ」じゃなくて「ジャパニーズ・アニメーション」という言葉を使い出した。

 「ジャパニーズ・アニメーション」は、そのうち「ジャパニメーション」と短縮されるようになった。1980年代初めには、この言葉はあっというまにファンたちの間で広まった。この言葉を誰が発明したのか議論されたこともあったね。古いアニメサークルのニュースレターや会報を調べると、もっとも古いのは1978年後半ににカール・ギャフォードという人物が使用した例だ。彼はそれまでにも何回かその言葉を使ったことがあると言ってる。「ザ・ギャフ」がジャパニメーションという言葉を造語したのかどうかは別にして、彼はこの言葉を最も早く使い始めた連中のひとりだろう。ジャパニメーションはファンたちの間で普通に使われる言葉になった。このころには差別的な意味などなくて、80年代に創設されたサークルのいくつかはこの名を名のってる。

 しかしアニメファンの数は少なかった。アニメファン以外の多数の人たちにとって「理解できない言語のカートゥーンズを見ている」連中は、奇妙なオタクだったんだ。「ジャパニメーション」はすぐに「ジャップのアニメーション」という意味を込めて軽蔑的に使用されるようになった。「うろつき童子」みたいに超バイオレントで超エロティックな作品は「ジャポルニメーション JaPORNimation 」なんて呼び方をされたし、すべての日本アニメがそんなものばかりだという連中もいたんだ。80年代後半になると、日本のアニメ雑誌を翻訳するファンも現れるようになって、日本じゃ自分たちのアニメーションのことを「アニメ」と呼んでることが知られるようになった。ジャパニメーションの代わりにアニメという言葉を使えば、まわりの連中から知識が豊富だと思われるし、なにより侮辱してると誤解されることもない。それに「アニメ」のほうが「ジャパニメーション」より、言いやすいし書きやすいじゃないか。80年代後半から90年代初めには、ジャパニメーションという言葉は「アニメ」に置き換わっていった。

 ところが皮肉なことにちょうどそのころ、正式なライセンスのもと日本製アニメビデオがアメリカで販売され始めた。初期の多くのビデオショップやコミックショップは、この新しい商品を売るにあたってジャパニメーションという言葉を使用した。90年代初めのアニメファンは、「偉大なる新しい娯楽=ジャパニメーション」という名で販売されたアニメビデオを喜んで買った。しかしアニメという言葉はすぐに市場でもジャパニメーションを駆逐していった。「ジャパニメーション産業」は「アニメ産業」と呼ばれるようになったんだ。

 今では「ジャパニメーション」より「アニメ」が使用されることが多い。しかし古い言葉は忘れられたわけではない。いくつかの古いサークルやショップは、その老舗ぶりを示すためにも「ジャパニメーション」を使用し続けている。たとえば「ボストン・ジャパニメーション・ソサエティ」はもっとも古くからあるアニメサークルのひとつだし、グリーンズバーグの「ジョイズ・ジャパニメーション」はアニメ専門店のパイオニアだ。彼らはこの言葉の持つ印象的な発音が好きなのだ。それは「アニメ」よりかっこよく聞こえる。「ヤンキー」という言葉にはアメリカ植民地人に対するイギリス人のからかいが込められているが、この言葉を誇りを持って使うひとたちがいる。それと同じだよ。さらに日本語で「アニメ」といえば日本製アニメーションの意味じゃなくてすべてのアニメーションを指すのだから、日本製アニメーションのことは「ジャパニメーション」を使うほうが正確だ、と主張する言語学的原理主義者たちもいる。

 広義ではふたつの言葉に違いはない。アニメのほうが新しく、ジャパニメーションは古い言葉になってしまった。でもジャパニメーションはアニメファンが作った言葉だし、しかも現在なお多くのファンに使われている。この言葉を使ったからといって、アニメについて何も知らないおバカに見えるわけじゃない。ただし口に出すときはにっこり笑って侮辱してないことを表明するようにね(そしてジャップ・アニメーションと発音しちゃダメ)。

     *****

 このエッセイによっていろんなことがわかりました。

(1)「ジャパニメーション」は1978年ごろ、日本アニメファンによって作られた造語である。初期には単純に「ジャパニーズ・アニメーション」を短縮したものであった。

(2)「ジャパニメーション」という言葉が日本アニメファン以外のところで使用されるうちに、軽蔑的な意味合いが付加されるようになった。さらに「ジャップ」という蔑称が含まれていることも気にされるようになった。

(3)「ジャパニメーション」という言葉自体に「困った再編集もの」という意味合いはない。

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Comments

 このジャパニメーション関連のツイートに参加していて思い出していたのが、10年ちょっと前の「Sci-Fi騒動?」でした。『二重螺旋の悪魔』や『ソリトンの悪魔』の梅原克文氏が、自作を「SFでなくてサイファイと呼んでほしい」と述べたことから、主にネットで話題になりました。こちらでも大森さんが話題の中心にいたような……。
 Japanimationという言葉を知ったのはCompuServeのComic Book Forumでしたが、Sci-Fiという言葉を知ったのも同じCompuServeのフォーラムで、そこでSci-Fiの歴史についてまとめたログを発見し、それを参考に書いたのが以下の文章です。
 http://www.m-sugaya.com/sci-fi.htm
 あれから、もう12年も経っていたのか……。

Posted by: すがやみつる | February 01, 2011 09:45 AM

Sci-Fiといえばアッカーマン氏が車のナンバーをSci-Fiにしてた、という話が有名ですね。あれを最初に読んだのはスターログ? それともSFマガジンの野田元帥だったかな。

Posted by: 漫棚通信 | February 01, 2011 11:46 AM

 アッカーマンのクルマのナンバーのことは、こちらの文章でも紹介していますが(参照した原文に紹介されていました)、彼のことを紹介したとすると矢野徹さんあたりかも……と思って確認したら、矢野さんの初渡米は1953年。アッカーマンがSci-Fiを提唱する2年前のことだったようです。
 ほかにも多数の日本人がお世話になっていたみたいですが……。

Posted by: すがやみつる | February 02, 2011 08:59 AM

90年代後半には、ジャパニメーションは差別語ということで、折からのPC(Politically Correct)ばやりの世相とあいまって、北米方面では誰かが使うたびに「やめろ!」というレスがついてネット上ではあっという間に消え去ったような記憶がある。

Posted by: はげ丸 | February 02, 2011 11:39 PM

初めまして。いつも楽しく拝見させて貰ってます。
いきなり本文と全くズレた疑問で恐縮なんですが、連想したことがあるので投稿させて頂きます。
日本の漫画やアニメが海外に輸出され受け入れられているという話題がよくありますよね。特にネットでは、いわゆる”海外の反応”翻訳サイトが大流行したり、海外ファンの動向が話題にされたりします。そしてそういう話題で得てして使われがちな「漫画アニメ」という漠然とした括りがありますが、この「漫画アニメ」の中身って一体何なんでしょうか。
関連ニュースや海外ファンサイトを見るにつけ感じるのですが、「漫画アニメ」として念頭に置かれるのは、メジャーな少年漫画や名作漫画とそのアニメ化作品は当然として、それ以外となると日本人にとってもマニアックな深夜アニメや萌え漫画、エロゲの類まで一気にぶっ飛んでしまう気がしてならない。でも漫画やアニメって多種多様に無限と言っていいほどたくさんあるじゃないですか。そして貴サイトで紹介されてるような良質でそれでいて傍目には地味な青年誌的漫画等が流行に反してフィーチャーされないとすれば、非常に悲劇だと思うんです。
これは単に浅い情報を得ているだけの私の偏見が多分に混じっていることだとは思いますが、ネット世界の情報だとどうにもこういう空気を感じてしまうんですよね。
慢棚通信さんはどう思われますでしょうか。非常にざっくりとした主観まみれの疑問で恐縮なんですが、漫画事情に通じてる方はどう感じているのかなと気になったのでコメントさせていただきました。無視するなりネタにするなり何なりとご返答お願い致します。

Posted by: yabakuro | February 03, 2011 11:29 PM

アメリカのパソコン通信で、japanimationという語が使われている、という話を日本で広めたのは、月刊アスキーの連載「近代プログラマの夕」(の1989年8月号)ではないかと思います。単行本化(1991)された際に収録されています(pp.139-146)。
一方、こちらは2000年ごろ、インターネットのどこかのBBSで聞いた話ですが、パソコン通信ユーザーはjapanimationという語をよく使うが、Usenetでは侮蔑的な語だという扱いをされていた、というわけで、利用者層が異なるネットコミュニティどうしの対立、といったような背景がある、と解説されました。

Posted by: 匿名希望 | February 07, 2011 06:23 PM

コメントありがとうございます。
>yabakuroさま。海外へのマンガやアニメ輸出はたしかに文化の問題でもあるのですが、結局はビジネスなのですね。いかにすぐれた作品でも販売や購読されなければ意味がない。奇しくも2月7日の朝日新聞が世界市場でのマンガ不況を取り上げてました。
>匿名希望さま。ジャパニメーションという言葉はかなり不幸な生い立ちを持ってますが今でも消滅してない、というのはその言葉に不思議なチカラがあるのだと思います。

Posted by: 漫棚通信 | February 07, 2011 09:05 PM

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