あたらしい表現への自負『漫画教室』
『漫画教室』は、手塚治虫によるマンガで描かれたマンガ入門書。今回が初単行本化になります。
●手塚治虫『漫画教室』(2010年小学館クリエイティブ、2380円+税、amazon)
1952年から1954年にかけて雑誌「漫画少年」に連載されたものです。この時期の手塚は、1952年医師国家試験終了後に東京進出。1953年にトキワ荘に転居、1954年に並木ハウスに転居。同年関西長者番付、画家の部でトップになるという売れっ子の時代です。
「漫画少年」には『ジャングル大帝』を連載中。「少年」では1952年に『アトム大使』が終了して『鉄腕アトム』としてリニューアル連載開始。「少年クラブ」には『ロック冒険記』、「少年画報」に『サボテン君』、「冒険王」に『冒険狂時代』、「漫画王」に『ぼくのそんごくう』を連載。1953年には「少女クラブ」で『リボンの騎士』連載開始。その他の単発仕事は数知れず。
まさに質、量ともに子どもマンガ界のトップランナーです。ただし当時の手塚はまだ20代なかばでありました(1928年生まれです)。
その手塚がマンガ家志望者向けに描いた入門書が本作品です。入門書であり、かつマンガがテーマのマンガエッセイでもあり、もちろん娯楽作品でもあり。若い業界のトップランナーが絵も文章も才気煥発に描いていて、楽しく、かつほほえましい作品です。
ゴシップ的に興味があったのが、『イガグリくん』で人気絶頂だった福井英一とトラブルになった回。ある日、怒った福井英一が手塚を訪ねてきます。仲裁役で参加したのが馬場のぼる。
「君は、『漫画少年』に、『漫画教室』を書いているだろう。あのなかで、ストーリイ漫画家は、ページを稼ぐために、むだな手法や、無意味な絵を使っていると書いているが、そこに使われた挿絵はあきらかにおれの『イガグリくん』だ。え、おれのマンガのどこが無意味で、どこがページ稼ぎだ。文句があるなら言ってみろ」(手塚治虫『僕はマンガ家』)
結局この場は手塚が謝り、翌月の連載でわびを入れる形で決着します。自伝で手塚は福井に対するライバル心と嫉妬心を表明しており、この事件の直後に福井英一が急逝したこともあって、きわめて印象的なエピソードになってます。
ところが『漫画教室』でその伝説の回を読んでみますと、これがちょっと違った印象を受けるのですね。
第17回、タイトルは「あたらしい表現1」。戦前のマンガはただ横に歩くだけの単調な表現しかされていなかった。戦後に映画の影響で、さまざまな新しい表現が生まれた。そしてクローズアップや暗転や雲だけのコマなどが例に出されます。
問題になったのはイガグリくんそっくりの少年が登場する連続三コマです。コマの上部には誰かがしゃべってるフキダシ、コマの下部にはそれを聞くイガグリくんの顔のアップ。カメラはその顔にどんどん近づき、みっつめのコマでは顔の上半分しか描かれず、コメカミに流れる汗。
これってどう考えても、「良い例」として出されてるよなあ。ただし、語り手であるナンデモカデモ博士の説明が悪かった。
こういう表現(あらわしかた)が、福井、馬場、うしお、高野、手塚といった人たちによって、ますますドギツクなっていった
だがしょくん こういったえを そのままそっくりまねをすることは考えたほうがよろすい
というのはこういう形式のたいていのものは
マンガ家が別冊フロクかなにかをかくときに手をぬいてはやくしあげるために、かんがえたズルい方法がおおいからです
そんなことをして、ぺーじをかせぐくらいなら、ページをすくなくした方がよろすい
手塚先生、あいかわらずひねくれた書きかたをしてますね。
「ドギツク」とか「手をぬいて」について、解説の中野晴行は「手塚なりの諧謔」「関西風のいささかねじれた笑い」と書いてます。ところが福井英一はそれが理解できずに怒ってしまいました。
わたしの印象としては、手塚治虫は基本的にショーマンで、読者を喜ばせるためにはなんでもするひと。ですから自伝やエッセイも演出過多なところが多々あります。さらに表面的にはヒューマニストですが、ほんとのところ人間という存在を信じていないのじゃないかと思わせるような二面性も持っている。
この回に描かれているさまざまな表現は、手塚としてまさに「あたらしい表現」として自負するところであっただろうと思います。ところがそこが気恥ずかしくて、偽悪的な文章を書いてしまうのが手塚先生。
手塚は、自分と同列に名前をあげた福井英一、馬場のぼる、うしおそうじ、高野よしてる、彼らに対して、マンガの改革者としての同志的感情を抱いていたのじゃないでしょうか。
その後に描かれた第18回「あたらしい表現その2」は、ナンデモカデモ博士が馬場のぼると、羽織袴に下駄を履いた国士風の福井英一(ふたりとも顔は黒塗り)につるしあげられ、新しい表現こそ効果的なマンガ表現であると論破される、という話になってます。
ただし国士風のいでたちは、当時としても悪役のものだったはず。この回を描いたとき、手塚としては福井英一に対し、ちぇっ、せっかくほめたはずなのに、わかってねえなあ、という気持ちだったと想像しますね。
Comments
きも~い。
ああ、遅すぎるよ!パート2。orz
☆
と自分でボケて突っ込む土佐人。
トロ~ロさん、振っと居て遅れて済みません。orzアァ、ナンテコッタ
「けいおん!」、こちらでは最終シリーズの最終回(第26話)しか録画で見て居ないので、このネタ解らないわ…。
すみませんすみません。
Posted by: woody-aware | November 24, 2010 05:06 PM
遅いよ!
Posted by: トロ~ロ | November 24, 2010 04:03 PM
きも~い
Posted by: くもり | November 24, 2010 05:18 AM
すみません・・・・
関西人の性(さが)で
「きも~い」とかのつっこみを期待していました。
すみませんすみません。
Posted by: トロ~ロ | November 24, 2010 03:03 AM
うん、ずーーーっと関西。
あ、いや恥ずかしい。
「けいおん!」の澪ちゃんが恥ずかしくて「アニメ出ない!」って言った気持ちが判ったり・・・・・
Posted by: トロ~ロ | November 22, 2010 01:14 AM
申し訳ありませんが、ふと。
トロ~ロさん、関西人だったんですか!?
Posted by: woody-aware | November 21, 2010 12:54 AM
手塚先生、相当のイチビリやったんやなあ~。
うんうん、なるへそなるへそ。
プロ作家が効果的なページ稼ぎの手法を編み出して悪いわけない。
冗長と受け取られなければ新しい表現方法やもんな~。
Posted by: トロ~ロ | November 20, 2010 05:19 PM
『漫画教室』増刷決まりました。ありがとうございます。
Posted by: 中野晴行 | November 20, 2010 08:42 AM