驚愕のトリック『アナモルフォシスの冥獣』
一読、びっくりした。そしてあわててもう一回読み直した。
●駕籠真太郎『アナモルフォシスの冥獣』(2010年コアマガジン、1500円+税、amazon)
出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。
書影右は、著者の前作『フラクション』(2009年コアマガジン)。そっちはマンガで描かれた「マンガにおける叙述ミステリ講座」でした(かつてわたしが書いた紹介記事はこちら)。
これを読んだときもおどろきましたが、本作はその延長線上にある実践編。
賞金を手に入れるため、外部とは連絡できない部屋に集められた男女六人。その広い部屋にはなんと怪獣映画に登場するような精巧なミニチュアセットが組み上げられていた。そこで繰り広げられる人智を越えた惨劇!
コミックナタリーの紹介では「オカルト作品」、YouTubeの予告編でも降霊術とか呪いが前面に押し出されてるし、アマゾンや本書のオビでは「長編奇想空間」という紹介。
でもねー、はっきりいいますが、本書はミステリ。しかも前代未聞、驚天動地の「アンフェアじゃない」トリックを駆使した傑作ミステリなのですよ。いやもちろん駕籠真太郎ですからホラーなんですが、ミステリ読者にこそ読んでほしい作品。
本書のトリックはマンガという特質を最大限に生かしたものです。この場合マンガの特質というのは、静止した絵が連続する、コマというものに画面が制限される、注目する物体は細かく描き込むけどその他の部分は省略することもある、などなどです。マンガをつきつめて考えればこういうのも可能なんだー。ちなみに、ご存じかもしれませんがアナモルフォシスとは「だまし絵」のことね。
しかも本作では、作中人物が作中人物に対して仕掛けるトリックと、作者が読者に対して仕掛けるトリックが見事に連動しています。
『金田一少年』や『コナン』を遠く引き離し、これぞマンガで描くミステリの極北!
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Comments
おっしゃるとおりこのトリックはいろんな映像作品に流用できると思います。そのあかつきには「駕籠トリック」の名て有名になるのじゃないかと。
Posted by: 漫棚通信 | November 24, 2010 09:24 PM
おっしゃる通り。『アナモルフォシスの冥獣』はマンガで描くミステリの極致です。しかも、『フラクション』は漫画でしか使えないトリックなのに、『アナモルフォシスの冥獣』は映像化も可能な、ミステリなんです。こんなことやられては、ミステリ作家はどうしたらいいのだろうか。霞流一さんも同様の感想でした。
http://www.fujiokashin.com/criticism.html
Posted by: 藤岡真 | November 24, 2010 04:59 PM