秋の海外マンガ(その2)
続いては小学館集英社プロダクションから。
●グラント・モリソン/デイブ・マッキーン『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』(2010年小学館集英社プロダクション、2600円+税、amazon)
こちらも出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。
『アーカム・アサイラム』とは、バットマンの街ゴッサム・シティにある犯罪者専用の精神病院。バットマン世界で異形の犯罪者たちは全員、刑務所じゃなくてここに収容されます。まあみんな年がら年じゅう脱走してますので、少しはセキュリティについて学習してくれよと思う施設なわけですが。
本書ではアーカム・アサイラムで暴動が起き、それを鎮圧しようとするバットマンが自身内部の狂気と向き合うことになる、という重いテーマの作品。原著は1989年発行。2000年に小学館プロダクションから邦訳出版されたものの復刊になります。
テーマが狂気で、しかもデイブ・マッキーンの手による本書のアートがまた狂的。ペイント系と呼ばれる作品ですが、アメコミとしては空前にしておそらく絶後のアートで描かれる狂気の傑作。書影に描かれてるのはジョーカーです。カバー絵だけじゃなくて全編このタッチの絵が続くのですよ。
これ以後このタイプの作品はアメコミじゃなくて、BDに後継者を探さなくてはならないでしょう。もちろん日本マンガに類するものはありません。アメコミの鬼っ子、極北というべき作品です。
旧版と比較してみましたが、訳者(高木亮/秋友克也)は同じなのに新訳になってます。どこが「完全版」かといいますと、ライターのグラント・モリソンが書いた脚本(文章だけ)全編と「サムネイル・レイアウト」(日本でいうところの「ネーム」ですな)の一部が掲載されてます。当然、完成形とは違ったもので、これアメコミの制作過程を知るためのすごく興味深いサンプルです。
あと旧版にはなかった(ような気がする)石川裕人による脚注がついてきます。かつて買いそびれたかたはぜひどうぞ。
●マイク・ミニョーラ『ヘルボーイ壱 破滅の種子/魔神覚醒』(2010年小学館集英社プロダクション、3300円+税、amazon)
●マイク・ミニョーラ『ヘルボーイ弐 チェインド・コフィン[縛られた棺]/滅びの右手』(2010年小学館集英社プロダクション、3600円+税、amazon)
ミニョーラのスタイリッシュな絵が人気の「ヘルボーイ」は、1999年の邦訳開始以来、小学館プロダクションより五冊、ジャイブより五冊が出版されました。
このうち小学館プロダクションから発売された初期四冊が、二冊ずつの合本となって復刊。残りの一冊『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』はイレギュラーなクロスオーバーものなので、今回はパスされてます。
『ヘルボーイ』も、最近入手できるジャイブの『プラハの吸血鬼』や『闇が呼ぶ』や『百鬼夜行』では、ミニョーラはストーリーだけで絵は別人が描いてることが多くてちょっとがっかりなのですが(『プラハの吸血鬼』に収録されたリチャード・コーベンとの合作という珍品は笑えますけどね)、やっぱ初期ヘルボーイはいいっ。
ミニョーラの描く絵はつくづくかっこいいですなあ。
(この項さらに続く。ひっぱりすぎてすみません)
Comments
うーん、おっしゃるとおりです。わかりにくい文章ですみません。じつはわたしが最近まとめて読んだということもありまして、アメコミのマッキーンとBDのニコラ・ド・クレシーは同じ方向を向いてるんじゃないか、なんてことを考えてたのです。きっと違うと思いますけど。
Posted by: 漫棚通信 | October 21, 2010 05:43 PM
わたしがコメントするのがふさわしいかどうかわかりませんが、アメリカのコミックスにはデイブ・マッキーンの前にも後にも(もちろん『アーカム・アサイラム』の前にも後にも)ペイント系のアーティストはいますし、マッキーン自身も某アーティストの影響下にあることを隠していません。
ただマッキーンが『Mr. Punch』などで試しているスタイルは彼以外やっている人はほとんどいないと思われるますので、そちらに関しては”空前にしておそらく絶後”と言えるかもしれません。
漫棚通信さんの本文の意図を誤読したコメントでしたら、すいません。
Posted by: ceena | October 20, 2010 10:16 PM