秋の海外マンガ(その1)
1945年以来の海外マンガ邦訳は「あざなえる縄が如し」で、いっぱい出たりほとんど存在しなかったりの繰り返しなのですが(ファンはもう、だいたいそういうものだと達観してます)、最近はそうとうにいい感じ? この秋もいろいろと出版されてます。
●『euromanga ユーロマンガ』5号(Euromanga合同会社/飛鳥新社、1500円+税、amazon)
年二回刊でBDを紹介する雑誌も5巻が刊行。こうなったらもう偉業といってもいいんじゃないかしら。
編集されてるトゥルモンド氏よりご恵投いただきました。ありがとうございます。とか言いながら、本が届くより前に自分自身で購入してしまってたのですよ。一冊ダブって、さてどうしましょ。
じつをいいますと初期は、おつきあいといってはアレですが、ご祝儀気分で買ってたところがあります。ところが最近は、作品そのものがおもしろいっ。BDのリーダビリティを再確認しました。どの作品も先を読みたくなるものばかり。
BDの一巻を二回にわけて収録してる「ユーロマンガ」では、今回の5号は各巻の前半部分だけが掲載されてます。偶然かもしれませんが今回は号またぎで、さあ次はどうなる、という終わりかたばっかり。主人公が川に落とされてさあどうなる、テロリストと出会ってさあどうなる、敵を殺してしまったかもしれなくてさあどうなる。「ユーロマンガ」がストーリー的に「おもしろい」作品を選んでるのがよくわかりました。
個人的な感想では、ディズニー的でもなく日本マンガ的でもない、『赤いベレー帽の女』がすばらしいです。第二次大戦中、ドイツ占領下パリの女性レジスタンスが主人公。こんなマンガは読んだことがありません。
●ジェフ・ローブ/ティム・セイル『バットマン:ダークビクトリー』全二巻(2010年ヴィレッジブックス、各3200円、3300円+税、amazon)
えーと作品の成り立ちについての説明が長くなるのがアメコミの難点ですが、まず1987年に描かれた『バットマン:イヤーワン』という作品がありましてね。
脚本が『バットマン:ダークナイト・リターンズ』のフランク・ミラー。バットマンがいかにして誕生したか、その「一年目」を新たに創造し直したのが『イヤーワン』です。これはすっごい傑作で日本でも複数回翻訳出版されていて、現在もヴィレッジブックスから現役で手に入ります(→amazon)。
その10年後、1996年に『イヤーワン』の続編として描かれたのがジェフ・ローブ脚本、ティム・セイル絵の『ロング・ハロウィーン』(→amazon)です。
じつは『イヤーワン』には『イヤーツー』という続編もあったのですが(のちに『スポーン』を描くことになるトッド・マクファーレンが参加してたことでも知られてます)、『ロング・ハロウィーン』が描かれるにあたって、『イヤーツー』はなかったことにされてしまいました。こういうことがあるからアメコミはややこしいっ。
『ロング・ハロウィーン』は『イヤーワン』の登場人物や設定をそのまま流用して描かれた純粋な続編でした。ゴッサム・シティの暗黒社会を舞台にした不気味な連続殺人。マフィアとバットマン的怪人が跋扈する世界で苦悩する検事ハービー・デント。ダークな世界で繰り広げられるミステリで、最近の映画「バットマン」のイメージは『イヤーワン』と『ロング・ハロウィーン』から影響を受けたと言われてます。
で、今回邦訳された『ダークビクトリー』は、『ロング・ハロウィーン』のさらに続編。脚本と絵は前作と同じふたりです。『ロング・ハロウィーン』事件はまだ終わっていなかった。関係者を巻き込み、さらに連続殺人は続く。この作品内でバットマンとロビンが出会い、チームが形成されます。
ティム・セイルの絵がすばらしい。B&Wでも成立するくらい黒の面積が多い絵は平面を強調したもので、おそらくこういう絵の日本マンガは過去にさかのぼっても存在しません。アメコミとしても(きっと)少数派なんじゃないかな。
「オルタナティブ系に近いメインストリーム」というべき存在でしょうか。
(この項続く)
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