下品で極悪『半田溶助女狩り』
日本マンガ史上、もっとも下品で極悪なキャラクターは誰か、という問いに答えるのはむずかしそうに思われるかもしれませんが、これが意外と簡単。山上たつひこ描くところの「半田溶助」である、というのが衆目の一致するところでしょう。
半田溶助が登場する作品が復刊されました。
●山上たつひこ『半田溶助女狩り』(2010年フリースタイル、1500円+税、amazon)
出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。
これまで何回も単行本化されてますが、今回の書影デザインは精子だな。作品の思想を正しく継承してますね。
えーと、半田溶助さんとはこういう顔のおっさんです。このひと、ギャグマンガのキャラクターですからいろんなシチュエーションで登場します。マッドサイエンティストであったり、電器屋のオヤジであったり、謎の公務員であったり。でもやってることは同じ。他者、だけじゃなくて自分も含めてあらゆるものをおちょくりまくります。しかもやってることがとことん下品でエロいったら。
これを読んで大笑いするひとが1/3、あ然とするひとが1/3、怒り出すひとが1/3、というところでしょうか。この率は、作品が発表された1975年ごろも現代も変化してない、のじゃないか。つまりいつまでも古びていないのです。
たとえばですなー、誘拐された娘を捜索中の半田さん、娘の母親とふたりきりになったとたん、母親をゴーカンしようとする。全裸で縛られてる娘を発見したとたん、娘を襲おうとする。
倫理などとは無縁。欲望のままに生きる半田さんがなぜこういう行動をとっているかといいますと、すべては「笑い」のためです。狂騒の笑いを追求した傑作。
見知らぬゆきずりの女性だろうがお得意先の奥さんだろうがおかまいなし。ついには産婦人科の分娩室に乱入し、分娩中の女性を犯す、というこの世のものとは思えない光景が読者の前に展開します。
山上たつひこが身をもって提唱した「笑い」のためには何をしてもいいのだ、という思想は後進にひきつがれ、直接の山上チルドレン(いっぱいいて数えきれません)だけじゃなくて、現代の田中圭一や田丸浩史にいたるまで、すべてのギャグマンガ家は山上たつひこが切り開いた道を歩いているのです。
山上たつひこが本作品群を描いたのは『がきデカ』初期と重なる1974年~1976年。子ども向けである『がきデカ』を描くことでたまったフラストレーションを、本作ではらしていたのじゃないでしょうか。
半田溶助は『がきデカ』終了後の「週刊少年チャンピオン」に、『半田溶助電気商会 感電しますよ』という作品で再登場します。じつはこっちでもこまわり君以上のハイテンションで、ご近所の奥さんに電気あんま(こんなお下劣な言葉自体すでに死語?)をかけたりしてるのでした。
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Comments
訂正。
×国士無双
○天下無双
Posted by: トロ~ロ | October 25, 2010 03:20 AM
私の記憶が正しければ、パンツルックの女性に興奮して視線(目から←が出てくる)をぐぐっと女性の股間に突き刺して「目で犯して」しまう、という描写があったような。
私のシモネタ好きは少年期の永井豪氏・青年期の吾妻ひでお氏の影響と思っていたのですが、実は山上老師の強く濃ゆい影響が、ほの暗くうすぼんやりと精神の底の底に漂っているのですね。
顧みれば「新喜劇思想体系」なんて、現代の同人誌表現やエロマンガの実践的表現・方法論のオンパレード、空前絶後、国士無双(妄想?)、THE ORIGIN、将に此処に有。
いやまったく。
Posted by: トロ~ロ | October 25, 2010 03:18 AM