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October 29, 2010

ベストテンはむずかしい

 年末ベストテンのシーズンですね。

 昨年は「フリースタイル」が刊行している『このマンガを読め!2010 』のアンケートに参加させていただきました。今年もアンケートのご依頼があって、先日からいろいろ考えてるのですが、こういうアンケートの初心者、若葉マークをつけてる身にとっては、「マンガのベストテン」という形式はほんとむずかしいっす。

 マンガのベストテンは、映画とかミステリ小説のベストテンというお手本があって始まったものでしょう。でもそれらとマンガが大きく違う点は(1)完結してないものを評価してもオッケーなところ。

 映画やミステリ小説の評価は、ふつう作品全体に対してなされるのに対し、マンガは大長編の「一部だけ」を対象にすることもあります。あの作品、最近は神展開だから一票、なんてね。

 ですから(2)完結した作品と現在連載中の作品が同じ土俵で競うことになります。

 これって不公平じゃない? 今年完結した長編とか一巻だけで成立してる作品は、本年だけが勝負なのに、大長編になればなるほど毎年ベストテン内に選ばれるチャンスがある。

 もちろん大長編=人気作品ですし、続いてるってことは読者の評価にされされながら勝ち抜いてるんだから、そういうのはアタリマエという考えかたもあります。

 でもねー、マンガ以外の、映画やミステリ小説のノミネートは、公開や刊行された年「だけ」の一発勝負。選ぶほう、そして選ばれるほうの真剣さが違うんじゃないかしら。

 そもそも(3)ベストテンてのは、作品を顕彰する側面(すなわち「賞」ですな)と、ブックガイドの側面を持ってると思うのですよ。

 すでに映画やミステリ小説では、「キネ旬」のベストテンにしても「このミス」のベストテンにしても、「賞」としての権威が確立されちゃってますね。

 ただし上記のようにマンガのベストテンは、選ばれる作品の成り立ちが違うんだから、「賞」と考えるとちょっと問題があるように思われます。でもベストテン1位、というのは今や大きな宣伝コピーになってます。ベストテンがみずから「賞」と名のることはなくてもその側面はやっぱある。

 となると、選ぶ側としますと、好き勝手、自由気ままに選ぶのもどうか、ということになってしまうのですな。「賞」としての側面を考えちゃうとね。小心者なのです。ただしいっぽうのブックガイドの側面を考えると、超有名作品だけ並べてもなあ、とも感じるのですよ。

 昨年、宝島社の『このマンガがすごい!2010 』では、選者の人数をすっごく増やすという実験をしました。選者を多くすればするほど好みが平均化して、ブックガイドとしてより「賞」の側面が強くなります。明らかにその影響があって、昨年は『ONE PIECE』がオトコ編第2位になりました。

 今後『このマンガがすごい!』がどういう方針をとるかわかりませんが、昨年と同じ方式を続けるなら、この先ずっと『ONE PIECE』が上位にくることになるでしょう。だって日本でいちばん売れてるマンガですよ。それに現行方式なら『ONE PIECE』は終了するまで毎年ベストテンレースに出場する権利があります。

 これは「賞」としてはそれなりに納得できることですが、ブックガイドとしては意味がない。読者の知らないマンガや評価軸を提示してこそブックガイドになりうるのですから。

 つまり「斬新な作品を紹介したい」対「人気のある作品が上位にくる」という相反することを同時にめざしている、マンガのベストテンという形式のジレンマです。

 さらにこれに関連して、本年の悩みどころとして(4)昨年末に発売されてすでに有名になっちゃった作品をどう扱うかという問題もあります。特に名を秘しますが、あの作品とこの作品のことです。

 すでにホントの「賞」にノミネートされたり授賞しちゃった作品ですが、刊行の時期もあって年末ベストテンには顔を出してません。「賞」を考えると挙げざるを得ないけど、ブックガイドなら今さら感が漂います。これはすごく悩むところ。

 さらにさらに。宝島社『このマンガがすごい!』もフリースタイル『このマンガを読め!』も、対象としてるのは紙の書籍として刊行されたものだけ。

 しかしすでに、(5)紙の雑誌やネットで連載されたけど、単行本としては紙の書籍じゃなくて電子出版「だけ」で読める作品というのが存在します。こういう作品は今後、どのような扱いになるんでしょ。

 さて、年末ベストテンをどういう方針で選ぶにしても正解があるわけではなし。それにこういうことは編集部が考えることでわたしが考えることじゃないんでしょうけどね。お祭りなんだから、もっと遊び心を持って気楽に選べばいいとはわかっていても、ほら、若葉マークですからいろいろ考えるんですよ。

THE BEST MANGA 2010──このマンガを読め! このマンガがすごい! 2010

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Comments

 『このマン』を購入する側としても、今後軸足をどちらに置くのか気になるところです。ブックガイドの側面を評価して買っていた自分としては、正直昨年の『このマン』に関して、いまさら『バクマン』『ONE PIECE』『君に届け』を紹介されてもなあとの感は否めませんでした(作品の質の高さを否定しているわけではありません)。
 いずれは一年を振り返る『レコード大賞』的なところに落ち着くのかなとも思うのですが、フリーペーパーならともかく、それを買ってまで読む価値があるかとなると微妙な気がします。

Posted by: shigeru | November 01, 2010 09:30 AM

はじめまして。通りすがりの漫画好きです。
確かに毎年同じ作品出されても「またか」感は否めないですよねー
でもそれを加味して「去年も選んだけど、やっぱり今年もおもしろい!」といえるマンガはあると思います。
マンネリしてくれば人気があろうが「ツマラン」と思ってくるはずです。
特に「このマンガがすごい」のアンケートに答える人は相当な量のマンガを読んでいると思うので新しく出たマンガもチェックしていると思います。
なので「おもしろいマンガはやっぱりおもしろい」というのも1つなんじゃないかと思います。
去年の「このマンす」みたく素人意見をたくさん入れるのはやめたほうがいいと思うのですが…
「たくさんのマンガの中で『今年』おもしろかったもの」という基準であればいいんじゃないかと思います。

長文失礼いたしました。

Posted by: テイ太郎 | November 01, 2010 10:45 PM

村上知彦と申します。
ぼくもちょうど、昨日アンケートをフリースタイルに返送したところです。

若葉マークではないですが、この問題については毎年悩みます。
ずーっと考え続けてるといってもいいけど、まだ答えは出てません。

心がけてるのは「その年を象徴する作品を選ぶ」ということでしょうか。(それに、超個人的好みや意外性狙いを1本ぐらいまぎれこませます)
結果、新旧いろんな作品が並ぶこともあれば、なんとなくまとまりが出る場合もある。その、いわば「ライブ感」が楽しくて、ベストテン選びはわりと好きです。(悩むけど)

不満としては、選べるのが3〜5作品とあまりに少ないこと。
たぶん集計の手間や、誌面で視覚化しにくいという問題だと思いますが、せめて10位まで選べると、集計したとき意外な作品がまあまあ上位に挙がってきたりして、眺めて面白くなると思うんですけどねえ。

Posted by: GYA | November 04, 2010 10:43 AM

みなさま、コメントありがとうございます。悩みに悩んで、先日アンケートを返送しました。連載作品のシュンをはずしちゃいけないと思う一方、今年しか投票できない作品が存在しますから、わたしの場合、後者を重視してしまいますね。村上先生、うちの「漫棚通信」というブログ名は「黄昏通信」のまねっこです。今後ともよろしくお願いします。

Posted by: 漫棚通信 | November 04, 2010 09:49 PM

うわー、漫棚通信版「ふたりマンガ夜話」をやって下さい~~。
うわー。
うわあー。

Posted by: トロ~ロ | November 05, 2010 05:46 PM

ずいぶん前から読ませていただいてはいたんですが、書き込むのが初めてだったかどうか、どうも思い出せなくて。
改めまして、こちらこそよろしくお願いします。

「漫棚通信」そうだったんですか。
それはそれは、何といっていいやら(笑)。

Posted by: GYA | November 07, 2010 04:52 PM

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