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October 29, 2010

ベストテンはむずかしい

 年末ベストテンのシーズンですね。

 昨年は「フリースタイル」が刊行している『このマンガを読め!2010 』のアンケートに参加させていただきました。今年もアンケートのご依頼があって、先日からいろいろ考えてるのですが、こういうアンケートの初心者、若葉マークをつけてる身にとっては、「マンガのベストテン」という形式はほんとむずかしいっす。

 マンガのベストテンは、映画とかミステリ小説のベストテンというお手本があって始まったものでしょう。でもそれらとマンガが大きく違う点は(1)完結してないものを評価してもオッケーなところ。

 映画やミステリ小説の評価は、ふつう作品全体に対してなされるのに対し、マンガは大長編の「一部だけ」を対象にすることもあります。あの作品、最近は神展開だから一票、なんてね。

 ですから(2)完結した作品と現在連載中の作品が同じ土俵で競うことになります。

 これって不公平じゃない? 今年完結した長編とか一巻だけで成立してる作品は、本年だけが勝負なのに、大長編になればなるほど毎年ベストテン内に選ばれるチャンスがある。

 もちろん大長編=人気作品ですし、続いてるってことは読者の評価にされされながら勝ち抜いてるんだから、そういうのはアタリマエという考えかたもあります。

 でもねー、マンガ以外の、映画やミステリ小説のノミネートは、公開や刊行された年「だけ」の一発勝負。選ぶほう、そして選ばれるほうの真剣さが違うんじゃないかしら。

 そもそも(3)ベストテンてのは、作品を顕彰する側面(すなわち「賞」ですな)と、ブックガイドの側面を持ってると思うのですよ。

 すでに映画やミステリ小説では、「キネ旬」のベストテンにしても「このミス」のベストテンにしても、「賞」としての権威が確立されちゃってますね。

 ただし上記のようにマンガのベストテンは、選ばれる作品の成り立ちが違うんだから、「賞」と考えるとちょっと問題があるように思われます。でもベストテン1位、というのは今や大きな宣伝コピーになってます。ベストテンがみずから「賞」と名のることはなくてもその側面はやっぱある。

 となると、選ぶ側としますと、好き勝手、自由気ままに選ぶのもどうか、ということになってしまうのですな。「賞」としての側面を考えちゃうとね。小心者なのです。ただしいっぽうのブックガイドの側面を考えると、超有名作品だけ並べてもなあ、とも感じるのですよ。

 昨年、宝島社の『このマンガがすごい!2010 』では、選者の人数をすっごく増やすという実験をしました。選者を多くすればするほど好みが平均化して、ブックガイドとしてより「賞」の側面が強くなります。明らかにその影響があって、昨年は『ONE PIECE』がオトコ編第2位になりました。

 今後『このマンガがすごい!』がどういう方針をとるかわかりませんが、昨年と同じ方式を続けるなら、この先ずっと『ONE PIECE』が上位にくることになるでしょう。だって日本でいちばん売れてるマンガですよ。それに現行方式なら『ONE PIECE』は終了するまで毎年ベストテンレースに出場する権利があります。

 これは「賞」としてはそれなりに納得できることですが、ブックガイドとしては意味がない。読者の知らないマンガや評価軸を提示してこそブックガイドになりうるのですから。

 つまり「斬新な作品を紹介したい」対「人気のある作品が上位にくる」という相反することを同時にめざしている、マンガのベストテンという形式のジレンマです。

 さらにこれに関連して、本年の悩みどころとして(4)昨年末に発売されてすでに有名になっちゃった作品をどう扱うかという問題もあります。特に名を秘しますが、あの作品とこの作品のことです。

 すでにホントの「賞」にノミネートされたり授賞しちゃった作品ですが、刊行の時期もあって年末ベストテンには顔を出してません。「賞」を考えると挙げざるを得ないけど、ブックガイドなら今さら感が漂います。これはすごく悩むところ。

 さらにさらに。宝島社『このマンガがすごい!』もフリースタイル『このマンガを読め!』も、対象としてるのは紙の書籍として刊行されたものだけ。

 しかしすでに、(5)紙の雑誌やネットで連載されたけど、単行本としては紙の書籍じゃなくて電子出版「だけ」で読める作品というのが存在します。こういう作品は今後、どのような扱いになるんでしょ。

 さて、年末ベストテンをどういう方針で選ぶにしても正解があるわけではなし。それにこういうことは編集部が考えることでわたしが考えることじゃないんでしょうけどね。お祭りなんだから、もっと遊び心を持って気楽に選べばいいとはわかっていても、ほら、若葉マークですからいろいろ考えるんですよ。

THE BEST MANGA 2010──このマンガを読め! このマンガがすごい! 2010

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October 24, 2010

下品で極悪『半田溶助女狩り』

 日本マンガ史上、もっとも下品で極悪なキャラクターは誰か、という問いに答えるのはむずかしそうに思われるかもしれませんが、これが意外と簡単。山上たつひこ描くところの「半田溶助」である、というのが衆目の一致するところでしょう。

 半田溶助が登場する作品が復刊されました。

●山上たつひこ『半田溶助女狩り』(2010年フリースタイル、1500円+税、amazon

半田溶助女狩り the complete edition

 出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

 これまで何回も単行本化されてますが、今回の書影デザインは精子だな。作品の思想を正しく継承してますね。

 えーと、半田溶助さんとはこういう顔のおっさんです。このひと、ギャグマンガのキャラクターですからいろんなシチュエーションで登場します。マッドサイエンティストであったり、電器屋のオヤジであったり、謎の公務員であったり。でもやってることは同じ。他者、だけじゃなくて自分も含めてあらゆるものをおちょくりまくります。しかもやってることがとことん下品でエロいったら。

 これを読んで大笑いするひとが1/3、あ然とするひとが1/3、怒り出すひとが1/3、というところでしょうか。この率は、作品が発表された1975年ごろも現代も変化してない、のじゃないか。つまりいつまでも古びていないのです。

 たとえばですなー、誘拐された娘を捜索中の半田さん、娘の母親とふたりきりになったとたん、母親をゴーカンしようとする。全裸で縛られてる娘を発見したとたん、娘を襲おうとする。

 倫理などとは無縁。欲望のままに生きる半田さんがなぜこういう行動をとっているかといいますと、すべては「笑い」のためです。狂騒の笑いを追求した傑作。

 見知らぬゆきずりの女性だろうがお得意先の奥さんだろうがおかまいなし。ついには産婦人科の分娩室に乱入し、分娩中の女性を犯す、というこの世のものとは思えない光景が読者の前に展開します。

 山上たつひこが身をもって提唱した「笑い」のためには何をしてもいいのだ、という思想は後進にひきつがれ、直接の山上チルドレン(いっぱいいて数えきれません)だけじゃなくて、現代の田中圭一や田丸浩史にいたるまで、すべてのギャグマンガ家は山上たつひこが切り開いた道を歩いているのです。

 山上たつひこが本作品群を描いたのは『がきデカ』初期と重なる1974年~1976年。子ども向けである『がきデカ』を描くことでたまったフラストレーションを、本作ではらしていたのじゃないでしょうか。

 半田溶助は『がきデカ』終了後の「週刊少年チャンピオン」に、『半田溶助電気商会 感電しますよ』という作品で再登場します。じつはこっちでもこまわり君以上のハイテンションで、ご近所の奥さんに電気あんま(こんなお下劣な言葉自体すでに死語?)をかけたりしてるのでした。

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October 22, 2010

東映まんがまつりふたたび!『デビルマン対ゲッターロボ』

 まずは歴史的なことから。

 1973年「夏休み東映まんがまつり」で、東映動画の劇場用アニメ「マジンガーZ対デビルマン」が公開されました。

 当時のマジンガーは集英社「ジャンプ」連載でアニメはフジテレビ、デビルマンは講談社「マガジン」連載でアニメはNET(放映はもう終わってましたが)。掲載誌も放映局もちがうヒーローの競演、という夢の企画がスクリーン上で見られる、というのでこれが大ヒット。

 1974年夏の第二作「マジンガーZ対暗黒大将軍」はTVの「マジンガーZ」終了、続編の「グレートマジンガー」開始を劇場映画で先取りした作品でしたが、1975年春の第三作「グレートマジンガー対ゲッターロボ」では再度クロスオーバーが実現。

 マジンガーはすでに講談社系に移籍してました。今度は小学館系のゲッターロボと競演(アニメは両方ともフジテレビ系)。こっちのほうが企画実現はかなり困難だったと言われてます。

 以後、1975年夏の第四作「グレートマジンガー対ゲッターロボG 空中大激突」、1976年春「UFOロボグレンダイザー対グレートマジンガー」、1976年夏「グレンダイザー・ゲッターロボG・グレートマジンガー 決戦!大海獣」とクロスオーバーが続いて、当時の子どもたち大喜び。

 でね、豪ちゃんの新作がこれ。

●永井豪『デビルマン対ゲッターロボ』(2010年秋田書店、552円+税、amazon

デビルマン対ゲッターロボ (チャンピオンREDコミックス)

 あー、またデビルマンかよー、と思って読んでみたら、これがまあ、調子のいいお気楽な作品でびっくり。マンガで描かれた「東映まんがまつり」でした。

 ゲッターロボと戦う恐竜帝国に、妖鳥シレーヌひきいる悪魔軍団が援軍として参加。そこへふらりと登場する不動明と牧村美樹。

 早乙女ミチルと牧村美樹のダブルヒロインが、早乙女研究所の露天風呂でじゃれているところに襲いかかる悪魔軍団! このあざとさを見よ。なぜそんなところに露天風呂がある。

 デビルマンとゲッターロボが「誤解」によって戦うシーンもありますし、お約束どおりで楽しくなっちゃいますね。

 本作でのデビルマンは、ビジュアルはマンガ版そのままですけど、ノリはアニメ版調でかなりご陽気。デッビール!というかけ声で変身するし、デビルビームなんかも出します。

 ラスト、「悪魔軍団+恐竜帝国」対「デビルマン+ゲッターロボ+女性ロボット」の対決は、お見事なアイデアとスペクタクルで痛快。アニメで見たくなっちゃいました。きちんと楽しめる永井豪作品はひさしぶりだなあ。豪ちゃんはこうでなくっちゃ。

 次作は『デビルマン対けっこう仮面』かもしれない、と匂わせておしまい。わはは、これはぜひ描いてほしい。

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October 18, 2010

二巻完結がここちよい『さよならフットボール』

 うーんこれはいいものだ。

●新川直司『さよならフットボール』全二巻(2010年講談社、各552円、562円+税、amazon

さよならフットボール(1) (KCデラックス) さよならフットボール(2)<完> (KCデラックス)

 中学の男子サッカー部、主人公はただひとりの女子部員で、そのうまさは自他共に認めるところ。彼女はどうしても公式戦に出たいのですが、監督はそれを許さない。

 そして新人戦第一回戦、幼なじみの少年が属する中学との試合の日が……!

  講談社の隔月刊雑誌に約一年間連載されていた作品。全二巻で完結してます。この作品で描かれるのはそのたったひとつの試合「だけ」。決勝戦でもなく、新人戦の一回戦というのがすがすがしいじゃないですか。

 ここに登場するのは戦う少女と、彼女をささえるチームメイト。今は敵となった幼なじみの少年。それを見守るのは監督と女子マネージャー。

 サッカーにおける男女のフィジカルの違い、というテーマを掲げ、マンガ全二巻でひとつの試合、という短い物語の中で、主人公たちがいかに成長していくか。それを見せるマンガですね。

 しつこいようですが、この二巻だけ、ひとつの試合だけ、というのが成功のひとつの理由。時間的そしてページ的な制約の中で、濃密な物語が語られました。

 著者のマンガテクニックはすばらしい。回想シーンの多用、モノローグの多用、アップや決め絵はバシバシいれてくるし、人体のアクションに破綻はありません。無音シーンのお見事さや、適度なユーモアも含めて、なんだろね。このひと、うまい。日本マンガのいろんな手法を詰め込んだような作品になってます。

 もちろん女の子はかわいいですし、男の子はかっこいい。マンガだからそこはかかせません。

 いろいろ感心しながら読んじゃいましたよ。次作がすごく楽しみ。

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October 15, 2010

秋の海外マンガ(その3)

 さて、じつはこれから出る海外マンガのラインナップがちょっとすごいことになってるのですよ。参考にさせていただいてるのはコチラのページ。いつもお世話になってます。

 まず、ニコラ・ド・クレシー。『ユーロマンガ』に邦訳連載され、日本読者の度肝を抜いた『天空のビバンドム』が単行本として出版されます。

●ニコラ・ド・クレシー『天空のビバンドム』(飛鳥新社、10/29)

アマゾンではまだ取り扱いが始まってないみたいですが、10月29日ごろ発売らしいです。絵の完成度を追求して限りなくアートに近づいた「マンガ」。日本マンガとはまったく別方向に進化した作品です。
【追記】発売は11/8に決定したそうです。http://www.euromanga.jp/category/news

 そして、ニコラ・ド・クレシーでもう一冊。

●ニコラ・ド・クレシー『氷河期』(小学館集英社プロダクション、11/9、amazon

Glacial Period (Louvre)
(書影は英語版)

『氷河期』はルーブル美術館が依頼して描かれた作品で、ルーブルを題材にしたシリーズの一冊。日本からは荒木飛呂彦が、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』という作品でこのシリーズに参加したことで話題になりましたね。

 国書刊行会からは、「バンドデシネ・コレクション」というシリーズでモノクロBDの刊行が始まるそうです。第一弾が11月発売のこれ。

●パスカル・ラパテ『イビクス:ネヴゾーロフの数奇な運命』(国書刊行会

原作はアレクセイ・トルストイだそうです。わたしアレクセイ・トルストイの大長編をなぜか浪人中に読んでまして(何やってんだか)、個人的に思い入れのある作家なんですよ。続いて下記作品も刊行予定です。

●クリストフ・シャブテ『ひとりぼっち(仮)』(国書刊行会)
●エマニュエル・ギベール『アランの戦争:アラン・イングラム・コープの回想録(仮)』(国書刊行会)

 小学館集英社プロダクションからは以下も発売されます。

●マーク・ウェイド/アレックス・ロス『キングダム・カム 愛蔵版』(小学館集英社プロダクション、10/30、amazon
●マーク・ミラー/ジョン・ロミータJr.『キック・アス』(小学館集英社プロダクション、11/19、amazon
●メビウス『アンカル』(小学館集英社プロダクション、今冬)

キングダム・カム 愛蔵版 Kick-Ass L' Incal
(書影中は英語版、書影右は仏語版)

『キングダム・カム』は名作の復刊。『キック・アス』は映画化されたおかげの邦訳です。でも最大の期待作はメビウスの『アンカル』。かつて1巻だけ邦訳されたことがありますが、長らく幻の作品でした。わたし仏語版で何冊か持ってますが、まあフランス語読めませんし。すごく楽しみにしてます。

 ヴィレッジブックスからは下記が予定されてます。

●『X-MEN/アベンジャーズ:ハウス・オブ・M』(ヴィレッジブックス、10/30、amazon
●『グリーンランタン:リバース』(ヴィレッジブックス、今冬)
●フランク・ミラー/デビッド・マツケリー『デアデビル:ボーン・アゲイン』(ヴィレッジブックス、今冬)

House of M Green Lantern: Rebirth (New Edition) (Green Lantern (Graphic Novels)) Daredevil: Born Again
(書影はすべて英語版)

 古典的名作の『デアデビル』が楽しみ。それにしてもDavid Muzzucchelliは、邦訳されるたびにマッツケーリとかマズッケリとかマツケリーとか表記が変わるんだけどどうにかならんか。

 さらにこの春アメリカで発売されベストセラーになった話題作。11月にソフトバンク・クリエイティブから出ます。

●ステファニー・メイヤー/キム・ヨン『トワイライト』(ソフトバンククリエイティブ、11/13、amazon

Twilight: The Graphic Novel, Vol. 1 (The Twilight Saga)
(書影は英語版)

 ご存じ、美少年吸血鬼が登場する英語版ライトノベル(全世界で大ヒットして映画化もされました)「トワイライト」シリーズがマンガ化されたもの。絵を描いてるのは韓国人女性ですね。もの好きなわたしはすでに英語版で読んじゃってますけど、日本語版も買うことになるんだろうなあ。

 とまあ、この秋から冬にかけての海外マンガ邦訳は目が離せません。

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October 14, 2010

秋の海外マンガ(その2)

 続いては小学館集英社プロダクションから。

●グラント・モリソン/デイブ・マッキーン『バットマン:アーカム・アサイラム 完全版』(2010年小学館集英社プロダクション、2600円+税、amazon

バットマン:アーカム・アサイラム 完全版 (ShoPro Books)

 こちらも出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 『アーカム・アサイラム』とは、バットマンの街ゴッサム・シティにある犯罪者専用の精神病院。バットマン世界で異形の犯罪者たちは全員、刑務所じゃなくてここに収容されます。まあみんな年がら年じゅう脱走してますので、少しはセキュリティについて学習してくれよと思う施設なわけですが。

 本書ではアーカム・アサイラムで暴動が起き、それを鎮圧しようとするバットマンが自身内部の狂気と向き合うことになる、という重いテーマの作品。原著は1989年発行。2000年に小学館プロダクションから邦訳出版されたものの復刊になります。

 テーマが狂気で、しかもデイブ・マッキーンの手による本書のアートがまた狂的。ペイント系と呼ばれる作品ですが、アメコミとしては空前にしておそらく絶後のアートで描かれる狂気の傑作。書影に描かれてるのはジョーカーです。カバー絵だけじゃなくて全編このタッチの絵が続くのですよ。

 これ以後このタイプの作品はアメコミじゃなくて、BDに後継者を探さなくてはならないでしょう。もちろん日本マンガに類するものはありません。アメコミの鬼っ子、極北というべき作品です。

 旧版と比較してみましたが、訳者(高木亮/秋友克也)は同じなのに新訳になってます。どこが「完全版」かといいますと、ライターのグラント・モリソンが書いた脚本(文章だけ)全編と「サムネイル・レイアウト」(日本でいうところの「ネーム」ですな)の一部が掲載されてます。当然、完成形とは違ったもので、これアメコミの制作過程を知るためのすごく興味深いサンプルです。

 あと旧版にはなかった(ような気がする)石川裕人による脚注がついてきます。かつて買いそびれたかたはぜひどうぞ。


●マイク・ミニョーラ『ヘルボーイ壱 破滅の種子/魔神覚醒』(2010年小学館集英社プロダクション、3300円+税、amazon
●マイク・ミニョーラ『ヘルボーイ弐 チェインド・コフィン[縛られた棺]/滅びの右手』(2010年小学館集英社プロダクション、3600円+税、amazon

ヘルボーイ:壱 ~破滅の種子/魔神覚醒~ (ShoPro Books DARK HORSE BOOKS) ヘルボーイ:弐 ~チェインド・コフィン[縛られた棺]/滅びの右手~ (ShoPro Books DARK HORSE BOOKS)

 ミニョーラのスタイリッシュな絵が人気の「ヘルボーイ」は、1999年の邦訳開始以来、小学館プロダクションより五冊、ジャイブより五冊が出版されました。

 このうち小学館プロダクションから発売された初期四冊が、二冊ずつの合本となって復刊。残りの一冊『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』はイレギュラーなクロスオーバーものなので、今回はパスされてます。

 『ヘルボーイ』も、最近入手できるジャイブの『プラハの吸血鬼』や『闇が呼ぶ』や『百鬼夜行』では、ミニョーラはストーリーだけで絵は別人が描いてることが多くてちょっとがっかりなのですが(『プラハの吸血鬼』に収録されたリチャード・コーベンとの合作という珍品は笑えますけどね)、やっぱ初期ヘルボーイはいいっ。

 ミニョーラの描く絵はつくづくかっこいいですなあ。

(この項さらに続く。ひっぱりすぎてすみません)

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October 13, 2010

秋の海外マンガ(その1)

 1945年以来の海外マンガ邦訳は「あざなえる縄が如し」で、いっぱい出たりほとんど存在しなかったりの繰り返しなのですが(ファンはもう、だいたいそういうものだと達観してます)、最近はそうとうにいい感じ? この秋もいろいろと出版されてます。


●『euromanga ユーロマンガ』5号(Euromanga合同会社/飛鳥新社、1500円+税、amazon

ユーロマンガ vol.5

 年二回刊でBDを紹介する雑誌も5巻が刊行。こうなったらもう偉業といってもいいんじゃないかしら。

 編集されてるトゥルモンド氏よりご恵投いただきました。ありがとうございます。とか言いながら、本が届くより前に自分自身で購入してしまってたのですよ。一冊ダブって、さてどうしましょ。

 じつをいいますと初期は、おつきあいといってはアレですが、ご祝儀気分で買ってたところがあります。ところが最近は、作品そのものがおもしろいっ。BDのリーダビリティを再確認しました。どの作品も先を読みたくなるものばかり。

 BDの一巻を二回にわけて収録してる「ユーロマンガ」では、今回の5号は各巻の前半部分だけが掲載されてます。偶然かもしれませんが今回は号またぎで、さあ次はどうなる、という終わりかたばっかり。主人公が川に落とされてさあどうなる、テロリストと出会ってさあどうなる、敵を殺してしまったかもしれなくてさあどうなる。「ユーロマンガ」がストーリー的に「おもしろい」作品を選んでるのがよくわかりました。

 個人的な感想では、ディズニー的でもなく日本マンガ的でもない、『赤いベレー帽の女』がすばらしいです。第二次大戦中、ドイツ占領下パリの女性レジスタンスが主人公。こんなマンガは読んだことがありません。

●ジェフ・ローブ/ティム・セイル『バットマン:ダークビクトリー』全二巻(2010年ヴィレッジブックス、各3200円、3300円+税、amazon

バットマン:ダークビクトリー Vol.1 バットマン:ダークビクトリー Vol.2

 えーと作品の成り立ちについての説明が長くなるのがアメコミの難点ですが、まず1987年に描かれた『バットマン:イヤーワン』という作品がありましてね。

 脚本が『バットマン:ダークナイト・リターンズ』のフランク・ミラー。バットマンがいかにして誕生したか、その「一年目」を新たに創造し直したのが『イヤーワン』です。これはすっごい傑作で日本でも複数回翻訳出版されていて、現在もヴィレッジブックスから現役で手に入ります(→amazon)。

 その10年後、1996年に『イヤーワン』の続編として描かれたのがジェフ・ローブ脚本、ティム・セイル絵の『ロング・ハロウィーン』(→amazon)です。

バットマン イヤーワン/イヤーツー バットマン : ロング・ハロウィーン ♯1 バットマン : ロング・ハロウィーン ♯2

 じつは『イヤーワン』には『イヤーツー』という続編もあったのですが(のちに『スポーン』を描くことになるトッド・マクファーレンが参加してたことでも知られてます)、『ロング・ハロウィーン』が描かれるにあたって、『イヤーツー』はなかったことにされてしまいました。こういうことがあるからアメコミはややこしいっ。

 『ロング・ハロウィーン』は『イヤーワン』の登場人物や設定をそのまま流用して描かれた純粋な続編でした。ゴッサム・シティの暗黒社会を舞台にした不気味な連続殺人。マフィアとバットマン的怪人が跋扈する世界で苦悩する検事ハービー・デント。ダークな世界で繰り広げられるミステリで、最近の映画「バットマン」のイメージは『イヤーワン』と『ロング・ハロウィーン』から影響を受けたと言われてます。

 で、今回邦訳された『ダークビクトリー』は、『ロング・ハロウィーン』のさらに続編。脚本と絵は前作と同じふたりです。『ロング・ハロウィーン』事件はまだ終わっていなかった。関係者を巻き込み、さらに連続殺人は続く。この作品内でバットマンとロビンが出会い、チームが形成されます。

 ティム・セイルの絵がすばらしい。B&Wでも成立するくらい黒の面積が多い絵は平面を強調したもので、おそらくこういう絵の日本マンガは過去にさかのぼっても存在しません。アメコミとしても(きっと)少数派なんじゃないかな。

 「オルタナティブ系に近いメインストリーム」というべき存在でしょうか。

(この項続く)

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October 11, 2010

手塚伝説の証言者たち『神様の伴走者』

 佐藤敏章『神様の伴走者 手塚番13+2』(2010年小学館、1300円+税、amazon)読みました。

神様の伴走者 手塚番13+2

 かつて小学館「ビッグコミック」編集長をされていた著者が、手塚治虫を担当した各社の編集者たちにインタビューした記録。著者がほとんどひとりで編集していた不定期刊雑誌「ビッグコミック1(ONE)」に連載されていたものです。

 本書でインタビューされてるのは「手塚番」と呼ばれていたマンガ編集者13人と、手塚のマネージャーとなった松谷孝征、非職業的臨時アシスタントだった藤子不二雄A。

 雑誌連載中にわたしも一部を読んでいましたが、書籍にまとまるにあたって雑誌掲載より文章量が多くなってて、いやー、すばらしい本になりました。

 すばらしいというのは(1)マンガ史的に貴重な記録であるのと同時に、(2)手塚マンガをめぐるひとびとの一種「感動的」なエピソードになってるからです。

 手塚先生、わたしなどのように外側から見てると、すごく人格者でいいひとみたいですが、そのじつ、編集者にとってはすっごく面倒なひとだったのは有名な話。しかしそれも、天才のなせるわざであったといいます。これが当事者から語られるという貴重な記録が本書。

 編集者、みんながみんな手塚から迷惑をかけられ続けていた、けどその才能を認めていたという複雑な関係。みなさんそのアンビバレントな感情が抑えきれず、おもしろいインタビューになってます。

 なかには、手塚のせいで会社を辞めるはめになった(はず)なのに、それを否定し続けるかたもいます。

 個人的には小学館の編集者だった豊田亀市、鈴木俊彦、志波秀宇の話が興味深かったです。

 なぜかこれまで小学館の編集者からの証言は少なかったのですよ。豊田亀市の話は大野茂『サンデーとマガジン 創刊と死闘の15年』(2009年光文社新書)にも採られているのですが、本全体の記述そのものにまちがいが多すぎて、引用するのにちょっと躊躇するところでした。今回、やっと信用できる証言が出てきたわけですね。

 日本マンガ制作のシステムがまだ完成されていなかった時代、マンガ家と編集者がどのような関係であったのか、貴重な記録です。

 あと、やっぱ秋田書店の編集者、壁村さんがおもしろい。

あの名物編集長は必ず酔っ払ってくるわけです。酔っ払わないうちはこない。もちろん、一番最初に決めごとをする時にはくるけども。それ以外はもう、酔っ払ってからくる。(松谷孝征)

いや、僕もあとで壁村さんが担当になってね。原稿がやっぱり遅れちゃって。(略)9時にまた電話がかかってきて、「できてる?」っていうから、「あともう1時間」っていったら、「わかった。これから火つけにいく」って。(藤子不二雄A)

 いやもう壮絶ですなあ。(以前にわたしが書いた記事もどうぞ。『壁村耐三伝説の「藪の中」』

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October 07, 2010

『街場のマンガ論』をつっこみながら読む

 内田樹『街場のマンガ論』(2010年小学館クリエイティブ、1400円+税、amazon)読みました。

街場のマンガ論

 思想家にして名エッセイスト、ファンの多いウチダ先生の著書について、わたしが何か書くのもおこがましいのですが、「内田樹の研究室」に「マンガ好きのみなさん、買ってね」とありましたのでマンガ好きとしてちょっとひとこと。

 タイトルは「マンガ論」ですが、多くの部分は軽いエッセイ。軽いというのはその文章の書きようで、まさに風に舞う羽根のごとし。そこにキモとなる自説をちょいちょいと挟み込むから、読みやすくてためになるのがウチダ先生のエッセイですね。

 でも軽エッセイだから、細かい論証はされてない。

 たとえばこういう文章。

日本の戦後マンガのヒーローものの説話的定型は「生来ひ弱な少年」が、もののはずみで「恐るべき破壊力をもったモビルスーツ状のメカ」の「操縦」を委ねられ、「無垢な魂を持った少年」だけが操作できるこの破壊装置の「善用」によって、とりあえず極東の一部に地域限定的な平和をもたらしている、というものである。

 そして著者、『鉄人28号』『魔神ガロン』『ガンダム』『マジンガーZ』『エヴァンゲリオン』を挙げて、戦後日本の自衛隊イメージの投影をそこに見ます。

 いやたいへんおもしろいのですが、これって定型か? そういう傾向の一連の作品を恣意的に取り上げただけじゃん、とも言えるわけで、『アトム』や『巨人の星』や『あしたのジョー』や『北斗の拳』や『ドラゴンボール』はどこへ行ったんだ、というツッコミも可能です。もうちょっと慎重な文章にしたほうがいいんじゃないかしら。

 日本語の特殊性(漢字仮名まじりの表記や擬態語の豊富さ)が日本マンガを進歩させた、という説は『日本辺境論』で語られたことの焼き直しですが、これも楽しい説ですね。ただしこれもあまりにざっくり語りすぎ。多数の海外マンガを細かく検証してはじめて論として成立すると思います。まあもとがブログ記事なので、わたしが無理言ってるのは承知してます。

 いちばんアレなのは、「反米ナショナリズムとしての少年愛マンガ」の項です。

 70年代少女マンガでボーイズラブジャンルが成立するにあたっては、全共闘運動の挫折とアメリカ男性文化への批判があったはずだと。その根拠として著者が挙げるのが「少女マンガはアメリカを描かない」。

 著者によると、『BANANA FISH』と『キャンディ・キャンディ』を例外として、アメリカを舞台にした少女マンガはほとんど存在しないと。

まるで、アメリカのハイスクールが舞台の学園ラブコメを描くことには、何か「呪い」がかかっているかのように。少女マンガ家たちはその主題を忌避し続けているのです。

 いやいやいやいやいや。これはムチャ、というか著者自身も暴論とわかって書いてるのかも。

 もちろん昔からアメリカのハイスクールが舞台のラブコメは山のようにあります。ボーイズラブ成立前後、1970年代の「りぼん」や「別マ」や「少コミ」を一冊持ってくればたちまち論破されてしまう説をこれほどまあ堂々と。

 とまあ、展開される説はおもしろいけど、思いつきだけのところが多くてかなり乱暴、という本でした。つっこみながら読んであげてください。

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October 03, 2010

つれづれに

●小学館クリエイティブからは最近、白土三平や水木しげるの復刻がつぎつぎとなされてるのですが、11月には手塚治虫『漫画教室』が出版されるらしいです。

 似たタイトルの『漫画大学』(1950年東光堂)は講談社の全集にも収録されてます。『漫画教室』のほうは1952年から1954年にかけて雑誌「漫画少年」に連載された、マンガで描かれたマンガ入門書。『サルまん』の元祖的作品ですな。

 単行本化されたことはなく、かつて手塚ファンクラブ京都の「ヒョウタンツギタイムス」で復刻されたことがあるだけ。すっごくレア作品です。

 この作品内で手塚が、当時『イガグリくん』で人気絶頂だった福井英一を批判してトラブったのは有名なエピソードです。

 こういうマンガ史的にも興味深い手塚作品が、まだ出版されずに残ってたんですねえ。


●佐藤秀峰『新ブラックジャックによろしく』9巻が書店に平積みされてました。遠目で見ると見事に真っ白けのカバー。カバーイラストを描くかどうかモメてたのはニュースにもなってましたから、あらほんとにやっちゃったんだと思いましたが、よく見るとこれは白衣のアップ。デザイナーさんの苦労が忍ばれます。

 この『ブラックジャックによろしく』事件は、エキセントリックな著者と編集者とのトラブルとして語られたりすることもあるのですが、当然ながらその背景には、

(1)マンガ描き込みの精細化→マンガ制作に要する費用の高騰化
(2)出版不況
(3)雑誌掲載→単行本化というマンガ収益システムの破綻
(4)紙から電子出版へという流れ
(5)出版界の時代遅れで少し奇妙な商習慣
(6)再販制度問題

などと、いろいろ構造的な問題があって、なかなか複雑ですなあ。
 

●で、こういうことはわたしら読者とは無関係だもんねー、というわけでもなく。

 松田洋子『相羽奈美の犬』2巻が発売されました。いじけてひねくれたストーカー少年が犬に変身し、美少女を襲う悪人と戦う(?)ホラー+コメディの続巻。かつてわたしが書いた1巻の紹介はコチラ

相羽奈美の犬 1

 1巻はもちろん紙の単行本なのですが、2巻のほうは発売されたとはいっても電子書籍として「だけ」。紙の書籍としては販売されない(らしい)。

 販売は「電子貸本renta!」。105円で48時間レンタル。630円で永久レンタルだそうです。各種カードが使えますのでぜひどうぞ(わたし、支払い方法でちょっと迷路に入ってしまいましたが、普通にすれば普通にできるはず)。

 さっそく2巻を買って読んでみました。わたしのメインとして使ってるノートパソコンでは上下が狭いのでちょっとあれでしたが、iPadなら「Renta! HD」というリーダーを使うと快適で、楽しく読めました。

 でね、これまでわたしにとってマンガ作品を読むのには、紙があたりまえ。ケータイやモニタで読むのはあくまで次善の方法だったのですよ。

 すでに辞書や公文書、あるいは歴史的になった古書はモニタ上で読むのが当たり前になってきてます。今後、モニタ上だけで読むことができるマンガが増えていくのかしら。そして読者の消費や読書の行動そのものも変化していくのでしょうかね。

 こういう時代になりますと、出版情報がますます重要になりますね。コミックナタリーや個人ニュースサイトのみなさんのがんばりに期待する次第です。

 あと、年末のベストテンに向けてすでに各社が動き出しているようですが、書籍として刊行された作品だけを対象とする現行の方式は、もう時代遅れになりつつあるんじゃないかな、なんてね。

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