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September 15, 2010

マンガからながめる日本経済『サラリーマン漫画の戦後史』

 真実一郎『サラリーマン漫画の戦後史』(2010年洋泉社新書y、740円+税、amazon)読みました。

サラリーマン漫画の戦後史 (新書y)

 じつは最初タイトルを見たとき、イマドキにしてなんと地味な、と思ってしまいました。『アサッテ君』とか『フジ三太郎』を思い浮かべちゃったのですね。

 しかしこれはわたしの考えが浅かった。本書ではサラリーマンマンガの歴史を概観することで、日本の戦後史をふりかえる試みがなされてます。わたし自身は給料取りの身分ではありますがサラリーマンとしての自覚に乏しいので、盲点だったなあ。

 こういうタイプのマンガ論は(1)マンガを通して現実社会を語り、同時に(2)現実社会を見直すことでマンガを読み解くということをしています。じつは前者ばっかりだと読んでて腹立ってくることが多いのですが、本書は(1)と(2)のバランスが絶妙でおもしろく読みました。

 「サラリーマン」という和製英語ができたとき、それはスマートでかっこいい職種、おそらくあこがれの言葉だったはずなのですよ。それが高度成長期からオイルショック、その後バブルを経て現在の不況。言葉の持つイメージもいろいろと変遷して、今、サラリーマンといえばNHKのコント番組「サラリーマン NEO」で描かれてるように、自虐と揶揄とささやかな誇り、を持った言葉なのかな。

 本書は1950年代、源氏鶏太のサラリーマン小説から説きおこされてます。おお、源氏鶏太。私の子ども時代は文庫でいっぱい出てました。さすがに一冊も読んでません。

 そして著者は、彼の小説の特徴である「勧善懲悪」「家族主義」「人柄主義」を<源氏の血>と命名します。これが戦後サラリーマンを扱うマンガや映画の本流となり、そして「島耕作」こそ<源氏の血>の正しき継承者である。なるほどー。

 以下、戦後日本経済の盛衰にともなって、サラリーマンマンガがどのように描かれてきたかが述べられます。そこにあるのは、働くことの喜び、「宮仕え」「歯車」という苦しみ、さらに植木等的「気楽な稼業」という感覚が渾然と、あるいは(マンガですから)極端に提示された諸作品。

 著者が提示する作品はきわめて多く、そうかあれもこれもサラリーマンものだよなあ、というものばかり。例を挙げますとメジャーどころではもちろん『釣りバカ日誌』『山口六平太』『サラリーマン金太郎』がありますし、藤子・F・不二雄『中年スーパーマン左江内氏』、諸星大二郎『会社の幽霊』、柳沢きみお『妻をめとらば』『特命係長只野仁』、窪之内英策『ツルモク独身寮』、ホイチョイ・プロダクションズ『気まぐれコンセプト』、新井英樹『宮本から君へ』、高橋しん『いいひと。』、うめ『東京トイボックス』、ねむようこ『午前3時の無法地帯』、さらに田中圭一『サラリーマン田中K一がゆく!』、よしたに『ぼく、オタリーマン。』などなど。

 しかしまあ、どの作品もいかにも「日本的」ですねえ。

 戦後50年以上が経過し、日本経済が極端な浮き沈みを経験してきた結果、日本のサラリーマンマンガはこれほどの多様性を持つようになりました。そしてバブル崩壊から現在の大不況にいたって、かつてファンタジーであったサラリーマンマンガは<源氏の血>を失い、解体されつつある、というのが終章のまとめですが、このあたりは少し羅列的、説明不足の印象で惜しい。

 しかしこういう経済史的な視点からマンガ史を読み直すというのは新鮮な体験でした。

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Comments

 レディース・コミックの『悪女(わる)』というのはサラリーマンマンガ、じゃなくてOL(オフィスレディ)マンガでしょうか…ね、やっぱり。orz
 何か読んだ事無いですけど、『ショムニ』とか、色々、其れも面白そうです…。

 自分の課題にしてみます。(^_^;)

 ちなみにアニメにも成った園山俊二先生の『花の係長』は有ったんでしょうか?

Posted by: woody-aware | September 15, 2010 09:33 PM

サラリーマンって言葉自体が時代遅れなんですよね。

ドラッカー『マネジメント』(1974年)にすでに「いまや、われわれの社会は被用者社会である。二○世紀の初めには、「お仕事は何ですか」と聞いたが、今日では「お勤めはどこですか」と聞く。」という記述があるくらいですから。

大体特定の主人公が存在する職業漫画の場合、主人公の職業がそのまんま「○○漫画」ってなりますよね。

主人公が忍者→忍者漫画
主人公がスポーツマン→スポーツ漫画
主人公が学生→学園漫画
主人公が兵隊→戦争漫画

ただ怪獣漫画とか妖怪漫画とかロボットモノの場合はこの通りではないですね。まあそれは職業ではないですが。

逆に主人公がその職業に属していないのにその職業の漫画と言えるものってなにがあるんでしょうね。

子供が様々な職場を訪ねる類の漫画も「職場漫画」ではなく主人公(子供)視点の「学習漫画」ですしね。

Posted by: くもり | September 17, 2010 01:15 AM

>藤子・F・不二雄『中年サラリーマン左江内氏』

 これは、『中年スーパーマン左江内氏』ではありませんか?

Posted by: 大阪のジムシイ | September 30, 2010 10:30 PM

お恥ずかしい。修正しました。

Posted by: 漫棚通信 | October 02, 2010 12:27 PM

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