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June 14, 2010

「生きている手」の研究 【第二回】

前回からの続きです)


*****(チャールズ・アダムスの「Thing 」)*****

 チャールズ・アダムスはアメリカの有名なカートゥーニスト。お化けをテーマにヒトコママンガを描き続けました。ブラック・ユーモアというやつね。

 彼がシリーズとして描いた不気味な家族は、1964年に「The Addams Family 」のタイトルでTV化され有名になりました。日本で放映されたのは1968年になってからで、邦題は「アダムスのお化け一家」。

 モノクロTV版アダムス・ファミリーのオープニングがこれ。

 このオープニングの43秒あたりで登場する、箱から出た「手」こそ、「ハンドくん」ならぬ「Thing 」です(→画像)。

 この「手」、髪をすいてくれたり料理をしてくれたり、家事全般を手伝ってくれます。TVでは箱からはえた「手」として登場することがほとんどでしたが、まれに箱から出て歩いたりもしてたらしい。

 ただし「Thing 」はTVで有名になったキャラクターで、原作のマンガにはちらっと登場するだけです。

 このサイトの下から二番目のマンガは、雑誌「ニューヨーカー」1954年3/20号に掲載されたもの。これが「Thing 」の初登場。

Thing_new_2

 まあ「手」というより「腕」のお化けですね。本来ひとを怖がらせるはずのお化けが、お手伝いさんみたいな感じで働いている、という笑い。

 「Thing 」は1964年のTVで有名になり、1991年の映画版ではついに箱から離れ、猛スピードで走り回ることになりました。


*****(水木しげるの「手」)*****

 水木しげるは「手」のお化けをけっこう描いてます。

●『怪奇一番勝負』(1962年兎月書房「墓場鬼太郎読切長編シリーズ1」)
○水木しげる「貸本まんが復刻版墓場鬼太郎4」(1997年角川文庫)収録

墓場鬼太郎 (4) (角川文庫―貸本まんが復刻版 (み18-10))

 兎月書房末期に出版された鬼太郎シリーズの一篇。

 失業マンガ家の村田と殺し屋の金田。このふたりが金田の家に住みついた鬼太郎を追い出そうとしますが、いろいろと恐ろしいめにあう話。この途中で鬼太郎の「手」のエピソードが出てきます。

 鬼太郎が冷蔵庫をのぞいているときにふたりがドアを閉め、鬼太郎を冷蔵庫に閉じこめてしまいます。そのとき、鬼太郎の「手」だけがちぎれて外に残される。

 この「手」がごそごそと動きだし、つかまえてもつかまえても逃げ出してしまいます。村田の妻に手紙を書いてドアを開けさせたり、まな板に釘づけにされても抜け出したり。こういうアイデアはW・F・ハーヴィー『五本指の怪物』がモトネタ。それにおっさん二人組対「手」という構図自体が同じですね。

 この『怪奇一番勝負』がリメイクされたのが、有名なこれ↓です。


●『墓場の鬼太郎 手』(「週刊少年マガジン」1965年8/1号)
○水木しげる「ゲゲゲの鬼太郎3 妖怪大戦争」(1994年ちくま文庫)収録
○水木しげる「少年マガジンオリジナル版ゲゲゲの鬼太郎1」(2007年講談社漫画文庫)収録

ゲゲゲの鬼太郎 (3) (ちくま文庫) 少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫 み 3-5)

 水木しげると鬼太郎が「週刊少年マガジン」に進出した、記念すべき第一作。

 フランスから日本にやってきた吸血鬼ラ=セーヌとその子分マンモスは鬼太郎を呼び出し、機関銃で殺害してしまいます。残ったのはラ=セーヌと握手していた鬼太郎の右手だけ。この手が動き出し、ラ=セーヌを追いつめてゆきます。

 本棚から本を落としラ=セーヌの頭に当てる。電源スイッチを切る。天井から転落してきてラ=セーヌの鼻と口を覆う。釘で板に打ち付けたはずなのに抜け出して、ホテルの従業員に手紙を書いて引き出しを開けさせる。そしてついには窓の外にナイフを持った「手」が現れます。

 最終的には火事の室内から逃げようとするラ=セーヌと。しかし「手」が外からドアのノブを握りしめている。ふたりは焼け死んでしまいます。

 手が逃げ回るだけじゃなくて積極的に攻撃してきます。『怪奇一番勝負』の「手」の部分を発展させリメイクした作品ですが、そのぶん、W・F・ハーヴィー『五本指の怪物』から取り入れたところが増えてます。たとえば風呂に落ちた「手」がタイルにすべってのぼれないとか、ラストの火事のシーンとか。

 ただし部屋の外からドアノブを握りしめる「手」というのは水木しげるのオリジナルアイデアで、こっちのほうがよくできてる。

 鬼太郎が正義の妖怪で、悪の妖怪と闘うというフォーマットが明らかにされた作品でもあります。鬼太郎は不気味な妖怪の子どもであるのですが、正義の味方でもあるからこそ現代まで生き残ったのです。


●『手袋の怪』(1963年東考社「劇画No. 1」2号)
○水木しげる「恐怖 貸本名作選 墓を掘る男・手袋の怪」(2008年ホーム社漫画文庫)収録

水木しげる恐怖貸本名作選 墓をほる男・手袋の怪 (ホーム社漫画文庫) (HMB M 6-2)

 「手」が登場するもうひとつのパターン。

 怪奇作家五味氏が一家といっしょに出版社社長に紹介された武蔵野の家に転居したところ、家族の目前でつぎつぎと怪異が起こります。窓の外に「手」が見える。ほしてあった長靴の中に「手」がいる。外から「手」がドアをノックする。

 そして家族の手をすり抜けて家のなかに入ってきた「手」は、生きている「手袋」として五味氏を脅し、幽霊に関する文章を書かせます。

 オチでは、出版社社長の祖先が幽霊と親しくなり幽霊に手袋をはめたこと、一連の事件は「幽霊が自分の実在性を主張しようとしたもの」であることが明かされます。

 厳密には生きた「手袋」であって生きた「手」じゃないんですが、手袋の中には見えない幽霊の手がはいってるという設定なので、まあ「手」ということでひとつ。

 この作品も、のちにリメイクされてます↓。


●『幽霊屋敷』(「週刊漫画アクション」1967年1/11号)
○「水木しげるのニッポン幸福哀歌」(2006年角川文庫)収録

水木しげるのニッポン幸福哀歌(エレジー) (角川文庫)

 リメイクといっても、貸本版の1ページ2×3コマを、週刊誌用に1ページ3×4コマに描き直したもの。コマ構成も構図もセリフもほとんど同じです。

 わずかに「怪奇作家五味氏」が「怪奇劇画家三木氏」に変更されてますが、三木氏が書いてるのはマンガ原稿じゃなくて文章の原稿です。

 『手袋の怪』と『幽霊屋敷』は、「手」がなんとか家の中にはいろうとするところや、最終的に「手」がそれほど悪さをしていないところなど、レ・ファニュ『白い手の怪』そのまま。ずいぶんあっけらかんとした味わいの作品になってます。


●『ぬっぺふほふ』(「週刊漫画アクション」1969年3/13号)
○「水木しげるのニッポン幸福哀歌」(2006年角川文庫)収録

 これは前の2パターンとはちょっとちがう「手」です。

 貧乏マンガ家の鬼木は交通事故で頭を打ち、以後人間の姿が見えなくなってしまう。そのかわりに見えるようになったのが「ぬっぺふほふ」という妖怪たち。こいつらは人間の手そっくりの形をしていて五本指で歩けるし、しゃべることも可能。

 彼らに手袋の贈り物をすると、鬼木は人間が見えるようになり、原稿料は値上がり、アイデアもつぎつぎにわいてくる。金持ちになったのはいいけれどあまりに忙しく、鬼木は過労死してしまう。

 これは手袋の贈り物を忘れた鬼木に対する、ぬっぺふほふたちの「成功死」という呪いでした、というオチ。

 本作では妖怪が「手」である必要性はなく、当時あまりに忙しすぎた水木先生が「成功死」というものを実感してできた作品なのでしょう。


*****(映画に登場した「手」)*****

●「フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)」1965年

フランケンシュタイン 対 地底怪獣 [DVD]

 これは東宝の怪獣映画。監督は本多猪四郎、特撮監督が円谷英二の黄金コンビ。

 品ぞろえのよいレンタルDVD屋さんなら置いてるでしょうし、最近デアゴスティーニから廉価版DVDが発売されたばかりですから、書店で見つかるのじゃないかな。

 第二次大戦末期、ドイツから広島に秘密裏に運ばれてきたフランケンシュタイン(の怪物)の心臓。そこへ原爆が落ちてこの心臓は行方不明になります。そして1964年になって近隣の家畜を食べる浮浪児が発見されます。

 保護された彼はどんどん大きくなり、あっというまに数メートルの巨人になる。左手を鎖でつながれていたのですが、TVカメラとライトに驚き、自分の手を引きちぎって脱走します。

 翌日、残されたフランケンシュタインの左手がもそもそ床を這っているのが発見されます。しかしこの場面、たいへんしょぼい特撮で、かなり情けない「手」となってます。

 この左手は培養液の中で飼われることになりますが、ある日、研究室の排水溝で死んでいるのが見つかります。培養液の栄養が足らなかったのですね。

 もちろんこっちの話は本筋じゃありません。フランケンシュタインがどんどん巨大になり、富士の裾野で怪獣と戦うのがクライマックス。

 公開が1965年8月8日ですから、奇しくも『墓場の鬼太郎 手』とほぼ同時。この時期、海のむこうでは「アダムス・ファミリー」のTV版を放映中だったし、何か「手」のお化けのブームでもあったのかと感じてしまいます。


(以下次回)

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Comments

いまコカコーラ(?)のTVCMで、人間の手に各国のサッカー代表チームらしきペイントをして、指でボール・リフティングしたり、キックしたりする映像が流されています。
面白いアイデアだ~と感じていましたが、いろいろと、この様な実例を詳しく紹介して頂くと、実は古くからあったパターンだったのですね。
TVCMでは、擬人化・手が行進してみたりなど、何年かに一度は見られるパターンではありますが。
いやはや、大変に勉強になりマス。

Posted by: トロ~ロ | June 14, 2010 03:25 PM

小学生のとき、人食いアメーバと並んで2大怖いものの一つが「動く手首」だったことを思い出しました。
確かオモチャとかもあったような・・。
こんなにネタがあるんですね。勉強になります〜。

Posted by: kamomo | June 14, 2010 12:59 PM

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