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May 07, 2010

こまわり君はどこへ行くのか

 山上たつひこ『中春こまわり君』2巻(2010年小学館、1143円+税、amazon)が発売されているわけですが。

中春こまわり君 (ビッグコミックススペシャル) 中春こまわり君 2 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)

 2004年にこまわり君が復活して、すでに6年が経過。1巻の収録作品は4年以上かけて描かれたものですが、この2巻収録分は1年かからずに描かれています。山上たつひこは、マンガ家として本格的に復帰したといっていいのでしょう。

 すでにこまわり君は狂騒的なギャグ世界の住人ではありません。妻を持ち子を持ち、常識を持った会社員としてきちんとした生活をおくっています。もちろんギャグは昔取った杵柄というもので、名人芸というか古典芸能化しているというか、ちゃんと笑えます。

 1巻2巻をとおして読んで、新こまわり君のパターンはふたつ。ひとつはキャラクターたちがああだこうだとかけ合いながらギャグを見せるパターン。かつての『がきデカ』と同様ですな。とくにかつてのキャラクターを知ってる高年齢読者にはたまらない。

 もひとつは、ある謎を持った事件が起こり、こまわり君が狂言回しあるいは探偵役として行動するミステリ的な作品。この系統はこまわり君の枠内でなくても成立するお話ですが、なじみのキャラクターを利用するとさらにおもしろさが増します。

 で、作者はこのふたつのパターンをくりかえしながら、連載を進めていきます。かつてわたしは、新こまわり君からは老いと死の匂いがすると書きましたが、2巻が刊行されて、ますますその思いを強くしました。

 もちろん、山上作品が本来暗いものを抱えていることや、殺人や老いを題材に選んでいることもありますが、かつて能天気だったキャラクターたちが確実に老いていることが読者を驚かせるのです。作者の筆は容赦がない。

 しかも再開された『中春こまわり君』では、読者=現実の時間経過と同時進行でマンガキャラクターたちも年をとっていきます。

 多くのマンガキャラクターは年齢を重ねません。毎年春が来てもそこは華麗にスルーして、永遠の中学生だったり永遠の小学三年生だったりします。もちろん成長していくキャラクターもいるのですが、彼らの時間は読者のそれとは異なり、すごくゆっくり流れています。ですからマンガキャラクターが三つ年をとる間に、リアル世界では十年以上が経過していることもアタリマエにあります。

 リアル世界とマンガ世界が、同じ時間の流れを共有してる長期連載作品はむしろ少数派でしょう。かつて月刊学年誌では存在したかもしれません。アニメでは「おジャ魔女どれみ」シリーズが小学三年生から六年生までを四年間かけて描いたのが有名ですね。

 どれみたちは小学校卒業で視聴者の前から姿を消しましたが、これがもし、えんえんとずっと続いていればどうなるか。『中春こまわり君』はそういう実験をしているような気がします。

 キャラクターの成長=老いが、読者の成長=老いとシンクロする。いつか『中春こまわり君』のキャラクターたちも老いて死ぬ日が来るのじゃないか。2巻が刊行されたということは、その可能性もないとはいえない。その日がこわくもあり楽しみでもあり。

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Comments

リアル世界とマンガ世界が、同じ時間の流れを共有してる長期連載作品として強く印象に残っているのが
柳沢きみおの「翔んだカップル」です。

いわゆる「ラブコメ」というジャンルの代表作として知られた漫画ですが、実際の時間の流れの3年間かけてフィクションである主人公の高校1年から3年までを描いたことに当時中学生だった私は強烈なリアリティーを感じていたことを覚えています。
後の作者のインタビューによると、作者自身がリアル世界とマンガ世界が、同じ時間の流れを共有してることのエネルギーを信じていて、わざとそのような構成にしたと語っていました。

Posted by: ヌマエビ | May 08, 2010 05:39 PM

稲中、マサルさんなどのギャグ漫画が、学年が進まない事自体をメタなギャグにしていた。山上以降のギャグ作家は、その傾向にあるように思います。

逆に、こういう直球がガラ空きだったわけで、再び筆を取った山上先生の心境や如何に。

Posted by: はんてふ | May 08, 2010 10:30 PM

ヒカルの碁も同時進行ですよね

Posted by: なナシ | May 09, 2010 05:28 AM

あと、ドカベンのプロ野球編以降も
そうですね

Posted by: なナシ | May 09, 2010 05:32 AM

「がきデカ」のギャグは、徹底して写実的に描きこまれた日常に非常識を持ち込むことによって成立していたわけですが、それから30余年、日常の方が非常識になってしまったんですね。
こまわり君も常識人にならざるを得ないわけです。

Posted by: かくた | May 09, 2010 11:57 AM

企業社会っていうのがそもそも非常識的なもの
なのかも知れません。
ギャグではありますけど、サラリーマンのこまわり
くんを通して、そういうパワーを描く。
まるで「光る風」のテーマのようで。

Posted by: はんてふ | May 09, 2010 04:14 PM

>キャラクターの成長=老いが、読者の成長=老いとシンクロする
ある意味それを逆手にとって、というか逆手にとらざるをえなくなったのが「あぶさん」ですか?

Posted by: N | May 10, 2010 12:36 AM

おお「あぶさん」がありましたか! 「あぶさん」と「中春こまわり君」を比べるとむしろ「あぶさん」のほうがファンタジー度が強いですね。

Posted by: 漫棚通信 | May 10, 2010 09:33 PM

はんてふさんの書き込みをみて、得心というか。

こまわり君だけど、「光る風」に戻ってきた、ような
気がします。

もう一度、「光る風」読み直してみよう。

意外な共通点があるかな。

Posted by: らいおん親方 | May 13, 2010 01:54 AM

はじめて書き込ませていただきます。

この作品の読後感、何かに似ているとしばらく引っかかっていました。

本日、はたと気づきました。

『新・事件屋稼業』、特に末期が正にこの感じでした。

キャラクターが、連載を経るごとに年を重ね変化していく。

当時の月一掲載が楽しみでした。

Posted by: hide-fuji | May 20, 2010 06:06 PM

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