« ユーロマンガ4号 | Main | こまわり君はどこへ行くのか »

May 03, 2010

古典のマンガ化

 今日の朝日新聞に掲載された園部哲のエッセイで、イギリス人が読んでないのに読んだと見栄をはる本とは、という話題がとりあげられてました。

 昨年の調査で、読んだふりをしたことがあるひとが回答者の61%。そしてそのタイトルの第一位がオーウェル『1984年』、つづいて『戦争と平和』、『ボヴァリー夫人』だそうです。古典ですなあ。

 会話のなかで本の話題が出るのは、お互いをそれなりに読書家と認め合ってる仲だから、でしょう。そのなかでこういう小さな「ウソ」もありそうなことですね。わたしもぱっと思いうかびませんが見栄はったことあるかもしれない。いやきっとあるだろう。

 ちなみに正直に申告しますと上記三作のうち、『戦争と平和』も『ボヴァリー夫人』も読んだことありません。『1984年』だけは新庄哲夫訳のハヤカワ文庫NV版を持ってます。

 ただし現代の日本なら上記三作ともマンガで読めてしまうのですね。『戦争と平和』はイースト・プレスの文庫、「まんがで読破」シリーズにありますし(→amazon)、『ボヴァリー夫人』はいがらしゆみこがマンガ化してます(→amazon)。

戦争と平和 (まんがで読破) ボヴァリー夫人 (中公文庫―コミック版)

 日本でこういう話題が出るときは、マンガや子ども向けリライトでなら読んだことある、というひともけっこういるかも。

 『1984年』も最近マンガ化されました。

●ジョージ・オーウェル/森晶麿/大岡智子『comic 1984』(2010年PHP研究所、1000円+税、amazon

COMIC 1984

 アマゾンの当該ページに行きますと、カスタマーレビューに「買う価値ありません」というのと「最高傑作!」というのが並んでて、しかも両方ともにレビューを初めて書いたひとの評、というのがなにやら不思議感がただよいますな。

 えっとわたしの感想を言わせていただくと、堅実な仕上がりです。基本的にオーウェルの原作に忠実で、ストーリーの流れ、セリフ、さらに絵のほうでも都市や服装のデザインなど、原作からはみでるところはほとんどありません。

 そのぶん安心して読めますが驚きは薄い。演出も含めて地味で残念に感じました。じつはあの『1984年』をどう料理するのかと、発売前から期待してたんですけどね。結局本書も、イースト・プレスの「まんがで読破」文庫シリーズと同様に、簡易読書を目的としたもののようです。村上春樹『1Q84』人気に便乗した出版なのかな。

 まあわたしが求めるものが「マンガとしての」質や価値なので、古典や名作をマンガ化を刊行する出版社が想定する読者とは、ずれてるのかもしれません。古典をマンガ化するのなら、「引く」ばかりじゃなくて、何かを「足して」欲しいのですね。

 その意味では、カフカの『変身』という原作にいろんなものを足して足して足しまくってできあがった、桜壱バーゲン『変身』(2009年双葉社、838円+税、amazon)という作品がありまして、これはエログロ満載で「古典のマンガ化」としては邪道の限りをつくしてるのですが、むちゃくちゃおもしろい。

変身 (アクションコミックス)

 桜壱バーゲンは「小説を忠実に漫画にすると、単純に退屈きわまりない作品になってしまう」と考え、この方針でマンガ化したわけです。これに対して、原作をそのままマンガ化する試みもあります。

●フランク・カフカ/西岡兄妹『カフカ CLASSICS IN COMICS 』(2010年ヴィレッジブックス、1300円+税、amazon

カフカ 《Classics in Comics》

 この作品集でも『変身』はマンガ化されていますが、マンガなら当然描きたくなる「虫」の直接描写がまったくない。「退屈」になるのを恐れず、ただ絵の力だけで読者の緊張感を維持させようとする試みです。

 桜壱バーゲンから西岡兄妹まで、古典のマンガ化はこういう大きな振幅を見るのが楽しいのです。

|

« ユーロマンガ4号 | Main | こまわり君はどこへ行くのか »

Comments

ニュートンプレスから子供向けのNeuton clessicsという叢書が1997年にでていまして、次のような世界の名作がアメコミで読めます。手っ取り早く、読んだ気になります。

タイピー 白鯨 (以上メルビル)、ガリヴァー旅行記 (スウィフト)、アッシャー家の崩壊 (ポー)、マクベス 真夏の夜の夢 ロミオとジュリエット (以上シェイクスピア)、三銃士 (デュマ)、シラノ・ド・ベルジュラック (ロスタン)、デイヴィッド・コパーフィールド オリバー・ツイスト 大いなる遺産 二都物語(以上ディケンズ)、アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー 王子と乞食 トム・ソーヤーの冒険 (以上マーク・トウェイン)、レ・ミゼラブル (ヴィクトル・ユゴー)、宝島 (スティーヴンソン)、 アンクル・トムの小屋 (ストウ)、 オデュッセイア (ホメロス)、 ジェーン・エア (シャーロット・ブロンテ)。

私はタイピーとデイヴィッド・コパーフィールドの原作のほうは歯が立たないので、これですませています。タイピーはふしぎな話で、日本人はあまりしらない作品ですので、お勧めと思います。昔リーダース・ダイジェストという雑誌がありましたが、昨今のマンガは、原作の短いものもあって、わざわざマンガにしなくてもよいのではないかと思っています。「カラマーゾフの兄弟」の文庫本は2種類もっているのですが、全く歯がたたず、マンガですましたほうがいいかもしれません。映画を昔みましたが、どこが面白いのかわかりませんでした。「失われた時を求めて」は、8割方よんんでいるのですが、マンガも興味があります。

Posted by: しんご | May 13, 2010 01:32 AM

わたしもブリティッシュ・コミックスについては英文Wikipedia程度の知識しかありません。かつて、イギリスにはモノクロマンガが多いということを知って驚いたことがあります。

Posted by: 漫棚通信 | May 07, 2010 09:30 PM

そういえば大英帝国のカートゥーンというかコミック・ストリップというかブリコミ(ブリテン・コミック)というか、如何なのでしょうか??
昔々、SFワールドでは、量的にアメリカ一番、質的に英国一番、認識論的に東欧・ロシア圏一番、あっと驚いたことに独自性でフランス一番、日本はガラパゴスSF(今にして思えば)だったと、すご~~く雑に乱暴に色分けしていた(私的に)のですが。
う~~む。
推理小説とSFの発祥の地なんだけどな~~。

Posted by: トロ~ロ | May 06, 2010 05:49 PM

コミック「1984」は店頭で村上本と並んでいるのをみましたが、残念ながら買うまでには至りませんでした。

ちなみに、「古典作品のマンガ化」の古典は
萩尾望都によるブラッドベリの「ウは宇宙船のウ」ですかね。
あれで何万人の青少年少女達が叙情エスエフに走ったことか...

Posted by: に | May 06, 2010 11:33 AM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 古典のマンガ化:

« ユーロマンガ4号 | Main | こまわり君はどこへ行くのか »