ロック・スターはマンガを描く『アンブレラ・アカデミー』
有名人とかロック・スターがマンガの企画に参加するのを「ヴァニティ・プロジェクト」と称するそうです。ほうほうそうか。古くは「スーパーマン対モハメド・アリ」というマンガがありましたし、マーヴェルにはロックバンド「KISS 」を主人公にしたマンガもあった。最近もアヴリル・ラヴィーンが参加したマンガとかね。
歴史に名を残してるのは別にして、こういうものの多くは「底の浅い、お粗末なコミック」として軽蔑されてる、らしい。
でも本気でマンガを描こうとするひともいるわけで、日本ならしょこたんとかがそうかもしんない。
人気ロックバンド、マイ・ケミカル・ロマンスのボーカル、ジェラルド・ウェイがストーリーを担当した作品が邦訳されてます。
●ジェラルド・ウェイ/ガブリエル・バー『アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~』(金原瑞人訳、2010年小学館集英社プロダクション、2200円+税、amazon)
出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。
マイ・ケミカル・ロマンスはこういうバンド(→YouTube )。映画「ウォッチメン」の主題歌も歌ってたりします(→YouTube )。
絵を担当してるのがブラジル在住のガブリエル・バー。アマゾンの「なか見!検索」で絵の一部が見られますが、ミニョーラふうですな。
ミスター・モノクルは世界最高の科学者。処女懐胎で生まれた七人の子どもたちを養子にしてみずから教育し、世界を救うためのスーパーヒーロー・チームをつくりあげます。その名こそ「アンブレラ・アカデミー」!
えーと「X-MEN 」とそっくりですが、作者はもちろん意識的にそういう設定にしてます。アンブレラ・アカデミーのメンバーは、ゴリラのカラダを持った怪力男、念力やテレパシーの使い手、タコのような触手の持ち主、ナイフの名手、時間跳躍者、などですが、おもしろいのが「ルーマー」というコードネームの女性。彼女が「噂で聞いたんだけど……」と話し出すと、その内容がすべて現実化してしまうというとんでもないものです。
で、いよいよ彼らのかっこいい活躍が始まる、かというとこれがそうでもないのですね。プロローグが終わると、30歳前後になった彼らはすでにチームを解散してしまっていることが明らかになります。生活に疲れた彼らは養父の葬式のためアカデミーで再会します。兄弟たちはお互いに不仲だし、自分たちを愛さなかった養父を恨んでいる。
そのとき世界の終末が迫っていることが明かされ、ヒーロー・チーム「アンブレラ・アカデミー」は再結成されることに。しかし最強最悪の敵は意外なところにひそんでいた……
とまあ、裏返しの「X-MEN 」ですね。すでに存在するアメコミのフォーマットを利用して、新しいものをつくりだそうという試みです。
単純に思えるアメコミ世界もひねろうと思えばいくらでも可能なことはムーアとミラーがすでに証明してますが、その実験は現在も続いているのです。
ストーリーを担当したジェラルド・ウェイはニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ出身。ちなみにこの学校はターザンのマンガを描いたので有名なバーン・ホガースが創立した学校だったりします。
ですからこのロック・スターは、本作のストーリーだけじゃなくてキャラクター・デザインなど作品のすみずみまで関与しているのでありました。いやマンガ世界に関わる才能はあちこちにいるものですねえ。
魅力的なのはガブリエル・バーのスタイリッシュな絵と、デイヴ・スチュワートによるカラリング。デイヴ・スチュワートは、ミニョーラの『ヘルボーイ』のカラリストでもありますし、アイズナー賞カラリング部門の常連受賞者です。
本書は2008年度アイズナー賞のベストリミテッドシリーズ賞を受賞し、商業的にも成功しました。アメリカでは昨年末にすでに第二巻『ダラス』が発売されてます。
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