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April 18, 2010

まあみなさん聞いてください

 大瀧詠一のレコードアルバム「A LONG VACATION 」は、発売された1981年に日本レコード大賞のアルバム大賞受賞。翌年には日本初=世界初のCDのひとつとして発売されました。以後現在までロングセラーを続けてるから聞いたことがあるかたも多いでしょう。

A LONG VACATION 20th Anniversary Edition

 ご多分にもれずわたしもこのアルバムが大好きで、クルマのCDプレーヤーに入れっぱなし。乗るたびに聞いてるのですが、これが流れると家族がうるさいこと。ストーカー・ソングだー。

 えー何のことかといいますと、「A LONG VACATION 」に収録されてる松本隆作詞の名曲「恋するカレン」であります。この歌詞がもうなんというかストーカーの心境を歌ってるのですな。

 とか歌詞はネット上で拾っていただくとして、要約しますと、主人公(きっと10代男、童貞)がダンスパーティーに参加して壁際に立っていたところ、美人のカレンがステディと仲良く踊っているのを目撃する。

 彼は一瞬でカレンに恋しますが、さらにその数秒後には、告白することもなく自分が振られてしまうのを自覚する。さすがに彼も自分が何者かがわかってるのですな。

 そして彼はカレンと「浜辺の砂の上で抱きあう幻」を見ます。歌としては盛り上がるところ。ま、ここまでは許しましょう。

 しかしここからの展開がちょっとスゴイ。これから主人公の心はカレンを責める方向に向かうのですね。

かたちのない優しさ
それよりも見せかけの魅力を選んだ

 自分はひとに見えない優しさを持ってるのに、カレンはボーイフレンドの見せかけの魅力を選んだと怒ってます。お前は、カレンとそのボーイフレンドの何を知ってるんだ、と問いたい。

オー、カレン 誰よりを君を愛していた
心と知りながら捨てる
オー、カレン 振られたぼくより哀しい
そうさ哀しい女だね君は

 出会ってまだ数秒間しかたっていないのに、誰よりも君を愛していたと言い切るこの男。さらにステディとダンスしていただけで、ひとことも言葉を交わしたことのない男から、哀しい女だねと非難されてしまうカレン。うわぁ、どうよこれ。

*****

 「A LONG VACATION 」にはさらにもう一曲、ちょっと待ってくれよという曲が存在します。

 これも名曲、「さらばシベリア鉄道」ですね()。

 恋人から別れの手紙が届く。「あなた以上冷ややかなひとはいない」 うらみごとはしょうがないけど、手紙のスタンプを見てびっくり。

君の手紙読み終えて切手を見た
スタンプにはロシア語の小さな文字

 ロ、ロシア……! ソ連崩壊前の曲ですから、まだ冷戦中。そんな時期に恋人の手紙がロシアから。これは驚きます。

答えを出さないひとに
ついてゆくのに疲れて
行き先さえ無い明日に飛び乗ったの

 だからといってシベリア鉄道に乗るかー!? こういう恋人を持ちますと大変ですね。

*****

 「A LONG VACATION 」がクルマの中で流れるたびに家族から文句言われてるのですが、もひとつ、これが流れるとみんなわあわあとうるさくなる曲があります。

 河合奈保子/竹内まりや「けんかをやめて」()。

 これがまた最初っから全開バリバリでとばしてくれます。

けんかをやめて
ふたりをとめて
わたしのために
争わないで
もうこれ以上

 何さまやお前はーっっっ。

ボーイフレンドの数
競う仲間たちに
自慢したかったの
ただそれだけなの

 おーのーれーはーっ。「歌」なのでメロディにごまかされてますが、これ、ひどいです。聞いてて冷静でいられなくなります。

 これは女性にとって夢のような状況なのだろうなあと。しかも聞くひとたちもそれを許してるんだなあ。

*****

 さて、わたし人生幸朗師匠みたいなことを書いてますが、西炯子『娚の一生』全三巻(2009年~2010年小学館、各400円+税、amazon)について。

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)娚の一生 2 (フラワーコミックスアルファ)娚の一生 3 (フラワーコミックス)

 ボーイミーツガールならぬガールミーツボーイの物語。どこが新しいかといいますと、女性が「三十路も半ばを過ぎた」キャリアウーマンで、男性が51歳の大学教授。

 高年齢恋愛描写が売りの作品なのですが、奇妙な性格の男が押して押して押しまくる。女性はとまどいながらも男にひかれてゆく。おまけに女性に500万円の着物をプレゼントする恋愛界の超人。というわけでこれ、古典的少女マンガだよなあというのが1・2巻を読んだときのわたしの感想

 第3巻が発売されて完結しましたが、誘拐事件はおこるわ大地震は発生するわ、この難関を乗りこえて男性(たち)が女性を救おうと超人的な努力をする。ああ古典だ。

 でね、この3巻では主人公女性をとりあっていい歳をした男性=王子様ふたりが殴り合うのですね。読んでるわたしの脳裏には「けんかをやめて」が流れてました。やっぱ恋愛をあつかうと歌でもマンガでも、登場人物まともじゃなくなるみたいです。

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Comments

>  彼は一瞬でカレンに恋しますが、
>  出会ってまだ数秒間しかたっていないのに、

これ、どうなんでしょうねぇ。
私は、歌の主人公がカレンと昔から友達で、ずっと告白できずにいたけれど、ある夜のダンスパーティーで彼女にその気がないことを悟ったので恨み言を言って去る、というストーリーだと思ってましたが。

細野不二彦『ママ』第1話に「恋する~」のサビの歌詞が使われてますね。


ちなみに、最強のストーカー・ソングは早川義夫「サルビアの花」だと思います。
こっちはほりのぶゆきがロッキングオン連載「渋松対談」の挿画4コマ『タテノリ』でネタにしてました。

Posted by: かくた | April 19, 2010 07:11 PM

『A Long Vacation』ははじめて自分で買った日本人アーティストのアルバムだったのですが、大学の頃にCDで聞きなおして驚愕した覚えがあります。
「恋するカレン」なんかCMソングにまでなってましたが、このアルバムの松本隆の詩はじつはみんなひどい(w 倦み疲れた空気で二人で泊まったモーテルでの一夜「今夜はソファーで寝てあげるよ」と歌う「Velvet Motel」とか、南の島で昔の恋人の顔が思い出せなくなった気分を歌う「カナリア諸島にて」とか。
このアルバムの曲はほとんど全曲口ずさめるほどメロディが頭に入っているのですが、改めて歌詞聞いてみたときにこんなひどいことを歌っていたのかとびっくりしました。

Posted by: boxman | April 20, 2010 08:09 PM

いつも楽しく拝読しております。
竹内まりやの曲は、「私の曲を聴く世代にはこんな単語をちりばめれば受けるだろう」というあざとさが、ものすごーく鼻についてしまってどうしても好きになれません。提供曲「けんかをやめて」もそうですが、ご自身のアルバム「Bon Appetit!」などは、最初から最後までおぞましいほどの受け狙いソング一色。しかし誰に言っても「そうかなあ?」で済まされてしまい、自信をなくしておりましたところ、このエントリで少し気が晴れました。
まりやさんのご夫君のほうは、もう少しうまくオブラートに包んではいらっしゃいますが、あれほどのセレブに「蒼茫」などという曲を書かれてもシラけてしまうのは当方がよほどヒネくれているからなんでしょうね。

Posted by: KY | April 21, 2010 03:18 PM

みなさま、コメントありがとうございます。わたし四国在住ですが大瀧詠一がやってたラジオ番組、ラジオ関東の「ゴーゴーナイアガラ」を聞いておりました。四国でそんなものが聞こえたのかとおっしゃるかもしれませんが、晴れた夜ならけっこう聞こえたのですね。深夜放送でよく聞いたのがパックインミュージック第二部の馬場こずえ。ここで初期大瀧詠一がよく流されてまして、「馬場こずえの深夜営業」に変わったとき大瀧詠一がジングルを作曲してます。オールナイトニッポン第二部時代の山下達郎のファンでもありました。矢野顕子がアルバムデビューしたとき、山下達郎がオールナイトニッポンで全曲披露というとんでもないことをしたこともなつかしい。

Posted by: 漫棚通信 | April 21, 2010 08:16 PM

ストーカーソングといえば石川ひとみで有名な「まちぶせ」
元は三木聖子の曲だったようですが。

Posted by: yuki | April 21, 2010 08:30 PM

初めまして、常日頃からこちらの記事のお世話になっている者です。
僕は松本隆氏のファンなのですが、今回の記事でちょっとお耳に入れておきたいことがあったので書き込ませていただきます。

初めに紹介されている「恋するカレン」についてなのですが、松本隆氏の自伝的小説「微熱少年」に元ネタらしきエピソードがあります。
それによると、ダンスパーティの箱バンを依頼された主人公が彼女を連れて参加するのですが、演奏中に彼女が他の男性と踊っているのを目にする、という具合です。
つまり、主人公がストーキングしたのではなく、彼女の方が浮気(?)している状況ですね。

自分もそうだったのですが、これを踏まえて歌詞を見直すとまた違った情景が見えてくるかなと思います。

Posted by: ゆの字 | April 22, 2010 12:40 AM

このレコード、ぼくも大好きで
アイポッドで、時折聴いております。

最近、これを女性歌手が歌ったものが出たでしょ。

太田裕美がひとつ唄っているのにショック!
なんか不思議なアルバムですよ。

Posted by: 長谷邦夫 | April 23, 2010 07:12 PM

>長谷さま

太田裕美の「さらばシベリア鉄道」でしたら実は「A LONG VACATION」に先行して発売されてまして、発売順で言えばそちらの方がオリジナルで大滝版はセルフカバーということになります。
詳しくはこちらで。
・鳥肌音楽「さらばシベリア鉄道」
http://ameblo.jp/sugarmountain/entry-10494838733.html

ああ、どんどん話題がマンガから離れていく(笑)。

当時大瀧師と一番縁の深いマンガ家って実は高信太郎だったんですよね。

Posted by: かくた | May 03, 2010 01:10 AM

『娚の一生』の男女の年齢差は約15歳ですね。
これは勿論フィクションなわけですが、かつて竹宮恵子先生が寺山修司への恋情をもろに表していた不思議なマンガがありましたよね(タイトル失念)。実際に二人の間に何があったのかは知りませんが、気になって調べてみたら、竹宮、寺山両氏の年齢差がちょうど15歳なんですね。
いや、だからどうということではないのですが・・・

Posted by: natunohi69 | May 06, 2010 01:33 PM

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