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April 28, 2010

ユーロマンガ4号

 かつて、アマゾンがアメリカにしかなかった時代、フランス語のバンド・デシネをアメリカアマゾンに注文したことがありました。そのころはフランスからアメリカへ船便、トラックでアメリカ大陸を横断、さらに太平洋を船便で日本へ、というとんでもない経路で、日本の田舎まで本を届けてくれてたわけです。

 フランスアマゾンができて海外発送を始めてから、フランス語の本(もちろんわたしが買うのはバンド・デシネ=BDなわけですが)を手に入れるのがずいぶん楽になりました。いやもう簡単に買えちゃう。

 わたし、フランス語まったくできません。でもフランスアマゾンならサイトの構造が日本やアメリカのアマゾンとそっくりなので、カード番号はこう打ち込んで、自分の住所はここに書いて、というのがわかりやすいのですね。

 というわけで現代では、手に入れようと思えばいくらでも海外のマンガ作品が手にはいります。問題は資金力、よりも語学力。

 わたしもフランス語で描かれたBDをいくつか持ってますが、これがあなた、フキダシやキャプションになにが書かれてるのかまったくわからない。

 基本的に絵を見て楽しむだけ、です。あとはまあ、ストーリーを想像するという楽しみがありますが、西部劇などはきっとこうだろうと比較的わかりやすいのですが、BDに多いSFになりますと、何が何やらの世界です。

 日本マンガはこれまで国内市場が大きくてドメスティックに完結していたので、海外マンガの輸入が極端に少ない。戦後邦訳された海外マンガ、というリストを作ったとしても、たいした量にはならないのですが、まして邦訳されたBDとなりますと、微々たるものです。

 ところがその状況で、BDの専門誌を定期的に刊行するという意欲的な出版が始まってもう二年。正直いいまして、これほど続くとは思ってなかった。

●『euromanga ユーロマンガ』4号(2010年Euromanga合同会社/飛鳥新社、1800円+税、amazon

ユーロマンガ 1 ユーロマンガ vol.2 (2) ユーロマンガ vol.3 ユーロマンガ vol.4

 出版社からご恵投いただきました。ありがとうございます。

 さて『ユーロマンガ』という雑誌形式でBDを読む場合、大きな問題があります。BDはアルバムと呼ばれるハードカバーの大型の本、もちろんオールカラーで出版されるのがふつうですが、このページ数が約50ページぐらい。

 『ユーロマンガ』は4つのBDを連載することではじまりましたが、1号に掲載されたのがその4作品のそれぞれ1巻の半分だけ、25ページほど。

 『ユーロマンガ』1号を読んだ段階ではリーダビリティという点でずいぶん問題があったのは確かです。だって4つのBDが掲載されてても、すべて巻の途中でぶち切られてるんですから。

 ただし、ニコラ・ド・クレシー『天空のビハンドム』はひたすら絵を見せる(=ストーリーがムズカシイ)作品ですから、巻の途中で切られても基本的に問題なし。カナレス/ガルニド『ブラックサッド』は一人称探偵が行動するハードボイルドミステリなので、こういう連載形式でもそれなりオッケー、ではありました。

 カネパ/バルブッチのSF『スカイ・ドール』やデュフォー/マリーニの現代吸血鬼もの『ラパス』などは、巻の途中で切られちゃうとストーリーがよくわかんなかったぞー、というのが本音です。

 ですから『ユーロマンガ』は、2号ずつ買い、2号ずつ読むのが正しいのですね。

 本4号では、カネパ/バルブッチ『スカイ・ドール』やデュフォー/マリーニ『ラパス』はそれぞれ2巻の終わりまで到達して、お話構成の全貌が見えてきたところですし、ニコラ・ド・クレシー『天空のビハンドム』はあと少しで完結、というところまで来ました。

 現在連載中の作品でわたしのお気に入りが、3号から始まったジャン=ピエール・ジブラ『赤いベレー帽の女』。

 第二次大戦末期のパリを舞台に、レジスタンスの女性と風来坊の泥棒を主人公にしたサスペンス+日常描写系作品。現代日本マンガには存在しない描き方の女性の絵に魅かれまくりです。これも本書4号で、1巻の終了時までたどりつくことができました。

 『ユーロマンガ』は定期的にBDを日本に紹介するという、日本マンガ史上、空前のことをしています。フランス語を読める日本人は圧倒的少数です。そこへ正しいBDを紹介してくれてるわけですから、いやほんとにありがたいことでございます。

 日本人がBDを読むことに何の意味があるのか、という疑問があるかもしれません。これについては雑誌「サイゾー」2010年5月号に掲載された小田切博「グラフィックノベルって何? 変容するアメリカのマンガ環境」という記事に、こういう記述があります。

実は現在、フランスと並んでもっともさまざまな国のマンガが流通しているのがアメリカのコミックス市場なのだ。こうした環境は、必然的にアメリカ作家達の表現にハイブリッドな「幅」を与えてもいる。アメリカンコミックスと日本マンガ、フランスのバンドデシネ(マンガを意味する仏語)を等分に見て育ったアメリカの新世代コミックスアーティストたちの表現は、現在進行形で独自の洗練を見せつつある。

 えっとね、ですから読者としてのわたしとしましても、日本マンガにはもっと世界に目を向けてもらいたいなあ、なんて思うわけであります。日本マンガにはもっと進歩してもらいたいのですね。

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April 23, 2010

あなたを守りたい『相羽奈美の犬』

 昨年の夏に発売になってたのを買いのがしてて、最近読んだ作品。

●松田洋子『相羽奈美の犬』1巻(2009年ぶんか社、1200円+税、amazon

相羽奈美の犬 1

 なんつーかもう、著者はいじけた人間を描かせたら日本一。『薫の秘話』も『まほおつかいミミッチ』も主人公がいじけてましたが、本作はさらにいじけかたが突き抜けてます。

 主人公は両親に見放されたニートの青年。いじけた性格で、しかもそれを自虐的に受け入れています。彼は街で見かけた美少女を好きになりますが、だからといって話がしたいとか恋人になりたいとか思ってるわけではない。彼女をただただ見守るために、正しくストーカーしているうちに、自動車事故で死んでしまう。

 ところが、ある犬の霊に導かれ、主人公は犬として生まれ変わることになります。美少女に飼われ、さずかった魔法を使い悪人たちから彼女を守る!

 というようなイキオイのよい話ではなく、犬になっても主人公はいじけまくってます。魔法持ってるくせに。ちょっとやなことがあるとすぐ逃げるし。いじけ界の巨人であります。

 ヒロインに対抗する悪人たちが、これがまたしょぼい。ヒロインをいじめる高校の同級生(♀)。横恋慕する教育実習生(♂)。愛犬を愛せないオバサン。子どもをだまして生活するホームレス(♂)。

 毎回、小悪党たちが犬の魔法で成敗されるというお話がくりかえされるのですが、意外なほど読後感がいい。なぜかといいますと、悪人たちも主人公に成敗されることで救われているからです。袋小路にはいってしまいどうしようもなくなった彼らの人生をすっぱりと(マンガ的に)解決してくれる。

 イタイ登場人物たちによる自虐系ギャグが詰め込まれたご近所ホラー。おもしろいなあ。

 読みにくいタイトルですが、「あいわなみのいぬ」と読みます。「アイワナビーの犬」にひっかけてあるのかな?

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April 18, 2010

まあみなさん聞いてください

 大瀧詠一のレコードアルバム「A LONG VACATION 」は、発売された1981年に日本レコード大賞のアルバム大賞受賞。翌年には日本初=世界初のCDのひとつとして発売されました。以後現在までロングセラーを続けてるから聞いたことがあるかたも多いでしょう。

A LONG VACATION 20th Anniversary Edition

 ご多分にもれずわたしもこのアルバムが大好きで、クルマのCDプレーヤーに入れっぱなし。乗るたびに聞いてるのですが、これが流れると家族がうるさいこと。ストーカー・ソングだー。

 えー何のことかといいますと、「A LONG VACATION 」に収録されてる松本隆作詞の名曲「恋するカレン」であります。この歌詞がもうなんというかストーカーの心境を歌ってるのですな。

 とか歌詞はネット上で拾っていただくとして、要約しますと、主人公(きっと10代男、童貞)がダンスパーティーに参加して壁際に立っていたところ、美人のカレンがステディと仲良く踊っているのを目撃する。

 彼は一瞬でカレンに恋しますが、さらにその数秒後には、告白することもなく自分が振られてしまうのを自覚する。さすがに彼も自分が何者かがわかってるのですな。

 そして彼はカレンと「浜辺の砂の上で抱きあう幻」を見ます。歌としては盛り上がるところ。ま、ここまでは許しましょう。

 しかしここからの展開がちょっとスゴイ。これから主人公の心はカレンを責める方向に向かうのですね。

かたちのない優しさ
それよりも見せかけの魅力を選んだ

 自分はひとに見えない優しさを持ってるのに、カレンはボーイフレンドの見せかけの魅力を選んだと怒ってます。お前は、カレンとそのボーイフレンドの何を知ってるんだ、と問いたい。

オー、カレン 誰よりを君を愛していた
心と知りながら捨てる
オー、カレン 振られたぼくより哀しい
そうさ哀しい女だね君は

 出会ってまだ数秒間しかたっていないのに、誰よりも君を愛していたと言い切るこの男。さらにステディとダンスしていただけで、ひとことも言葉を交わしたことのない男から、哀しい女だねと非難されてしまうカレン。うわぁ、どうよこれ。

*****

 「A LONG VACATION 」にはさらにもう一曲、ちょっと待ってくれよという曲が存在します。

 これも名曲、「さらばシベリア鉄道」ですね()。

 恋人から別れの手紙が届く。「あなた以上冷ややかなひとはいない」 うらみごとはしょうがないけど、手紙のスタンプを見てびっくり。

君の手紙読み終えて切手を見た
スタンプにはロシア語の小さな文字

 ロ、ロシア……! ソ連崩壊前の曲ですから、まだ冷戦中。そんな時期に恋人の手紙がロシアから。これは驚きます。

答えを出さないひとに
ついてゆくのに疲れて
行き先さえ無い明日に飛び乗ったの

 だからといってシベリア鉄道に乗るかー!? こういう恋人を持ちますと大変ですね。

*****

 「A LONG VACATION 」がクルマの中で流れるたびに家族から文句言われてるのですが、もひとつ、これが流れるとみんなわあわあとうるさくなる曲があります。

 河合奈保子/竹内まりや「けんかをやめて」()。

 これがまた最初っから全開バリバリでとばしてくれます。

けんかをやめて
ふたりをとめて
わたしのために
争わないで
もうこれ以上

 何さまやお前はーっっっ。

ボーイフレンドの数
競う仲間たちに
自慢したかったの
ただそれだけなの

 おーのーれーはーっ。「歌」なのでメロディにごまかされてますが、これ、ひどいです。聞いてて冷静でいられなくなります。

 これは女性にとって夢のような状況なのだろうなあと。しかも聞くひとたちもそれを許してるんだなあ。

*****

 さて、わたし人生幸朗師匠みたいなことを書いてますが、西炯子『娚の一生』全三巻(2009年~2010年小学館、各400円+税、amazon)について。

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)娚の一生 2 (フラワーコミックスアルファ)娚の一生 3 (フラワーコミックス)

 ボーイミーツガールならぬガールミーツボーイの物語。どこが新しいかといいますと、女性が「三十路も半ばを過ぎた」キャリアウーマンで、男性が51歳の大学教授。

 高年齢恋愛描写が売りの作品なのですが、奇妙な性格の男が押して押して押しまくる。女性はとまどいながらも男にひかれてゆく。おまけに女性に500万円の着物をプレゼントする恋愛界の超人。というわけでこれ、古典的少女マンガだよなあというのが1・2巻を読んだときのわたしの感想

 第3巻が発売されて完結しましたが、誘拐事件はおこるわ大地震は発生するわ、この難関を乗りこえて男性(たち)が女性を救おうと超人的な努力をする。ああ古典だ。

 でね、この3巻では主人公女性をとりあっていい歳をした男性=王子様ふたりが殴り合うのですね。読んでるわたしの脳裏には「けんかをやめて」が流れてました。やっぱ恋愛をあつかうと歌でもマンガでも、登場人物まともじゃなくなるみたいです。

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April 15, 2010

筒井康隆をみんなで描く

 今の子どもたちについてはよくわかんないけど、かつての少年少女たちが必ず読んでいたのが、星新一。そしてちょっとヒネた少年少女たちが必ず読んでいたのが、筒井康隆、だったんじゃないかな。

 1995年にいろんなマンガ家が筒井作品をマンガ化する、という企画本が刊行されました。これは個人的にヒット。作家側にも読者側にもなじみ深い作品が多くて、楽しい企画でした。

●『筒井漫画涜本』(1995年実業之日本社、951円+税、amazon

筒井漫画涜本

 で、同じ企画で15年ぶりの続編が刊行されました。

●『筒井漫画涜本ふたたび』(2010年実業之日本社、1600円+税、amazon

筒井漫画涜本ふたたび

 えっとこういうのはですね、まず、どのマンガ家を選んで描かせているのかという意外な人選を楽しむ。次に作品のデキを楽しむ、わけです。

 かつての1995年版に描いてたのは、内田春菊、相原コージ、南伸坊、喜国雅彦、蛭子能収、清水ミチコ、まつざきあけみ、しりあがり寿、けらえいこ、吾妻ひでお、矢萩貴子、ふくやまけいこ、山浦章、三条友美、とり・みき、加藤礼次朗、いしいひさいち。

 なんつっても三条友美が登場してたのが衝撃でした(作品は「亭主調理法」)。びっくしりしたのがとり・みき「万延元年のラグビー」。筒井作品を使ってマンガ史を早送りしてみせるというとんでもないものでした。

 2010年版に登場したのは以下のかたがた。いがらしみきお、大地丙太郎、折原みと、高橋葉介、菊池直恵、竹本健治、明智抄、Moo.念平、田亀源五郎、伊藤伸平、鈴木みそ、とり・みき、雷門獅篭、荻原玲二、畑中純、みずしな孝之。

 この中では、『鉄子の旅』の菊池直恵が描く「熊の木本線」や、田亀源五郎の「恋とは何でしょう」(えー、男どうしの愛の話)が、まんまのキャスティングで楽しい。
 
 1995年版では筒井作品の破壊と暴力のエスカレーションを描いたマンガが多かったのですが、本書2010年版ではそっち系は少なくて、詩情性や奇妙な味をもった作品が多くなってます。

 なかでも筒井作品と相性が良かったのが、いがらしみきお「北極王」と畑中純「遠い座敷」。とくに前者はその叙情性が絶品。原作を読んでいなかったので、ちょっとぼうぜんとしてしまいました。後者は原作がそうとうに怖いのですが、マンガのほうはコワイというより『まんだら屋の良太』みたいな畑中ワールドに引き寄せて描いてて、これがなかなか。

 そして、再度登場しているのがとり・みき「わが良き狼(ウルフ)」。かつての西部劇ヒーローが帰郷してくるという、わたし大好きな話なんですよ。原作には書かれてない、ヒーローが若いときの活躍シーンを、かつてドタバタギャグ中心だった時代の「漫画映画」=カートゥーン・タッチで描いてます。こういうカートゥーンはすでに失われたものですから、ノスタルジーが二乗されてるわけですな。

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April 08, 2010

悪意から狂気へ『ヒメアノ~ル』

 古谷実『ヒメアノ~ル』が6巻(2010年講談社、533円+税、amazon)で完結。

ヒメアノ~ル(6)<完> (ヤンマガKCスペシャル)

 最近の古谷実作品のタイトルは、それぞれ作品内容と深く関わっています。たとえば『ヒミズ』とはモグラに似た地中の小型哺乳類です。

 『シガテラ』とはシガテラトキシンという毒を持つ熱帯魚。フグと同じように、もともと自分が毒を持っているのではなく、プランクトンをたべることでその毒を自身のカラダに蓄積していきます。このマンガでは、ある人間の持つ毒=悪意が他の人間に「感染」していくことを暗示してるわけです。

 『わにとかげぎす』は作品内にも姿が登場する深海魚。この寓意はわかりやすくて、深海魚のような情けない生活を送ってる男が、日常的な幸せに向けてゆっくりと浮上していく話です。

 ただし『ヒメアノ~ル』というタイトルはちょっとわかりにくかった。「アノール」とはトカゲのことです。となると「ヒメアノール」は「ヒメトカゲ」のことでしょう。日本で有名なのは沖縄などに生息する「ヘリグロヒメトカゲ」で、こういう姿をしています。

 体長10cmほどで(見ようによっては)かわいい顔をしてます。彼らは小昆虫を食べているそうですが、当然猛禽たちのエサにもなっていて、ま、人間にたとえれば社会的弱者ですな。

 『ヒメアノ~ル』ではこれまでの作品と同様に、悪意対小市民の対決が描かれます。ただし過去作品と比べて敵はあまりに強大。小さな幸せを模索している悩める小市民たちに対して、それを阻止しようとする連続殺人犯、快楽殺人者が登場します。おそらくこいつは古谷作品の中でも最強にして最悪。

 本書で登場人物や読者の前に登場する敵は、悪意からさらに進んで、狂気です。『ヒメアノ~ル』は真正面から狂気を描く試みでありました。

 しかも狂気の描かれかたがコワイ。本書では殺人者の狂気がこまかく描かれるのと同じバランスで、被害者たちの心情が、これもじっくりと描きこまれています。つまり被害者=ヒメトカゲたちが、いかに殺人の被害者となっていくのかを描いたのが本書なのです。スリラーとしても一級。

 古谷実作品ですから、おちゃらけたギャグもいっぱい。しかしそれも含めて、すべてコワイ。作者はどこまで行くつもりなんだ。読者としては呆然として見守るだけです。

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April 02, 2010

ロック・スターはマンガを描く『アンブレラ・アカデミー』

 有名人とかロック・スターがマンガの企画に参加するのを「ヴァニティ・プロジェクト」と称するそうです。ほうほうそうか。古くは「スーパーマン対モハメド・アリ」というマンガがありましたし、マーヴェルにはロックバンド「KISS 」を主人公にしたマンガもあった。最近もアヴリル・ラヴィーンが参加したマンガとかね。

 歴史に名を残してるのは別にして、こういうものの多くは「底の浅い、お粗末なコミック」として軽蔑されてる、らしい。

 でも本気でマンガを描こうとするひともいるわけで、日本ならしょこたんとかがそうかもしんない。

 人気ロックバンド、マイ・ケミカル・ロマンスのボーカル、ジェラルド・ウェイがストーリーを担当した作品が邦訳されてます。

●ジェラルド・ウェイ/ガブリエル・バー『アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~』(金原瑞人訳、2010年小学館集英社プロダクション、2200円+税、amazon

アンブレラ・アカデミー ~組曲「黙示録」~

 出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。

 マイ・ケミカル・ロマンスはこういうバンド(→YouTube )。映画「ウォッチメン」の主題歌も歌ってたりします(→YouTube )。

 絵を担当してるのがブラジル在住のガブリエル・バー。アマゾンの「なか見!検索」で絵の一部が見られますが、ミニョーラふうですな。

 ミスター・モノクルは世界最高の科学者。処女懐胎で生まれた七人の子どもたちを養子にしてみずから教育し、世界を救うためのスーパーヒーロー・チームをつくりあげます。その名こそ「アンブレラ・アカデミー」!

 えーと「X-MEN 」とそっくりですが、作者はもちろん意識的にそういう設定にしてます。アンブレラ・アカデミーのメンバーは、ゴリラのカラダを持った怪力男、念力やテレパシーの使い手、タコのような触手の持ち主、ナイフの名手、時間跳躍者、などですが、おもしろいのが「ルーマー」というコードネームの女性。彼女が「噂で聞いたんだけど……」と話し出すと、その内容がすべて現実化してしまうというとんでもないものです。

 で、いよいよ彼らのかっこいい活躍が始まる、かというとこれがそうでもないのですね。プロローグが終わると、30歳前後になった彼らはすでにチームを解散してしまっていることが明らかになります。生活に疲れた彼らは養父の葬式のためアカデミーで再会します。兄弟たちはお互いに不仲だし、自分たちを愛さなかった養父を恨んでいる。

 そのとき世界の終末が迫っていることが明かされ、ヒーロー・チーム「アンブレラ・アカデミー」は再結成されることに。しかし最強最悪の敵は意外なところにひそんでいた……

 とまあ、裏返しの「X-MEN 」ですね。すでに存在するアメコミのフォーマットを利用して、新しいものをつくりだそうという試みです。

 単純に思えるアメコミ世界もひねろうと思えばいくらでも可能なことはムーアとミラーがすでに証明してますが、その実験は現在も続いているのです。

 ストーリーを担当したジェラルド・ウェイはニューヨークのスクール・オブ・ヴィジュアル・アーツ出身。ちなみにこの学校はターザンのマンガを描いたので有名なバーン・ホガースが創立した学校だったりします。

 ですからこのロック・スターは、本作のストーリーだけじゃなくてキャラクター・デザインなど作品のすみずみまで関与しているのでありました。いやマンガ世界に関わる才能はあちこちにいるものですねえ。

 魅力的なのはガブリエル・バーのスタイリッシュな絵と、デイヴ・スチュワートによるカラリング。デイヴ・スチュワートは、ミニョーラの『ヘルボーイ』のカラリストでもありますし、アイズナー賞カラリング部門の常連受賞者です。

 本書は2008年度アイズナー賞のベストリミテッドシリーズ賞を受賞し、商業的にも成功しました。アメリカでは昨年末にすでに第二巻『ダラス』が発売されてます。

The Umbrella Academy: Dallas

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