学習マンガ「サルでもわかる非実在青少年」
ふらんつ:いろんな事件も片づいたし、さふぁいあ、さあキスしよう! 結婚しよう!
さふぁいあ:それがだめなの。
ふ:どうして!?
さ:ここじゃ読者が見てるでしょ。マンガ内に存在する子どもキャラクターであるわたしたちにはセックス類似行為が許されてないの。
ふ:なにそれ?
さ:東京都議会に提出された青少年保護条例改正案では、わたしたちは「非実在青少年」ということになるの。
ふ:「非実在青少年」?
さ:「非実在青少年」っていうのは、「年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの」のことよ。
ふ:わかりにくいなあ。
さ:ともかく、子どもに見えるマンガキャラクターのこと。わたしたち「非実在青少年」としては、「性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写」してはダメなのよ。
ふ:セックスをしちゃいけないってこと?
さ:わたしたちのセックスそのものは禁止されてないけど、「視覚」にうったえちゃダメってっこと。つまり、キス→暗転→「朝チュン」にしなさいってことね。
ふ:そ、それは1950年代までのハリウッドの手法だよ。いまどきそんな古くさいことができるわけ…… なぜそんなことになったんだい。
さ:もともとこの改正案は「青少年の健全な育成」のため、ネット上の「有害情報」を規制するために提出されたものなの。そのついでの形で、マンガも規制しちゃおうってことになったのね。
ふ:ついでかよ!
さ:第28期東京都青少年問題協議会の議事録(pdf )や答申(pdf )を読めばわかるけど、東京都の認識はこんな感じなの。
(1)子どもに対する強姦や輪姦、近親相姦などの過激な性的行為を描写したマンガ、アニメ、ゲームは、日本の法律では規制されてないから、
(2)一般書店やインターネット上でかんたんに購入できる。
(3)それに、大手出版社を含む多くの出版社から販売されている小・中学生向けのマンガには児童・生徒の性行為の描写が多く含まれている。
(4)これらの中には、教師と生徒の性交や近親相姦が肯定的に描かれているものがある。
こういうことが良くない例としてあげられているの。
ふ:ちょっと待ったーっ。青少年問題協議会が問題視しているのは、「非実在青少年」マンガがエロすぎる、ということなのかい? それとも「非実在青少年」マンガが道徳的に良くない、ということなのかい?
さ:それがごっちゃに議論されているのが困ったことなのよ。エロすぎるのなら、これまでの都条例による不健全図書指定や、書店でのゾーニングでじゅうぶん対処可能なはずでしょ。
ふ:先生と生徒の恋愛や近親相姦が道徳的に良くないかどうかは、こんな条例でどうこうしようというレベルの話じゃないしなあ。各個人にとっての道徳とか倫理とか、表現の自由なんかがかかわってくる大きな問題なんじゃないのかな。
さ:そのとおりよ。都の主張は、ただただ「非実在青少年」のセックスがきらい、というだけの論理で組み立てられているみたいね。
ふ:現在、マンガは児童ポルノ法に含まれてないはずだよね。「非現実青少年」の性をあつかったマンガは、社会に対してどんな悪影響を与えるんだろう。
さ:これも第28期東京都青少年問題協議会の答申(pdf )を読めばわかるけど、「非現実青少年」が性的虐待を受けるマンガが流通すると、「児童を性の対象とする風潮が助長されることは否定できないであろう」という主張ね。
ふ:「否定できないであろう」ってのは「否定×否定×推定」なんだから、ずいぶん遠回しでおもしろい表現だね。
さ:もひとつの主張は、「大人がエッチなマンガを子どもに見せ、『他の子もやっている』『これは普通のことだ』などと信じさせて、子どもに性的虐待を行う危険性も大きい」というものね。
ふ:実際にそんなことがあったの?
さ:さあ、もしそんなことがあったら鬼の首を取ったような騒ぎになってたでしょうけどね。東京都の主張は抽象的なものがほとんどで、具体的にはこれぐらいがあげられてるだけなの。
あとは、実在の児童が演じているセックスと「非実在青少年」によるそれは同じものであるとか、以前からの主張がくり返されてるだけ。
ふ:結局、あるひとにとってはそれなりに納得できる主張かもしれないけど、その他のひとにとっては牽強付会ってことかな。
さ:エロいから規制するのじゃなくて、自分の価値観に照らして許せないから規制するということが明らかなんだけど、それをオモテだって表明してしまうと議論が果てしなくなってしまうから、「青少年の健全な育成」というだれも反対できないような問題にすり替えてるのじゃないかしら。
ふ:結局、理屈なんかあとからつけたようなものだなあ。東京都のホンネは、非実在青少年のセックスはすべて隠してしまいたいんだね。
さ:わたしたち「非実在青少年」は実在しないから、性被害者になりようがないんだけど、それをムリヤリ実在の児童に押しつけてるの。
ふ:マンガのキャラクターは永遠に年を取らないから若く見えるかもしれないけど、ぼくたちはもうじゅうぶんに成人だよ。
さ:実年齢は関係ないのよ。ともかく18歳未満に見えたらダメなの。ほら、あなたもわたしも若く見えるでしょ。
ふ:今までナイショにしてた裏設定なんだけど、実はきみもぼくも妖精で、実は500歳……
さ:ダメ。
ふ:実は未来からやってきたアンドロイド……
さ:ダメ。
ふ:実は宇宙人……
さ:ダメだったら。「非実在青少年」であるわたしたちの貞操を守ってくれるのありがたいのだけど、それならわたしたちがふつうにセックスする権利はどうなっているのでしょうね。
Comments
非実在青少年にも人権を!
Posted by: そふ | March 29, 2010 10:39 AM
とても分かりやすい解説でした。
敵は禁酒法を成立させた某羊飼いの息子宗教一派ですから、日本人の常識が通用しないどころか、未開な日本人を禁欲させ自分たちの教義に従わせることが絶対的な正義であると考える連中です。
捕鯨とかと根っこは同じですな・・・。
そこに日本の理解が薄い役人や右派が同調してえらいことに。
都の審議会じゃロリコンを認知障害呼ばわり。
よくもまぁあそこまで人をバカにする語彙が思いつくと、関心しています。
Posted by: アルプスの青年ハイド | March 17, 2010 11:37 AM
今回の改正案はとりあえず「視覚」を対象としてますから、小説などは安全地域にいます。しかしいずれ、ラジオドラマや小説も規制しようという運動が「必ず」始まりますから、これはすべての表現にかかわる問題です。こういう戦いはエンドレスですね。
Posted by: 漫棚通信 | March 16, 2010 11:49 PM
はじめまして
これ、今のところ漫画やアニメについてばかりが強調
されてますが、「図書類又は映画等」が対象になって
いるので、「図書=書籍、絵図と書物」と見れば、小説
から何から含めて表現媒体のほとんどになってしまうっ
てことですよね。
その辺の基準は明確に示されてないから、いくらでも適
用範囲が広げられる…。
漫画界以外(特に映画関係の動きってあまりないようで
す)の反応が鈍いのが非常に気になります。
Posted by: 黒豆 | March 16, 2010 09:43 AM