東京都青少年保護条例改正案が可決され、「非実在青少年」規制が始まったらどうなるかのシミュレーション。
条例改正案による「非実在青少年」の定義は以下のとおりです。
年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの
とりあえず現在言われている「非実在青少年」とは、マンガ、アニメ、ゲーム内のキャラクターに限定していいでしょう(ECPAT/ストップ子ども買春の会などは小説やラジオドラマまでその範囲を広げようという主張をしていますが)。
「非実在青少年」について禁止されることは、
視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写すること
です。極論を言うなら、このあいまいな条例では、性交や性器の直接描写どころか、男女がキスをしてベッドの中でしていちゃいちゃしているだけで規制できてしまいます。
500歳のエルフであるとか、アンドロイドであるという言い訳は通用しません。青少年に見えるだけでダメ。
「実在」ならば19歳はセーフで17歳がアウト、という規制には意味がありますが、マンガ表現では19歳と17歳の描写に差はまったくありません。それどころか15歳と30歳の女性を描きわけることさえ現実的には不可能ですから、ほとんどすべての性表現が規制対象になりえます。
さて、「非実在青少年」規制が始まると、まず都知事は「不健全図書類等」を選んで、指定することになります。対象は「販売され、若しくは頒布され、又は閲覧若しくは観覧に供されている図書類又は映画等」です。
これには商業作品としての書籍、雑誌、アニメ、ゲーム、そして同人誌も当然含まれます。映画館あるいはクローズな会で上映されるアニメも対象になりますし、図書館に所蔵されている書籍もそう。そして、新古書店などに陳列されている過去の作品も含まれます。
条例の目的は一罰百戒ですから、不健全図書としてある程度インパクトのあるものが選ばれる、はず。
【第一段階】
まずゾーニングされてない非成人向けマンガ単行本のうち、マイナーな出版社のものが指定されるでしょう。不健全図書に指定されるとアマゾンでも取り扱いが中止されます。
次に雑誌。コンビニでゾーニングされていない一般誌が指定されます。男性向けでは中堅出版社のヤング誌が危ない。女性向けならティーンズラブ系、BL系、どれもやばいでしょう。
結果、その雑誌はコンビニや書店では成人向けゾーンに置かれることになりますし、最悪コンビニ取り扱いがなくなります。
これは雑誌存続の危機ですし、もしかすると出版社存続の危機となるかもしれません。当然、大手を含めて各雑誌で自主規制が始まります。
これで一般商業誌は青少年の性の問題から撤退。これまで一般紙で比較的健全なセックスをしていた非実在青少年たちは一掃され、一般商業誌で子どもの性を扱うことはなくなるでしょう。
【第二段階】
非現実青少年たちのセックスは、一般誌から成年向け雑誌に追いやられることになります。彼らは成人向け雑誌内でなら過激なセックスを繰り広げることが可能です。
そこで、都の次の手はゾーニングされ発売されている雑誌や作品を、不健全図書として指定することです。ここは大手出版社のものでなくてもかまいません。
この段階で都は、出版社や作者に対してじゃなくて、コンビニや書店に対してさらなるゾーニングの強化を求めることになります。こういうものが売りたいなら、その売り場を一般誌からもっと離せ、レジの近くにしろ、カーテンで仕切れ、というわけです。
こんな面倒なことは売る方の書店やコンビニだってやりたくない。エロをつくってる出版社も、エロすぎることで指定を受けるならともかく、「非実在青少年」のソフトコアで指定を受けるのではやりきれないでしょう。
結果、非実在青少年のセックスは成人向け雑誌からも淘汰されることになります。
【第三段階】
次にねらわれるのは同人誌。
この条例のもとでは、性器の露出がなくても、「非実在青少年」が登場して「性的対象として肯定的に描写」されるだけでアウトです。
都が複数の同人誌を不健全図書に指定するのはとても簡単。この結果、ゾーニングが不完全であるとして、公的施設から同人誌即売会を締め出すことになるでしょう。
同人誌即売会の開催者は、公的施設からの要求でゾーニングの徹底と作品内容の自主規制を強化するしかありませんが、これは自主規制に名を借りた検閲とでもいうべきものになります。
現実問題として、このあいまいな条例を完全に順守した作品を描き、しかも完全なゾーニングなど不可能。すべては都の恣意的な条例の運用にかかっています。
「なんでもあり」だった日本の同人誌文化は大きな変革を求められます。
【第四段階】
規制を進める側の最終目標は、児童ポルノ法で「非実在青少年」規制をおこなうことです。
第一段階から第三段階までが現実化している社会ならば、すでに「非実在青少年」の性表現を見かけることは少なくなっていて、それらはアングラにもぐっているでしょう。それが悪であるという社会的コンセンサスもすでに確立されているかもしれない。「非実在青少年」規制に反対する声は、今よりずっと少なくなっているはずです。
そのとき「児童ポルノ法」改正は、あっさりとなされてしまうのじゃないか。
かくして、「非実在青少年」規制のおかげで、日本の社会はたいへん清潔なモノになります。
ただし、「非実在青少年」たちの貞操を守ろうとする試みは、本来の目的である「青少年の健全な育成」と「性被害者となる児童の減少」に対して、何の寄与もしないと考えますが。
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