妊婦戦隊ウームズ
2007年度(第11回)文化庁メディア芸術祭マンガ部門の奨励賞を受賞したのが白井弓子『天顕祭』。自費出版=同人誌作品でしたが、のちに一般書店でも手にはいるようになりました(→amazon)。
この後、作者は商業誌に進出し、新作が刊行されてます。
●白井弓子『WOMBS ウームズ』1巻(2010年小学館、648円+税、amazon)
ガチガチのSFです。地球上じゃなくて異星のお話。そこでは地球からの入植者が二陣営に分かれて、戦争が行われています。
この星の異生物「ニーバス」はひとを襲う猛獣/バケモノと思われていますが、自身が妊娠中にはテレポーテーションというか瞬間移動ができる超能力を持っている。
そこで開発された人間兵器。人間女性の子宮内でニーバスの胎児を育てることで、ヒトがテレポーテーション能力を手に入れてしまおうというもの。彼女たちが得た瞬間移動能力を利用して、兵士や物資を一瞬で戦場に送り込むわけです。
主人公は女性。徴兵されて新兵となった少女たちが、体内で異生物を育てながら、超能力を持った兵士として戦争に参加していく。
いやもうなんとも悪夢のような、かつ魅力的な設定じゃないですか。
母の体内で子どもを育てる胎生というのは、ヒトもそうですが奇妙と言えば奇妙。わたしは男ですから、はっきりいって妊娠がどういうものか、身体の中に別人格がいるのがどんなものかよくわかっていません。古い言葉であれですが女体の神秘というか、男には越えられない壁ですな。
それにしてもおなかの大きい妊婦ばかりの戦隊というのはなにやらすごい。
タイトルの「WOMB 」とは子宮のこと。転じてこの世界では女性隊員たちの蔑称として使用されています。主人公のチームには日本人っぽい名の女性もいますし、あと初めてテレポートする「犬の日」という行事がありまして、戌の日の帯祝いだよこれ、ちょっとだけ和風テイストもあります。
異世界を舞台にする作品ですから、風景やら建物やらメカやら服装やらをいかにそれらしく描けるかが「マンガ」として気になるところ。作者はフリーハンドでさらっとした絵を描くタイプ。萩尾望都に似てるかな。映画「アバター」のようにはいきませんが、このあたり健闘してると思います。
お話のテーマからは当然、ル=グウィンを思い浮かべます。これから異生物ニーバスとは何者かという大きな謎が解明されていくのでしょうが、ニーバスや妊娠に伴う瞬間移動がSF的アイデアにとどまらず、母性とは何かを考えるフェミニズム的展開となると見たがどうか。目が離せません。
Comments
残っていたEdyポイントを使い切って「海街diary」三巻「ゲゲゲの~~」「WOMB」などなど買って来ました。
こんなにツボにはまった作品を紹介されると・・・・もう、たまりませんことですのよ~~。
嬉しいような困ったような。
で、明日もまたこちらのブログを見に来るんだ、これが♪
Posted by: トロ~ロ | February 24, 2010 01:47 AM
初めまして。この作品は読んだ事がありませんが、異生物を妊娠・テレポートというキーワードでラブシンクロイドのバウフェークを思い出してしまいました。あの作品も異世界での革命を軸にしたSF漫画の佳作だと思います(変にお色気路線を強調したような作風のせいで友人に薦めるのを多少躊躇ったのも良い思い出です)。
Posted by: KAZZILLA. | February 23, 2010 12:30 AM