色の衝撃『バットマン:キリングジョーク 完全版』
アラン・ムーア/ブライアン・ボランド『バットマン:キリングジョーク 完全版』(2010年小学館集英社プロダクション、1800円+税、amazon)読みました。
出版社よりご恵投いただきました。ありがとうございます。
1986年にフランク・ミラーが描いた『バットマン:ダークナイトリターンズ』は、悪役たちだけじゃなくてバットマン自身も狂気を内面に秘めたキャラクターで、わたしたちが住む世界も狂気で満ちているんだよ、ということを明らかにした傑作でした。
これがバットマンブームを起こし、1989年のティム・バートンの映画「バットマン」につながります。
『バットマン:キリングジョーク』は1988年発表。あのアラン・ムーアがダークなバットマン世界に参加し、悪役ジョーカーのオリジンを描いたので超有名な作品です。ヒース・レジャーがジョーカーを演じた映画「ダークナイト」のモトネタのひとつでもありますね。
原著は46ページと短いものです。実はわたしアラン・ムーア作品は英語版でいくつか持ってるのですが、きちんと読み通せたのはこの『キリングジョーク』だけ。いやー、だってアラン・ムーアの英語ってやたら難しいんですもの。
日本語版は2004年にジャイブから、アラン・ムーア原作の他の作品とあわせて『バットマン:キリングジョーク アラン・ムーアDCユニバース・ストーリーズ』のタイトルで発行されました。
今回の『バットマン:キリングジョーク 完全版』が日本語版としては二回目の発行になります。
収録されてるのはブライアン・ボランドが絵を描いたバットマンの二作品、『バットマン:キリングジョーク』と『罪なき市民 AN INNOCENT GUY』です。
後者はボランド自身のストーリーで8ページの短編。いろんな作家がバットマンをモノクロで描くという企画『バットマン:ブラックアンドホワイト』のために描かれた作品です。この企画、大友克洋が参加したのでも知られてますが、日本語版も1999年に小学館プロダクションから発行されてます。
『キリングジョーク』に関しては、ストーリーやテーマ、場面展開の妙などがすでに絶賛されています。小品ではありますがアメコミ史上に残る傑作のひとつ。
で、今回「完全版」を名のってるのは、ボランド自身の手でカラリングを全面的にやりなおしてるからです。
オリジナルの『キリングジョーク』は、黄色やオレンジの毒々しい色を強調した、いわばキッチュな感じのカラリングが特徴でした。これをボランドはまったく別物の落ち着いた色づかいに変更。
ここまで印象が変わるとは。良し悪しとは別に、驚きました。前バージョンを持っているかたは、ぜひ見比べてみてください。
『罪なき市民』のほうも、オリジナルのモノクロマンガをボランド自身でカラリングしてます。こっちははっきりいって、カラー版のほうがずっといいです。あちらの画家はもともとカラーに慣れているのと、ボランドのきっちりした絵柄がカラーに向いているのでしょう。
日本のマンガはモノクロマンガの技術、とくに超絶トーンワークなどを極端に進歩させちゃったのですが、これもすべて日本マンガに色がなかったから。日本マンガは粗雑な紙による分厚い雑誌に連載されるという道を選んだ結果、大量のページを使用するコマ構成や複雑な心理描写を手に入れましたが、そのかわりカラーの表現を捨ててしまいました。
こういうカラリングが楽しめるようになった最近の海外作品を見るにつけ、そろそろ日本のマンガも色つきで見たいなあとつくづく感じるのでありました。
The comments to this entry are closed.
Comments
初めて、コメントさせていただきます。完全版は昨日読んだのですが、カラリングしか違わないのにジャイブのとは受ける印象が大きく異なっていて驚きました。見比べてみると、今回のバージョンの方が、ジョーカーの登場シーンやゴードンへの拷問シーン等が強烈で面白く読めました。日本でも単行本書き下ろしが主流になればカラリングの技巧等も話題になるのでしょうが、現在の出版状況では難しいのでしょうね。
Posted by: きく | January 24, 2010 10:58 PM