こんなやつぁいねえ『娚の一生』
年末の各種ベストテンで評価の高かった、西炯子『娚(おとこ)の一生』1・2巻(2009年小学館、各400円+税、amazon)を読んでみました。
すでに連載は終了していて、最終3巻が3月ごろに発売されるそうです。
なるほど、こういう話だったか。はからずもひとつ屋根の下で同居するようになった見知らぬ男女。こ、これは。ラブコメの王道じゃないですか。
この設定、かつてマンガやテレビでくりかえし見たような記憶が。柳沢きみお『翔んだカップル』とか、大原麗子が出てたテレビの「雑居時代」とかもそうか。
オトコ側にもオンナ側にも恋のライバルが登場するし、ふたりの距離はくっついたり離れたり、あざなえる縄のごとし。いつものアレだ。
どこが新しいかといいますと、同居してる場所が都会じゃなくて田舎の一軒家であること。そして、主人公が三十代後半女性と、五十代前半男性のカップルであるところ。
大企業のデキる社員にして不倫に疲れた女性主人公。彼女は人生に迷いに迷っていて、自分でも何をしたいかわからない。
そこへ登場する見知らぬオトコ。
大学教授、哲学専攻、週刊誌に連載持ってるし、単著いっぱい、大衆的な賞も貰ってる。
ううーん、白馬の王子様だなあ。ぶっきらぼうだけど、中身は善人らしい、というところも、70年代から連綿と続くラブコメヒーローの条件を満たしてるし。
30代女性の(心情的)リアルを描いていると評価される本作ですが、その酒を盛った革袋はこのように古いのですね。だからこそ安心して楽しく読める。
さらに、この50過ぎのオッサンが「枯れてて」「セクシー」であると評判。ただーし。じゅうぶんオッサンであるところのわたしが断言しときますが、こんなやつぁいねえ。
初対面の年下女性の前でくわえタバコするわ靴下を脱ぎ捨てるわパンツいっちょでうろうろするわ。嵐の中、主人公がなくしたネックレスを探し出してきて点数稼ぎ。主人公をホテルに連れ込んで逃げられても全然めげることなく、突然に愛の告白。さらに500万円の着物をプレゼント。
もう恋愛界の超人やね。
男性向けエロマンガに登場する、取り柄のない男性主人公にひたすら奉仕してくれるおっぱいの大きなお姉ちゃんがファンタジーであるように、本作の主人公を引っ張りまわし、かつ無条件に愛してくれるオッサンもファンタジーです。
その意味で本作は、いかにもマンガらしいマンガであります。
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Comments
この間、テレビで、69歳の高名な元CMディレクター(フジフィルムの「写るんです」のディレクター)と29歳の結構美人のオネエチャンの40歳年の差夫婦の結婚の経緯を紹介していましたが、この元ディレクターはある意味この『娚の一生』の大学教授といい勝負でした。
ところで、ほとんど似たような設定でヤマシタトモコの『Love,Hate,Love』がありますが、こっちはもっとあり得ない、と思います。
阿仁谷ユイジの『DROPS』の中の「大吟醸」の年の差カップルが「枯れ専」ものの中では一番リアリティがあるかと存じますが。
Posted by: natunohi69 | January 12, 2010 03:33 AM