タイムズ紙が選ぶコミックス三作
2000年代が終わったことを受けて、イギリスTimes紙が年頭にあたり「ゼロ年代のベスト・ブック100」を発表しています。
●The 100 Best Books of the Decade: TIMES ONLINE
対象となってる範囲はフィクション、ノンフィクション、自伝、詩、さらに辞書までに及びます。
でもまあ、「ダ・ヴィンチ・コード」とか「ハリー・ポッター」とか、少女マンガ系バンパイア小説「トワイライト」とかもランクインしてますから、質だけじゃなくて売れたり評判になったものも含めたベストですな。
日本関係では73位に村上春樹の短編集『めくらやなぎと眠る女』が選ばれてますね。
このなかでマンガ系の作品が三作挙げられてます。
●78位にクリス・ウェア Chris Ware 『ジミー・コリガン Jimmy Corrigan, the Smartest Kid on Earth 』(日本語版第一巻は2007年PRESSPOP GALLERY、amazon)。
さえない中年男が、子供時代に別れた父親に会いに行く。このお話がポップで奇想天外な手法で描かれます。各国で大絶賛されてる作品ですが、なぜか日本ではほとんど知られてません。
おそらく日本語版の続刊は出ることはあるまいと思って、わたしは英語版で読んじゃいました。ところが、日本語版の第二巻、第三巻(これで完結)が本年春に刊行されることが決まったそうです。刮目して待て。
●35位にショーン・タン Shaun Tan 『The Arrival 』(邦訳なし。amazon)。
絵本に分類されることが多い本ですが、連続したコマで物語が成立してるから、日本人の感覚としてはやっぱマンガでしょう。文字のない本なので、サイレント・グラフィック・ノベルと紹介されることもあります。
家族と別れ異国に移民した男が到着した世界は、奇怪な風景と奇妙な文字を持つ、コミュニケーション不能のまったく異質な都市だった。
文字のない本なので原著のままでも全然オッケー、誰でも読めます。
●そしてなんと第2位に挙げられてるのが、マルジャン・サトラピ Marjane Satrapi 『ペルセポリス Persepolis 』(日本語版上下巻は2005年バジリコ、amazon)。
作者自身の手でアニメーション化され、日本公開もされましたからそちらで知ってるひとも多いかも。
イスラム革命とイラン・イラク戦争に翻弄されたイラン人少女の自伝的物語。似た題材を扱ってるアーザル・ナフィーシィー『テヘランでロリータを読む』も今回のベスト100で14位にはいっていますから、イラン問題に対するイギリスでの関心の高さがうかがえますね。
マンガは、主人公が「多感な少女」というとことがポイント。これは少女の内面を描いた、日本人が知らないタイプの少女マンガでもあるのです。
上記三作、いずれも傑作。興味あるかたはご一読を。
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Comments
図書館で「ペルセポリス イランの少女マルジ」と「・・・マルジ故郷に帰る」を借りてきて読みました。図書館が購入して年月がたったので、マンガであっても、もう、ひっぱりだこということはなかった。(もっとも私の行く公立図書館では、ムーミンコミックですら、ほとんど借り出すひとはない、その程度の関心の浅さです)
第1巻を読むと、ユン・チアンの「ワイルド・スワン」のような物語かと思いました。しかし第2巻は、ひとりの女が大人になっていくドキュメントでした。ビルドゥンクス・ロマンで、「疾風怒涛編」「青春の嵐編」「どうして私は悩んだ末自分自身となったか」と副題をつけたくなります。
「失われた時を求めて」を読むと、小説を読み終わったと同時に、偉大な小説家の誕生を感じます。「マルジ」もマンガ家の自伝です。
Posted by: しんご | March 30, 2010 10:13 PM