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December 12, 2009

『このマンガがすごい!』がちょっと納得いかない件について

 『このマンガがすごい!2010』(2009年宝島社、476円+税、amazon)のベストテンを見て、あれれ?と思ってしまったわけですが。

このマンガがすごい!2010

 今年のオトコ編ベストテンには、週刊少年ジャンプ連載作品が三つもはいってました。1位『バクマン。』、2位『ONE PIECE』、9位『トリコ』。

 かつてジャンプ作品が『このマンガがすごい!』のベストテンに選ばれたことがあったっけ。

 昨年はなし。一昨年もなし。2006と2005の2位がごぞんじ『DEATH NOTE』。というわけでジャンプ系はこういう年末ベストテンとは相性が悪かったのですね。

 ところが今年は『バクマン。』と『ONE PIECE』がワンツーフィニッシュ。ジャンプはまさに黄金時代を迎えたのか。って、おいっ。

 もちろんジャンプは現在でも最も売れてるマンガ雑誌ですし、そこの看板作品が年間ベストテンの上位にくるのは当然ではあります。でもねー、これってあまりに意外性がないよなあ。黙ってても売れるマンガが上位にきて、ブックガイドになるのかしら。

 で、『バクマン。』と『ONE PIECE』に対してどのような形で投票されたのか調べてみました。

『バクマン。』計174点。

1位に推したひと:エレキコミック今立進、恵文社バンビオ店、戸田書店呉服町店、芳林堂書店高田馬場店、宗亜俐、50点。
2位:芝浦工業大学、大西康裕、かーず、soorce、塚本浩司、45点。
3位:立教大学、福井健太、16点。
4位:ヴィレッジヴァンガードイオン八幡東店、浅田徹、長谷邦夫、藤本由香里、28点。
5位:紀伊國屋書店新宿本店、ケイ・ブックスコミック館、お茶の水女子大学、芝田隆広、24点。
その他、マンガ系学生から7点、読者アンケート4点。

 『このマンガがすごい!』は昨年までと今年では、集計方法が大きく変わりました。

(1)タレント・作家・アーチスト枠を新設。
 でも鈴木杏なんか、『ガラスの仮面』と『オチビサン』の二作しか挙げてないんだから、依頼しちゃダメでしょ。

(2)書店枠と大学漫研枠を拡大。
 ま、これは納得できます。

(3)小中高生、マンガ専攻大学生や専門学校生、そして一般読者によるアンケート投票。
 選者たちは1位10点、2位9点、以下5位6点までひとりで計66点を持っているのに対し、このアンケートでは1票=1点だからたいしたことない。なんてことはなくて、これがけっこうバカにならない得点力を持ってるのですね。

 『バクマン。』は各氏から広く支持されています。青色で示してるタレント枠やアンケートで得たのは21点だけですから、もしこの得点がなくてもトップは変わりません。確かに今年を代表する作品ですね。

 ところが『ONE PIECE』は得点のパターンが違います。

『ONE PIECE』計149点

1位に推したひと:エレキコミックやついいちろう、栗山千明、栞、立教大学、市川孝一、多根清史、60点。
2位:星野書店近鉄パッセ店、お茶の水女子大学、机器猫、27点。
4位:仲村みう、真部脩一、わんだ~らんどなんば店、だんげろうず、28点。
その他、小中高生から11点、マンガ系学生から7点、読者アンケート16点。

 青色で書いたタレント枠とアンケートでなんと78点をかせいでます。

 オトコ編の3位以下ではタレント枠とアンケートでかせぐパターンの作品はありません。ですから『ONE PIECE』はこの78点がなければなんと7位まで落っこちちゃうのですね。

 もし今年、『バクマン。』がこれほど広い支持を集めなければ、この集計方法のおかげで『ONE PIECE』がトップを取っちゃってたかもしれない。

 それはちょっと不幸な結果じゃないか。宝島社は『バクマン。』に救われましたね。危ういところでありました。

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Comments

でも去年の聖☆お兄さんって誰もが予想付いてましたよね。宇宙兄弟や深夜食堂の上位とか
オンナ編は
駅から5分、ちはやふる、坂道のアポロン
トップはこのへんやろなぁとみんな思ってたと思います。
特に新しい、漫画を発掘できるわけでないことに変わりないと思います。

私も去年の体制のほうが好きですが、理由は別にある気がします。

Posted by: 暗くても電気をつけないで | December 17, 2009 01:12 AM

私も今年の『このマンガがすごい!』を読んであれ?と思っていました。
自分ではその理由を把握できなかったのですが、漫棚通信さんの文章を読んでなるほどと思いました。

誌中のサルベージ座談会にも出ていた話で、井上雄彦や浦沢直樹に票が入らないのは、いまさらとか、あえて今年は取り上げなくともという意識が両者のファンの中にあったからだと思うのですが、逆に多数のファンから支持を受けたone pieceから、なぜ今ここでをこの漫画を強く推すのかという理由が強く感じられません。

たしかにここにきてpne pieceはがぜん面白くなってきましたし、私もインペルダウンからまた単行本を買い出したクチですが、それでも推すならせめて海軍本部編の結果を見てからだろうなあと思っていました。それだけに今年one pieceを推した人からその理由が強く出てきていれば、もっと納得できるものになったのにと残念です。。

分かりやすい例としてone pieceを取り上げましたが(おそらく満棚通信さんもそうだと思うのですが)、one pieceを批判するつもりも、そのファンを批判するつもりもありません。
他にも今年疑問に思った漫画はいくつもあります。
それは雑誌の投票方法が変わったからだったのですね。
漫画に対する考え方の違う層を一緒にしてファン投票にしてしまえば、こういう事は起きるんだろうなと納得しました。
今年の『このマン』については、非常に残念でした。

Posted by: shige | December 15, 2009 11:27 PM

この集計方法で得られた結果では
「このマンガがすごい!」
である意味がない。
今更言われんでも凄いのは知ってるってのwって結果にしかならんよ。
単なる「今一番人気投票」なら他でやれと。
要は「もっと評価されるべき」なマンガを選んでこそでしょ、この賞の存在意義は。

Posted by: アホクサ | December 15, 2009 09:27 AM

単なる売り上げベスト10なら、既存のもので十分。この企画のどこに意義があり、どこに需要があるのか私には全く理解できなかった。

Posted by: おっさん | December 14, 2009 01:00 PM

30年前、SF研究会の同人誌企画でベスト10をやってみて「あ。こういうのって意味無いんだ」と気づいてから、もう、どうでも良くなりました。

書誌的な資料という意味はあるでしょう。

Posted by: トロ~ロ | December 14, 2009 02:03 AM

なんにしても、この状況下で「雑誌に」これまでと同じ方向性を求めるのは酷だと思います。
(そもそもランキング形式の是非も問われて久しいのですから)
マンガ読みの指針が、それこそ漫棚さんはじめネットの書き手に移っているのは明白ですし、
その意見の統合で「有識者の流れの全体像」をランキングする事に意味があるのか?と。
意味があるとしても、それはもう大手の雑誌の仕事じゃないと思うのです。

極端なマスと、孤立するマイナー達。
乖離は避けがたく、「見逃される良作」自体の出現機会も絶望的に失われています。

であれば、雑誌のランキングという、マスが機能していてこそ意味のある形式自体が、役割を終えているのでは無いでしょうか?

Posted by: けおら | December 13, 2009 05:58 PM

マンガ市場が落ち込む~という噂の中で
真に「一般的支持を受けている作品は?
という課題に対応している…といった
感じもあるかも。

単に、この本も人気が出てきたようだから
思い切って「ポピュラー路線」編集で
やって販路を拡げてみるか!

そんな思惑もありそうですね。

しかしそれなら、執筆ギャラなども
値上げして、「低予算編集」から脱却してほしい。

「低予算」のまま、「うまいこと部数アップだ}
という、せちがらい編集なんだとは思います。

Posted by: 長谷邦夫 | December 13, 2009 05:20 PM

確かに、今までのノリで見てると肩透かし食らいますね。
どうせならメインストリームの動向を知らせてくれる方向に特化してください、って感じました。

Posted by: asa | December 13, 2009 04:04 PM

世間一般的な動向を探りたいのであれば、
コミック売上ランキングを参照すれば済む話。
「このマン」の存在意義は、それとは別の部分にあるはずです。

また下手にタレントや小中高生を起用すると、
その投票理由が「単に作品のファンであるから」
という浅薄なものになりかねません。
彼らが何十・何百という漫画作品を読むはずはありませんから。

固定ファンから確実に票を獲得するようなシステムであれば、
このランキングはもう必要ないですね。

Posted by: neko | December 13, 2009 03:21 PM

これまでのベストテンの意義が、マスから零れ落ちる名作の発掘を、マンガ読みの名人達、「大人の読者」に聞いてみる事にあったとすれば、おっしゃる通りだと思います。
しかしながら、今回の変更は肯定されるべきだと、私も思います。
今求められているのは、現状の把握なのでは?
宝島社の判断は、正常な危機意識によるものだと感じます。

上記の集計方法の変更は、よりマスな方向から、世間一般の動向を探りたい、という意志の表れと感じます。
であれば今回注目すべきは、タレント枠の動向ではなく、バクマンとONEPIESEの間で、小中学生と読者アンケートの票に差が大きい事だと思うのです。

批評的作品であるバクマンを評価したのがあくまでも有識者達であり、「今の読者と未来の読者たち」が推したのがエンタテイメントの王道たるONEPIESEであった事実は、大きいと思います。

勿論それが希望だ、などとは申しませんが。

Posted by: けおら | December 13, 2009 02:41 PM

まぁ不満なのはわかるけど、2009年のワンピースは久々に面白かったけどな。
1位でも2位でも7位でも違和感ないよ。
ランキング=自分のランキングじゃないんだし。

ワンピースが上か、バクマンが上かとかどうでもいいわ。ましてや不幸とか意味がわからないよ。

そんな細かいことにこだわるなら、全部の順位から青字の人ぬいてランキング作り直して欲しいなぁ。

ランキングにケチをつけただけの中途半端な記事だね。

Posted by: keio | December 13, 2009 12:00 PM

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