作者は反逆される『秘密 トップ・シークレット』
うーむ、やっぱ清水玲子『秘密』は、最新7巻がもっともよくできてる。
●清水玲子『秘密 トップ・シークレット』7巻(2009年白泉社、848円+税、amazon)
時代は近未来。科学の進歩により、死者の脳をMRI走査することで生前に目撃していた事物をはっきりと画像化することができるようになります。死者の証言というまったく新しい捜査手法を得た警察は(そして読者は)、どのような現実に直面することになるのか、という連作シリーズ。
ホラー風味もありますが、作品世界は論理が支配しているのでアシモフなどで有名な「SFミステリ」ですね。作者が作中にだけ通用する架空のシステムを設定し、それを利用してミステリを展開させるわけです。
死者の証言ですから、まずは被害者が何を見たか、シリアル・キラーの頭の中はどうなってんのか、といったところから始まります。ミステリ的にはこういうところからいかにはずすか、ひねるかかが見どころ。
これまでの巻もなかなか読ませるお話ばかりでしたが、とくに7巻はすばらしい。
この巻で、犯人たちは「死後の脳から生前の行動がスキャンされる」ことを知っています。そのうえでいかに警察の裏をかくかを考えて行動しているのです。
さらに、「死後の脳から生前の行動がスキャンされる」こと自体が犯罪の動機になる、というアクロバティックな展開。つまりこの巻にいたってこの世界では、作者が創造した犯罪捜査のための新発明こそが逆に犯罪をひきおこしてしまうのです。
となると今回の事件の真犯人は、なんと作者自身じゃないですか。
作者がこんな設定をしなかったら、こんな犯罪は起きなかった。いちばん悪いのは、作者自身。世界の創造主たる作者が、自分でつくりあげた架空世界に反逆されている形です。
定評のあるシリーズが、最新刊でもっともおもしろくなるというのはたいしたものです。というか、これまでシリーズ作品を積み重ねてきた結果、ここまで到達することができたのですね。いやお見事。
Comments
> となると今回の事件の真犯人は、なんと作者自身じゃないですか。
山上たつひこ「喜劇新思想体系」を思い出してしまいました。
Posted by: かくた | December 24, 2009 09:13 PM