新しい才能『虫と歌』
アフタヌーンを定期的に買ってはいないので、これもジャケ買い。アフタヌーンのブランドもありますし、オビの「新しい才能!!」というのにもひかれました。
●市川春子『虫と歌 市川春子作品集』(2009年講談社、571円+税、amazon)
短編が四つ収録されてます。一年に一作という発表頻度のようですが、どれもすばらしい。
四作に共通した題材があって、一見ヒトのように見えますがヒトじゃないモノが登場します。じつは彼らは植物であったり昆虫であったりするのですね。つまり植物人間や昆虫人間です。
植物人間と聞いてまず思い出すのは、手塚治虫『ロストワールド』だったりします。『ロストワールド』に登場する植物人間「あやめ」と「もみじ」は、そもそも創造者の性的対象としてつくられました。さらに飢餓状態のなかでもみじは人間に食べられてしまい、あやめは新世界の母になるというすさまじいストーリー。
しかしヒトならぬヒトが登場する場合、その生と死は必ず問題となるはずです。
ヒトの死とはなにか。では、ヒトならぬものの死とはなにか。さらに、ヒトとそうでないものの生の違いとはなにか。著者は手塚の正しい後継者としてこのテーマを展開してみせます。
本書でヒトならぬものたちは、少年や少女の姿をしてそこに佇んでいます。描かれていることは、洗濯物を干したり、草に水やりをしたり、縁側で麦茶を飲んだりする日常の集積ですが、その裏には彼らの生や死、さらに性の大きな問題が見え隠れしています。しかも物語性と詩的表現をともにそなえている。新人にしてこれを成功させているのはおみごと。
斜線をほとんど使わずに、張り込んだトーンの濃淡で表現する静的な絵。これも大きな魅力です。
かつて「ガロ」に発表されていたいろいろな作品を思い出しました。『虫と歌』の巻末に収録されてる2ページのショートショートなんか、これはもう鴨沢祐仁だよなあ。
Comments
いま読んでいる最中ですが。
実にフシギなマンガですね。
ぼくも「ガロ」なんかを想起しました。
そういう商業誌が無く、これは同人誌向け?
みたいなところを、掬い取ってきた編集の眼に
拍手を送りたいですね。
Posted by: 長谷邦夫 | December 13, 2009 05:27 PM