やな気持ちになってください『芋虫』
江戸川乱歩『芋虫』は雑誌「新青年」昭和4年1月号に発表されました。まあ知らないひとのほうがめずらしいでしょうからネタバレしますが、戦争で四肢を切断され耳も聞こえず口もきけなくなった元軍人と、彼を介護する妻の関係を描いた短編。
肉体を破壊され、おそらく精神も障害されている夫。彼を介護しながら嗜虐に満ちた性生活に溺れる妻。人間の悲劇と愚かさが性の快楽と表裏に表現されてます。発表当時から好評で、乱歩自身も代表作と考えてました。自作解題では「私の代表的短編集には必ず編入した」と書いていますし、英訳もされてます。マンガ方面では、山上たつひこ『光る風』のいちエピソードのモトネタですね。
で、昨年江戸川乱歩『パノラマ島奇譚』をマンガ化した丸尾末広が『芋虫』もマンガ化。
●丸尾末広/江戸川乱歩『芋虫』(2009年エンターブレイン、1200円+税、amazon)
前作『パノラマ島奇譚』は、乱歩の夢想した空想世界をスケール大きく可視化して、たいへん楽しい作品になりましたが、今回は逆に密室の情事、精神の深みの狭いところにもぐりこんでいくような作品。エロいですが、読んでて気が重くなるのもたしかです。
傷を受けた男の顔、姿を目をそむけずに描写し、さらに加虐かつ被虐的な性交渉シーンも性器や室内の小物までこまかく描きこんであります。さらに原作にはない、日常の食事や排泄のシーンなども描かれます。
丸尾末広の圧倒的な画力は、幻想的でありながら肉体や生活のリアルを読者の眼前に展開。読む人間をなんともいえず、やーな気持ちにさせるったらありません。
ただこのやーな気持ちというのは、肉体の欠損とは何か、ヒトとは何かということを読者に考えさせられるからでもあって、ああ、説明しづらいっ。ともかく読後感最悪の、ひとをやな気持ちにさせる、傑作です。
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Comments
江戸川乱歩のファンです。前作『パノラマ島奇譚』を読んだ時から、丸尾先生が『芋虫』を連載中と聞いてどんなものになるのか興味深々でした。読んでみると、夫婦の話に絞って正攻法で描かれており、『芋虫』ってこういう話だったんだと、より鮮明なイメージで再発見できました。ただ”バナナ”には苦笑しましたが・・・(鉄幹と晶子のエピソードって本当なんですか・・・?)
乱歩のチープで猥雑なイメージは丸尾先生の画風に合っているようですね。これからもこの調子で書いていただければと思います。次回作は『鏡地獄』か『蜘蛛男』あたりはどうでしょう。
Posted by: よしぼう | December 12, 2009 05:38 PM
わ~!!
有難う御座います。
なにか、ご感想を!
遠慮ない、ご注文やら
ご批判でも結構です。
あすは、版元社長さんと担当さんの3人で
打ち上げです。
次は、いままでのびのびになっていました
『ギャグ・ナンセンス漫画史』(汗~~!!)の
執筆再開ですね。足元が与太らないうちに
書きませんと!!
(書けるかどうか…)
三分の一ちょっとは、書けていますが…。
いやはや、困難を極めていきそうです。
そこから逃げ出すために、
ファンタジー長編小説を書くッ!と
ほざいていたりします。
長谷、おまえ気が確かかよ~、と
自分で言ってます。
Posted by: 長谷邦夫 | November 13, 2009 09:30 PM
「マンガ家夢十夜」先日BK1で購入しました。いま読んでおります。
Posted by: 漫棚通信 | November 13, 2009 08:43 PM
やはり読みたいですね。
ウメズ先生の4コマ入門も!
一緒にアマゾン注文しました。
あ、ついでに、ぼくの「宣伝!」です。
『マンガ家夢十夜』(水声社・長谷邦夫著)が
出ました。
アマゾンでは、とどくまで、ちょっと日数が
かかるようですが…。
よろしく!
Posted by: 長谷邦夫 | November 12, 2009 09:36 PM
コレは・・・麻薬的ですよぅ。
読みたいけど触れてはいけないような気が。
「墓場は、心地よく秘密めいたところ
しかしそこで人は愛を語らない」
にゃんてね・・・・・・・
Posted by: トロ~ロ | November 09, 2009 03:33 PM