虚々実々『マンガ家夢十夜』
長谷邦夫『マンガ家夢十夜』(2009年水声社、2500円+税、amazon)読みました。
漱石の『夢十夜』にあやかって書かれた、実在のマンガ家が見た(かもしれない)夢をつづった幻想小説集、というかモデル小説、というかパロディ、といっていいのかどうか。
たとえば、井上雄彦が市川雷蔵ふうの眠狂四郎と遭遇する。つげ義春がつげ風世界を旅する。清水玲子が少女マンガ24年組の大泉サロンを幻視する。
ううーん、こういう手があったか。
かたちは幻想小説。でもパロディマンガをたくさん描いてきた著者ですから、根っこはやっぱり理知のひとだと思います。ですから、つげ義春があまりマンガを描いていないのになぜ生活できるのかという謎に対する驚愕のオチがあったり、作品内で萩尾望都『トーマの心臓』論が展開されたりして、夢の中で妄想と理知がせめぎ合っています。
圧巻は、石森章太郎のお姉さんのことを描いたトキワ荘の章と、赤塚不二夫伝記映画のためのシナリオの章。内容はあくまでフィクションで夢想ではあろうと思いますが、小説内の登場人物はじつに多面的でわたしたちの知らない顔を持っています。これは彼らと生活を共にした著者だからこそ描けるのでしょう。
しかしお年のことを言っては失礼かもしれませんが、長谷先生の創作意欲はますます盛んで驚くばかりです。
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Comments
ご購読、そして好意あふれるご感想!!!
有難う御座います。
まるで、自分のマンガのための
アイデアノートを小説化した?!のか。
そんな感じが自分でもしてきました。
「デタラメ」なら、まだこのトシでも
自信(?!?)が有る。
そんなことを思ったりもするんです。
イントロなんか、完全にデタラメでしょ。
ナツメフサノスケまで出でしまう。
フロイト博士、よくぞガマンしていました。
Posted by: 長谷邦夫 | November 20, 2009 10:33 PM