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October 24, 2009

復刊やまだ紫

 本年5月に亡くなったやまだ紫の諸作品が「やまだ紫選集」として復刊されてます。

コミックナタリー:やまだ紫の代表作が復刊!「やまだ紫選集」3カ月連続刊行

 まず最初に刊行されたのがこれ。

●やまだ紫『性悪猫(しょうわるねこ)』(2009年小学館クリエイティブ、1400円+税、amazon

性悪猫―やまだ紫選集

 ご夫君の白取千夏雄氏よりご恵贈いただきました。ありがとうございます。

 これまでにも複数回刊行されてきた、永遠の名作です。

 それぞれ数ページの作品からなる連作短編集。ここに書かれたマンガでは、語り手の多くは猫です。しかし彼らの言葉、これがもう推敲を重ねてつくられていることがよくわかる。やまだ紫の書くセリフやキャプションは、短文にしてじつに余韻のある語り言葉なのです。そこにいきいきとした猫の絵が加わり、さらにコママンガとして緊張感のある展開。

 たとえば『さくらに風』という作品。

 家のなかで二匹の猫がじゃれている。障子をへだてて編み物をする女性。その女性のアップがあり、宙にモノローグが浮いています。

やさしい自分(わたし)であろう

 次のコマ、編み物をする手のアップとモノローグ。

やさしさを失くすまい

 読者は、語り手を当然この女性と考えます。ところが、次のコマ。

──と 貴方が思うとき

 あれれ、二人称が出てきた。となると語り手はいったい誰。数コマの後、それが明らかになります。猫のアップに重ねて、

貴方は淋しいのだ

 つまり、語り手は猫なのです。貴方とは飼い主である女性のこと。女性のモノローグと思わせてじつは猫のモノローグ。

 しかし、読み進むうちにこれがさらに逆転します。実際のところ猫がこんな高度なことを考えるわけはありません。このモノローグはやっぱり猫に語らせる形で女性が自分の思いをつぶやいているのです。

 磨き上げられた言葉と、緊張感を持った線で描かれた絵が出会い、しかもそれがすぐれたマンガになっている奇跡。

 30年前の作品ですが、少しも古びていない。やまだ紫を知らないあなたにこそ、読んでもらいたい作品です。

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Comments

こんにちは、さっそくのご紹介、ありがとうございます。
やまだ紫の卓越した言語センス、絵との融合としての漫画の成功例として『さくらに風』を挙げておられますが、実は齋藤愼爾さんも同じことを書かれていました。
それは何と「アサヒグラフ」1982年4月23日号「新進マンガ家 やまだ紫の世界」特集内でした。インタビューを元に構成された文中、同じ例として『さくらに風』を取り上げておられます。
(ちなみにその文は加筆のうえ、復刊2弾目「しんきらり」・11月下旬観光予定・の解説に収録される予定です)
時代が移り、変わっても、受け取る側に等しく届く、この「普遍性」と、そしてまた人によって、年齢を重ねると違う場所に感動をまた新たにする・・・。
深奥にある優れた部分の普遍性は必ず時代を経ても目にとまる人の胸に届き、かつまた気楽に読んでも面白く、心に残る。この両者がさりげなく共存することが、名作たる所以なのでしょうか。
つくづく、凄い作家であったと思います。

Posted by: 白取@京都 | October 25, 2009 05:24 PM

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