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September 25, 2009

「鉄腕アトムオリジナル版復刻大全集」とアンチゴチ

 さて、『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集』であります。

●手塚治虫『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集 ユニット1』(2009年ジェネオン・ユニバーサル・エンターテインメントジャパン合同会社、14190円+税、amazon

鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集 ユニット1

 ユニット1からユニット6まで全六巻、各14190円+税で、『鉄腕アトム』を雑誌掲載そのままのかたちで復刻しようとする企画。ユニットごとに2000部の発行。

 アトム復刻ものとしてはこれがおそらく決定版ですね。あとは人気の高いカッパコミクス版の復刻とかはあるかもしんない。

 高価な商品なので買うかどうか迷いに迷っていたのですが、ユニット1だけでもチェックしておこうと決心して9月始めにネットをのぞいてみますと、どこのサイトでも予約終了。しまった、出遅れた。

 こうなるとよけいに欲しくなってしまうものです。まあ完全予約制といっても大手のリアル書店には出回るだろうと思ってましたところ、大阪天満橋のジュンク堂でゲット。

 今回発売されたユニット1には、「少年」1951年4月号から連載開始された『アトム大使』、つづいて『鉄腕アトム』1952年4月号から1957年9月号までのぶんが収録されてます。

 手塚の絵は1950年代に限る、と思ってるわたしとしましては、とくにユニット1はちょっとはずせない。このころのアトムは中性的で色っぽいなあ。

 「少年」という雑誌はかつてB5判じゃなくてもっと小さなA5判の時代がありました。ですからこのユニット1には、A5判本誌掲載ぶん、B5判本誌掲載ぶん、A5判型別冊付録、B6判型別冊付録の四形態がつめこまれてます。

 別冊付録というのはたいへん悪い紙をつかってましたから、復刻版のほうがずいぶんぶ厚く、読みやすくなってますね。いっぽう本誌復刻のほうはちょっとしょぼい造本になっちゃってまして、不満なかたもいるかもしれません。ただわたしにはこれでじゅうぶん。

 これで手塚治虫が単行本でどんな描き直しをしてるか、こまかくチェックすることができるようになりました。って、そんなことをしておもしろいかどうかと問われますと、ちょっと困りますが。

 まだ最初のほうしか読んでませんが、たとえば『アトム大使』。

 わたしが初めて読んだ『アトム大使』は小学館ゴールデンコミックスに収録されたもので、この版では冒頭部分を大きく削除して、タマちゃんが雨の東京駅でたたずんでいるシーンから始まるという、ずいぶん大胆な脚色をしてました。サスペンスフルなオープニングで、わたしこのバージョン、好きなんですよ。

 のちの講談社全集版では、雑誌連載とほぼ同じ形に戻されて収録されてることが今回の復刻でよくわかりました。ただし学生服を着たアトムが消されたり、雑誌のカラーページがトレスで描き直されてるような細かい修正はあるみたい。

 ちょっとおどろいたのは、「少年」1951年3月号の『アトム大使』予告で、作者の名前にくりかえし「手塚治虫(てづかはるむし)」とルビがうたれていること。

 大阪赤本の、そして『ジャングル大帝』の若き巨匠も、中央ではまだまだ名前を知られてなかったのですね。

*****

 あとちょっとした発見をひとつ。

 今回、初期のアトムを読んでみますと、光文社「少年」ではフキダシ内のセリフは、基本、明朝体になってたことがわかります。

 現在、マンガのフキダシ内の書体として標準となっているのがアンチゴチ。かなは明朝体(アンチック体)、漢字はゴシック体(ゴチック体)、という通称「アンチゴチ」は、初期のアトムでは欄外のハシラやコマ内でも地の文として使用されているだけでした。

 これが変化して、フキダシ内でもアンチゴチを使用するようになったのは、1956年4月号「アトラスの巻」第2回から。その翌号のフキダシ内は明朝体とアンチゴチの混在で、さらに1957年6月号から以後、フキダシ内はすべてアンチゴチが基本となります。

 さて、同時期の『リボンの騎士』はどうだったか。『リボンの騎士』は講談社「少女クラブ」に連載されていました。

 『リボンの騎士 少女クラブカラー完全版』(2004年ジェネオンエンタテインメント)によりますと、これも初期はフキダシ内に明朝体が使用されていました。これがアンチゴチに変化するのが1955年10月号のことです。講談社は光文社より早い。

 さらに手塚治虫『ぼくのそんごくう』は秋田書店「漫画王」に連載されていましたが、『ぼくのそんごくう オールカラー版』(2006年ジェネオンエンタテインメント)によりますと、この作品のフキダシ内が明朝体からアンチゴチに変化したのが1956年11月号のこと。

 つまり1955年から1956年にかけて、講談社→光文社→秋田書店の順で、フキダシ内の書体は明朝体からアンチゴチに変化していってるのです。

 このころ、アンチゴチがトレンドだったようですが、いったいこの時期に何があったのか?

*****
 
 とまあ、こういうこまかいことにこだわってみたいかたはどうぞ。

 発売と同時にアマゾンのマーケットプレイスやヤフーオークションなどで転売屋さんが高価な値付けをしてますが、今ならアマゾン紀伊國屋で定価で買えます。もちろん大手のリアル書店でも手にはいると思います。(アマゾンに関しては9/25朝に行ってみるともう売り切れたみたい。昨夕はまだ残ってたんですけど、みんなすばやいなあ)

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Comments

『鉄腕アトム《オリジナル版》復刻大全集』を購入しました。
ケースのデザインも良く、別冊付録も忠実に再現されているようで、当時の雰囲気が充分に味わえます。
しかし、期待が大きかっただけにとても残念なことがあります。
『少年』連載時は見開きになっていた2ページが、復刻ではページのウラオモテになってしまっているのです。これほどまでの素晴らしい企画でありながら、まさか見開きが無視されているとは思いませんでした。
今後二度とないと思われる企画だけに本当に残念です。

Posted by: けいらく | September 27, 2009 11:18 PM

コメントありがとうございます。わたしはむしろ、講談社全集版で右左ページが逆に収録されていた部分が本来の形に戻されたと感じていました。復刻大全集で見開きが無視されている部分はどこになるのでしょうか。

Posted by: 漫棚通信 | September 28, 2009 08:23 PM

当時の現物を見ているわけではないので、あくまでも推測ですが、印刷と製本の過程を考えればわかります。
単色ページと2色ページがある場合、片面を単色、片面を2色で印刷して、それを折りたたんで製本するわけですから、ページの両面が2色になることはないはずです。『少年』の本誌を読むときには、ページをめくるたびに2色ページと単色ページが見開きで交互に現れるのです。
たとえばunit1(2)の1954年1月号は現物どおりです。トビラが2色、4-5ページが見開きで単色、6-7ページが見開きで2色、8-9ページが見開きで単色となっています。
ところが次の2月号のトビラは、現物では左ページなのに復刻では右ページになっているため、現物では見開き単色である11-12ページがウラオモテになっています。次の13-14ページも見開き2色であるはずが、ウラオモテになっています。10ページを白紙にして(あるいは関連の記事でも入れて)、11ページがトビラになるようにすれば、そのあとも現物どおりになるのにそのようにはなっていません。そのあともいくつかの号で同じように見開きがウラオモテになっています。
カラーページを当時の状態に再現するにはかなりの技術がいると思いますが、それに比べれば、ページの並びを再現することなど何でもないように思うのです。今回の復刻は、今後2度とないであろう画期的なものだと思います。にもかかわらず、見開きが無視されたのは残念で仕方がありません。
unit2以降はこんなことにならまいよう切に望みます。

Posted by: けいらく | September 29, 2009 12:20 AM

こんにちは、初めて書き込みします。
いつも拝見させていただいております。

私も、けいらくさんと同じく、
見開きのズレに違和感を感じました。

具体的にはAサイズ「少年」掲載作品のP124~154.
B5サイズだとP10~16、P24~30、P38~44…
以下、ほぼ1話置きにズレが生じています。

2色&1色で印刷されている回のうち、
2色同士が裏表、1色同士が裏表になっている回が該当します。

当時の雑誌で、右がカラーで左が1色、
あるいはその逆といった、
ひとつの見開きにカラーと1色が混在するケースは、
あまりないのではないかと思います。

おそらく印刷の関係で、
カラーの裏は1色で刷るのが一般的ではないでしょうか。

アトムから離れてしまいますが、
雑誌「ジャンプ」では左ページから始まって
左ページで終わるという奇数連載が多かったと思います。

そのため、単行本収録時は左右の見開きがズレぬよう、
1話と1話の間におまけコラムやカットが足されていました。
『ドラゴンボール』では、書き足しが面倒だったのでしょうか、
トビラを抜くことで偶数ページにして、左右のズレを防いでいました。
単行本の後ろの方に、トビラをまとめて収録していたのはそのためでしょう。

今回のアトム復刻版は、こういったページ調整をせずに、
順に詰めていったため見開きにズレが生じています。

A5「少年」掲載作は6ページか8ページの偶数連載なのでズレが少ないのですが、
B5「少年」掲載作は7ページの奇数連載なので、
1話置きにズレてしまっているのです。

まあ、律儀に見開きを守ってしまうと、
その分総ページ数が増えてしまいますから、
本を厚くしないためにも仕方ないのかな?と思いつつ、
欄外のあおり文句が本のノドに来ないよう、
見開きがズレた回については左右を入れ替えているのに気づいてしまいました。
ということは、見開きがズレているのは確信犯ですね。

この修正はアリなんですかねえ??

できることならば、私も見開きはそのまま収録してほしかったです。

それでも50年代手塚治虫の絵は本当に素晴らしく、
観ているだけでため息が出ますね。

初めての書き込みで長文、失礼しました。

Posted by: 山 | September 29, 2009 01:10 AM

けいらくさま、山さま、コメントありがとうございます。
確認しました。ご指摘のとおり今回の復刻では「見開き」を無視して、さらにかなりのページでハシラのアオリ文の位置を変更していることがわかりました。見開き2ページをひとつの単位として認識している現代のマンガ読者としては、かなり不満に感じるところですね。

Posted by: 漫棚通信 | September 29, 2009 08:54 PM

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