限りなく大きなテーマ『ZOOKEEPER 』
青木幸子『ZOOKEEPER 』が全八巻(2006年~2009年講談社、各514円~533円+税、amazon、bk1)で完結しました。最後まで全力で走りきりましたね。
同じ講談社「イブニング」の『もやしもん』も最初は、菌を見る超能力を持った主人公が農大でおこる珍事件・難事件をたちどころに解決! という設定だったのでしょうか。最近は主人公のカゲがすっかり薄くなってますねー。
『ZOOKEEPER 』も似た設定で始まりました。温度を目視する超能力を持った動物園の新米飼育員(♀)が、動物や人間たちのさまざまな事件をその能力で解決してゆく。
ただしこの能力、ずいぶん地味でして、要は赤外線カメラ/サーモグラフィみたいなもの。主人公の能力でハデな結果を得ることもたまにありますが、通常は動物の病気を早期発見したり、ヒトがウソついてるかとか怒ってるとかを判断できるぐらい。まあ言ってみれば「観察力が鋭い」程度の能力です。
主人公が観察力を発揮して問題点を明らかにするのですが、実際に問題を解決するのは彼女の能力というより、登場人物たちの知識と知恵の結集によります。各エピソードのお話がおもしろいだけでなく、この解決法がすがすがしい。
いかに動かないコアラの人気を上げるか。発見されたオオタカやヤマネをどのように保護するか。動物園でチーターを全力疾走させられるか。チンパンジーの群れのボス争いをやめさせられるか。
本作は動物をテーマにした作品であるのに、人物描写がすばらしい。個性豊かな飼育員たちのキャラクターが陰影深く描きこまれています。なかでも名物園長であるクマ園長は、そとづらは良いのに職員にはキビシく、腹芸多く清濁を合わせ飲むけど芯の通った動物園哲学を持つ人物、というチョー複雑な人物造形で、このひとを眺めてるだけで楽しいったらありません。
そして動物園を舞台にするからには、作品のテーマは限りなく大きなものになります。
動物園は娯楽施設なのか、研究施設なのか、教育施設なのか。動物園の存在意義とは何か。人間と野生動物の共生が動物園という形でなされてよいのか。そもそも動物園は必要なのかという問い直し。まさに真っ正面からの挑戦です。
ヒト/動物は動物を食べて生きる。ヒトそして動物は死んで土に戻る。生きるとはどういうことか。命とは何か。これを考えさせる作品なのです。
そもそも「動物園」は「命の博物館」そのものなのだ
本書では動物園とはこのようなものであると宣言されます。
深遠な問題提起とすぐれた娯楽作品が両立。渾身の傑作でした。
Comments
こちらの記事を読んで「ZOOKEEPER」全巻購入し、面白さに震えながら読みました。面白い漫画との幸福な出会いに感謝いたします。
Posted by: bata64 | October 12, 2010 01:11 PM
実際に、ある種類のペンギンは自然生息数に匹敵する数が日本国内で飼育されている。
なんとUSA国内には1万5千頭の虎が人工飼育されている。これは自然生息数より遥かに多い。
ZOOKEEPER篇中に登場する「イリエワニ」はかつて鰐皮製品の原料として大量に捕獲され、生息数が激減。保護されて30年を経た現在、河川内にテリトリーを持てない程ワニが増えて、若いワニが100kmくらい泳いで、沖合いの島や人間にいる砂浜や港湾に現れるようになった。
考えさせられますヨ。
Posted by: トロ~ロ | July 29, 2009 11:19 PM
動物園と言うと「実存型データベース」というか…。『風の谷のナウシカ』の最後の方に出て来る、人型のヒドラの守る(世話している)、一種の「火の7日間」の前の世界の記憶装置(メモリー)を思い出してしまいます。
いつか動物園も植物園も水族館も、そんなになっちゃいそうで心配ですね。
Posted by: woody-aware | July 29, 2009 08:43 PM