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July 08, 2009

メビウスのこと

 「ユリイカ」2009年7月号「特集・メビウスと日本マンガ」(青土社、1238円+税、amazon)を買ってきて、ひと晩で読んでしまいました。おもしろかった!

ユリイカ2009年7月号 特集=メビウスと日本マンガ

 タイトルどおり、メビウス本人の仕事と、日本マンガに対する影響を多方面から解明しようと試みた特集。あと、先日メビウスが来日したときの講演の記録です。あれは日本マンガにとってもみずからを見直すいいきっかけになりましたねえ。

 個人的には竹熊健太郎氏による、劇画が袋小路に入りマニエリスム化→新しい絵としてメビウスのブーム、という解説がツボに入りまくりでした。あと原正人氏による「ブルーベリー」シリーズの解説がありがたいったら。

 なんにしてもメビウスという作家は日本でもあれほど有名なのに、雑誌で紹介されたのは別にして、単著として邦訳されたのはこれまで一回きりでした。ですから日本読者は、メビウスのことを知ってるような知らないような。

 日本ではマンガは「読む」ものであって「見る」ものではありません。「物語性」という部分が希薄な、あるいは難解なメビウス作品は、日本人にとって相当にキツイのです。

 今回邦訳されたメビウス『B砂漠の40日間』(2009年飛鳥新社、5000円+税、amazon)にしても、下描きなし、モノクロ線画の一発描きという、奇跡のような本ではありますが、1ページヒトコマ。連続したコマからなんらかのストーリーを読みとるのはたいへん困難。

B砂漠の40日間

 つまりマンガを「読む」ようには読めないのがメビウス作品です。

 日本でメビウスに衝撃を受けたのは、読者よりもマンガ家だった、と今回の特集でくり返し語られています。日本読者は、メビウスに影響された大友克洋、谷口ジロー、藤原カムイ、宮崎駿、そしてバロン吉元(←このことはユリイカの特集で初めて知りました。そう言われれば、なるほどそうだよなあ)らをとおしてメビウスを見ていたことになります。

 日本マンガの変革はメビウスの影響を無視しては語れない、ということなのですね。

 さて、わたし自身のことを書きますと、わたしも他の多くの人と同じように、メビウスのことはツルモトルームから発行されていた旧「スターログ」誌で知りました。

 「スターログ」誌はスター・ウォーズ以後の海外のビジュアルSFを紹介する雑誌でしたが、当時のニューウェーブマンガはSFと親和性が高く、マンガやイラストについての記事も多かったのです。幸い今も書庫に全冊そろってます。

 この「スターログ」誌がメビウスを精力的に紹介しました。

 そしてルネ・ラルー監督がメビウスの絵を動かしたアニメーション映画「時の支配者」(1982年製作)が1983年日本公開され、その後1986年になって講談社がメビウス作品を刊行しました。

 「アンカル」シリーズの第一巻『L'INCAL NOIR 』の邦訳です。「アンカル」シリーズは当時まだ完結していませんでしたからなかなか意欲的な出版。邦訳されたメビウスの書籍として『B砂漠の40日間』以前では唯一のものです。『謎の生命体アンカル』というタイトル、「コミック界のニューウェーブ ヨーロッパベストコミック」というシリーズ名でした。

 オビを書いてるのが手塚治虫でして、「日本につぐ第二のマンガ大国、フランス。そのコミック集成は日本の一部の人々にとって秘められた宝だった。今こそ、その宝が全国のヤングの所有物になる。こんなすばらしい宝物はないと思う」

 でもねー、当時のヤングであるわたし、このメビウス作品買いのがしてるんですよ。このとき講談社は大判でハードな表紙、カバーなし、オールカラー、というBDのアルバムタイプの本を四冊同時に出版しました。ほかのはタンブリーニ/リベラトーレ『ランゼロックス』、ブルジョン『風の漂流者 館長室にひそむ女』(各1900円)。

 あと『時の支配者メイキングブック&アニメコミック』というのも出してて、これだけ3500円とお高い。これはメビウスによるストーリーボードや設定資料、インタビューなどをいろいろと収録したもの。アニメーションの画面をマンガふうに再構成した、いわゆるアニメ・コミックがついてました。

 こんなのまで持ってるわたしが、なぜ『アンカル』を買わなかったのか自分でもよくわかりませんが、おそらく単に近所の書店になかったのでしょう。

 当然、といってはなんですが、講談社のこのシリーズは続いて刊行されることはありませんでした。

 1980年代、洋書はまだまだ遠い存在でした。わたしのような一般読者が次にメビウスのマンガを読むのは、ずーっと間があいて1996年、小学館プロダクションが出したアメコミ雑誌「マーヴルクロス」1号にメビウス版「シルバーサーファー」が掲載されたときになります。

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Comments

ごめんなさい。映画は1982年製作、1983年日本公開。書籍は1986年発行ですね。修正しました。

Posted by: 漫棚通信 | July 12, 2009 12:43 PM

>アニメーション映画「時の支配者」が1982年日本公開されたとき、講談社がメビウス作品を刊行しました。

『謎の生命体アンカル(アレクサンドロ・ジョドロブスキー=ストーリー)』講談社は、1986年4月の刊行なので公開時というのには無理があるのでは?

Posted by: SHIN | July 12, 2009 07:32 AM

メビウスについては名前だけは知っていたものの、作品を読んだこと無いと言う状況が長かったですね。
僕もマーベルXの「シルバーサーファー」を読んで凄い!と思ったのですが、後にジャック・カービーの「ファンタスティック・フォー」の同エピソード(シルバーサーファーとギャラクタス登場の回)を読んでこっちの方が凄い!と思った記憶があります。
もっともこれはメビウスとカービーの差というより、原作を手掛けたスタン・リーの要素が大きいようですが。

Posted by: 小覇王 | July 10, 2009 07:59 PM

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