「その他大勢」などない『シンプルノットローファー』
衿沢世衣子『シンプルノットローファー』(2009年太田出版、900円+税、amazon、bk1)は、何度も読み返してしまいました。
「モンナンカール女子中等学校/高等学校」に通う女子高生たちの日常を描いた連作短編集。
それぞれのエピソードは、のったりまったりした、なんということもない日常の風景ですが、登場人物たちがみな、何かをなそうとしているのがすがすがしい。こういうのこそ人生において大切な一瞬なのだなあ、とオッサンは思うわけです。
ただしこの作品で少しおどろいたのは、別のところ。
この連作短編の各編では、中心となって描かれるキャラクターがつぎつぎと交代していきます。つまり全作をとおせば、クラス全員が主人公。
ですからあるひとつのエピソードでは、そのあたりを歩いてる人物、背景のはしっこで走ってる人物、教室の隅で話している人物であったりしても、すべてにちゃんと名があり、他のエピソードでは主要登場人物となるのです。
巻末にはクラス26人の一覧があって、名前、あだ名、部活動、今好きなコトが描かれています。ですからここを参照しながら、各エピソードを読み直しますと、各コマで、あ、これはコイツだ、あれはアイツだ、そんなところで何をしている、という発見があります。
クラス全員をきちんと描きわけようとしているマンガ、なわけですね。このマンガからは「その他大勢」などはないんだ、という主張が聞こえてきます(ただし絵がちょっとつたないから、実際に描きわけられているかどうかは微妙ですが)。
最近はこういうすみずみの人物まで気をくばった作品がめだちます。武富健治『鈴木先生』も、きっと同じようなことをやってます。ひぐちアサ『おおきく振りかぶって』やコージィ城倉『おれはキャプテン』なんかも、ちょっとしか登場しない相手チームのメンバーまで設定が決められてそうだなあ。
これは愛。マンガに対する、キャラクターに対する愛。というわけで、本書はマンガ愛にあふれた作品でありました。
学校名のモンナンカール Mont Nancarlle とは、なんか山の名前みたいですが、検索しても不明。
あと、物語中で彼女たちが遊んでいるカードゲーム「Kaker Laken Poker」とは、これです。トランプゲームの「ダウト」に似てて、性格が悪い人間が勝つゲームのようですね。
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Comments
モンナンカールを縮めて「モナカ」みたいですよ。ランニングのとき「モナカー、イチニ、イチニ」とか言ってます。
Posted by: 漫棚通信 | June 07, 2009 03:42 PM
連載時は「天心モナカ」というタイトルだったので、そこからきてると思います。なんでモナカ?と言われるとわかりませんが……
Posted by: polytope | June 07, 2009 02:43 PM
イザヤ・ベンダサンは日本人だ
なぜなら「いざや、便、出さん」だから
と喝破した遠藤周作先生に乾杯!
Posted by: JSP | June 06, 2009 03:56 PM
なるほど!
Posted by: 漫棚通信 | June 06, 2009 12:12 PM
学校名は「何かあるモン」じゃないかと想像してるんですが、いかがでしょうか。
Posted by: ウチダ | June 06, 2009 08:42 AM