虫プロ全史となる予定『小説手塚学校』
皆河有伽『小説手塚学校 日本動画興亡史 1巻 テレビアニメ誕生』(2009年講談社、980円+税、amazon、bk1)読みました。
うーん、これはおもしろい。
手塚治虫が設立したアニメーション製作会社虫プロダクションが、いかに始まり、そして終わっていったかを書いた長編。第1巻は手塚が東映動画「西遊記」に参加するところから、虫プロを設立し、TVアニメ「鉄腕アトム」放映が開始されるところまで。
もちろん手塚治虫は主要登場人物ですが、群像の中のひとりという扱いで、日本アニメ草創期にたずさわったひと、多くが主人公。
「小説」とありますが、登場人物たちの行動や発言はその出典が細かく記載されてます。全編これリファレンスでできたような本です。
いわゆる研究書と異なるのは、著者自身が関係者にインタビューなどをしてるんじゃなくて、ほとんどをありものにたよっているところ。膨大な量の書籍、雑誌、ムック、新聞記事、DVDの付録、テレビ番組、Web上のインタビューなどにあたって、これらが再構成されています。
「小説」ですから当然、登場人物が大声で怒鳴りあったり、内心では○○と感じたりしますが、こういう部分は意外にも少ない。
「虫プロ」と命名したら「蒸し風呂」=「トルコ風呂」とまちがえられた、という笑い話があって、これおそらく手塚先生、ギャグとして言ってます。本書ではこれを事実として書いてあったりしますから、そのあたりは注意が必要ではあります。
また手塚自身が自伝で書いている、アトム制作費一話55万円という有名なエピソードがあります。スポンサーから一話120万円を提示されたのに、手塚のほうから55万円にダンピングした、という伝説です。
これがアニメーターの待遇を悪くさせたと、後年まで手塚が非難される理由のひとつになったのですが、津堅信之が『アニメ作家としての手塚治虫』(2007年NTT出版)のなかで、「ホントは一話155万円であった」説を紹介、検証しました。
本書ではこれを採用して、手塚は55万円と思ってたけど彼の知らないところで155万円になっていた、という展開になっています。これも小説ならばぎりぎりOKの部類でしょう。
あらためて本書のように再構成して整理されたTVアニメ草創期のお話を読みますと、よくもまああの当時に一話30分のアニメを毎週TVで放送できたものだと感心します。
すべては手塚治虫の無知、無謀、無茶から始まっているのですが、これをホントに実現してしまう、手塚および周囲のひとびとの熱気と情熱は、尋常のものではありません。
第2巻「ソロバン片手の理想家」も、もうすぐ発売されるようです。多士済々の才能が集まり、全盛期へ。その後虫プロは崩壊していくことになるのですが、その経緯も知りたい。出版されるのが待ち遠しいぞ。
あ、ちなみに書影の題字を書いてるのは、平田弘史です。
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